医学界新聞

寄稿

2008.07.14



【寄稿】

外来管理加算「5分ルール」を考える

岩崎 靖(小山田記念温泉病院 神経内科)


 本年度の診療報酬改定において,外来管理加算にいわゆる「5分ルール」という臨床の現場を混乱させる条件が加わり,議論となっている。「3分診療」という表現が粗雑な診療をイメージしてマスコミや一般で使われてきたが,時間の目安だけで「5分以上かけなければ十分な診療とはみなさない」とする新たなルールは,医療の現場を無視したものと言わざるをえない。

 日常診療において適切な病歴聴取,身体診察が求められることは今までと何ら変わりはないが,あえて「5分以上」という時間的規制を設けることにどのような意味,利点があるのだろうか?「1時間に最大12人しか診られない」から「1日当たりの受診患者数が限られ,医療費抑制につながる」との意見もあり,医療現場の無視もはなはだしい。診察室内で患者と5分以上対面することが外来管理加算の必須事項となれば,診察が滞り,今まで以上に患者を待たせる事態になることは明らかである。

 また神経内科領域では「神経学的検査料」が新設された。神経診察の現場と解離している「専門医による神経学的診察の技術料」の算定基準についても,臨床の現場から意見させていただきたい。

診察前後も大事な診察時間

 「5分ルール」における「診察を行っている時間」の定義は,患者が診察室に入室した時点を診察開始時間,退室した時点を診察終了時間として算出するとのことである。つまり,世間話をしようが,不必要に患者の服を脱ぎ着させようが,意識障害の患者をベッドに寝かせておこうが,診察室内に5分いればいいのである。つまり「診察室内5分ルール」であり,次の患者を診察室に入れて待たせておいて,前の患者の記録をカルテに記載していてもいいとさえ思える。

 臨床の現場では,患者を呼び込む前に,初診であれば問診表や紹介状を読んだり,患者背景,他科受診歴,投薬歴を確認し,再診では前回までの経過や投薬内容を確認したり,検査結果を確認してカルテに記載するという準備時間がある。患者が退室してからも所見をカルテに記載し,検査伝票を書いたりする。診療計画が煩雑になる場合や,経過が長くなりカルテの記載事項が多くなるときは,簡単にメモ程度に書いておき,外来診療終了後に整理して記載することもある。当然,これらも外来管理行為,診療の一部であり,「診察室内での時間だけが診療時間ではない」ということを強調したい。診療後のカルテの見直し,症状に関する文献の調査,専門医への紹介状の記載,主治医意見書など各種書類の記載も診療時間に加えるべきである。

「5分ルール」に対する当院の診療方針

 私の勤務する小山田記念温泉病院の外来診療は予約制であり,予約患者の間に新患,予約外再診患者を適宜入れて診察している。患者の状態によって診察順が前後することもあるが,このスタイルは「5分ルール」導入前後で変わっていない。本年4月以降,外来診察室にストップウオッチが置かれ,外来診察に就く看護師が各受診患者のカルテに入室時間と退室時間,診察時間を記入するようになった。

 私は4月当初のみ「5分」という時間を意識して診察したが,無理に診察を長引かせるのはこちらが苦痛であるだけでなく,予約患者の診察も遅れて待ち時間がどんどん長くなっていった。「これではいかん」と,最初の外来の午前中で「5分」を意識するのをやめた。その後は今までの診察と何も変わることはなく,現在まで患者ごとの診察時間は長くなっていなければ,短くもなっていない。診察後に見てみると「5分は初診患者や状態に変化のあった患者では非常に短く,状態に変化のない再診患者では非常に長い」ということを感じている。

 他科の医師も同様に感じたようで,4月最初の医局会で当院の診療方針として,「必要な診療をして,必要がなければ5分以内でも診察を終了する」というスタイルでかまわない旨が院長より通達された。現在もストップウオッチで診察時間を計る体制は継続し,5分以内の場合は外来管理加算を算定していない。当院の「5分ルール」に対する対応は非常にまじめで良心的であると思うが,どの程度の減収,減益になったのかは聞いていない。他院に勤務する医師に聞いたら「うちの病院は計ってないよ」とか,「全例で加算しているみたいだよ」という返事が多かった。

神経内科医の立場からみた「5分ルール」

 神経内科における各患者の診察時間は非常に長いと思われているが,全例で毎回詳細に神経所見を取るわけではない。状態をよく把握している神経変性疾患の患者であれば,特に患者の訴えがなく,症状の変化もなく,同じ内容の投薬であれば,必要な神経学的診察に5分はかからない。「特に変わりないようですから,いつもの薬を出しておきます」で患者も満足し,今まで外来管理上も何ら問題はなかった。神経変性疾患の患者は通院だけでなく外来で待つことも困難であり,症状が安定していればなるべく待たずに早く薬をもらって帰りたい人は多い。世間話で時間をかせぎ,間が持たないので余分な検査を予約すると,満足どころか逆に不信感を持つかもしれない。話好きな医師であれば雑談の時間が増えて喜ぶかもしれないが,私を含めて多くの医師は嫌になってくるだろう。

 勤務医としては病院の売り上げには貢献しなければならないので,外来管理加算は診察時間に応じて適切に算定するようにはしている。しかしながら売り上げ貢献のためなら,頭部MRIやMRA,脳血流シンチグラフィをオーダーするほうが何十倍も売り上げることになり,「検査をしてもらえた」と患者も満足するかもしれない。実際,丁寧に病歴を聞いて,神経学的診察をして「異常ありません」と説明しても,「何も検査してもらえなかった」と苦情が来ることもあれば,問診表だけみて病歴聴取もせず,身体所見も取らずに頭部MRIだけ施行しても,「十分に検査してもらえた」と感謝されることもある。

 「神経学的診察のスクリーニング法はない」とはよく言われる言葉だが,「的確な問診をすれば,神経学的診察の前に神経疾患の8割は診断がつく」のが現実である。時には,診察前に問診表からほぼ診断をつけることができる。われわれ神経内科医は,専門外の医師が神経...

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