医学界新聞

2008.07.07



MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


誰も教えてくれなかった診断学
患者の言葉から診断仮説をどう作るか

野口 善令,福原 俊一 著

《評 者》上野 文昭(大船中央病院特別顧問・消化器内科)

すべての臨床医に「考える診断学」の科学的論証

 「臨床疫学」という言葉の響きから,いまだに何やら伝染病などを扱う学問と思い込んでいる読者はおられないだろうか。もしそうであれば,すべての臨床医がいつでも,どこでも,誰にでも必要な知識であることに早く気付いていただきたい。

 このたび医学書院より上梓された『誰も教えてくれなかった診断学――患者の言葉から診断仮説をどう作るか』に目を通し,この認識が誤りでないことを再確認した。共著者の野口・福原両氏は,評者の最も信頼する内科医である。二人とも北米での内科研修で得た優れた臨床技能を,さらに臨床疫学を学ぶことにより科学的に磨きをかけ,現在わが国の臨床・教育・研究の各分野で活躍中である。過剰検査が当たり前のわが国で,これまでほとんど学ぶ機会のなかった正統派診断学を,今ここで二人が教えてくれている。

 一読すると理詰めの表現に少し堅苦しい印象を覚えるかもしれない。しかしこれこそが過去,現在,そして未来に共通する診断学の王道にほかならない。早い話,評者が30年以上前に米国で研修中に,優れた指導医たちから学んだ手法がこの中にある。当時は臨床疫学も知らず,またEBMという概念すらなかった。彼らから教わった「考える診断学」が単なる経験的技能ではなく科学的に正当であったことを,本書は見事なまでに論理的に証明してくれている。

 医療のグローバル化が急速に進行する中,ようやくEBMの普及により科学性を有しないドメスティックな治療が衰退しつつある。けれども診断学を振り返ると,何も考えずにともかく検査しておこうという旧態依然たる手法が主体の鎖国状態が続いている。幸い初期研修義務化の恩恵で,優れた臨床医の下で若い医師が患者をよく診て考える習慣が身につき始めているように思える。一歩進んで,効率よく手際よく科学的な診断を進めるために役立つのが本書である。

 分かりやすい構成,図表やイラストを多用した表現などから,本書は比較的若い医師層を読者対象として想定しているように思える。その意図どおり,臨床経験の浅い研修医や臨床実習中の医学生には必読の書である。さらに研修医や医学生を指導する立場にある医師にも必ずお読みいただき理解していただきたい。そして経験深い臨床医諸氏は,ご自分が身に付けた診断学に誤りはなかったか,たとえ正しかったとしてもそれはなぜか,という観点でお読みいただければ幸いである。

 逆に本書があまり役立たない読者対象を想定してみた。よい指導医の下で正しい診断学を身につけ,さらにSackett著“Clinical Epidemiology”などを通読し臨床疫学を熟知している臨床医,すでに診療現場に出る意欲のなくなった臨床医。医療は生活の糧と考え,よい診療を通じて社会に貢献しようという気概をまったく持たない臨床医などが該当しよう。このような臨床医は極めて少ないはずである。

 その豊富な内容と得られる知識の大きさを考えれば,価格設定はまさにバーゲンである。少しだけ贅沢な外食を1回我慢するだけでよい。200頁の本を読む時間がないという理由は当てはまらない。週末の旅行やゴルフを1回我慢すればよい。いくら多忙な臨床医といえども,これぐらいの経済的・時間的余裕がないはずはない。本書を通読することは,すべての臨床医の患者に対する責務と考えたい。

A5・頁232 定価3,150円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00407-7


JJNスペシャル
救急ケア最前線
知っておくべき救急初期対応

箕輪 良行 編

《評 者》山中 克郎(藤田保衛大准教授・一般内科/救急総合診療部)

救急研修中の研修医にも勧めたい一冊

 私が心から尊敬する箕輪良行先生の編集と聞き,ワクワクしながら本書を読んだ。皆さんもよくご存じのことと思うが,箕輪先生は救急医療の第一線で活躍し,教育や患者・医師関係にも熱い情熱をお持ちの先生である。

 まず執筆者の顔ぶれがすごい! 救急の現場で働く若手や超一流の指導者によって「プレホスピタルケア」「ER」「ディスポジション」の順に,救急医療最前線の様子が解説される。色彩を効果的に用いた分かりやすいイラスト,ふんだんなカラー写真,重要点を効果的に示す表の挿入は,作り手のセンスの良さと教育にかける熱意を感じる。

 特に「気道異物除去」「トリアージナースとプロトコール」「セカンダリーABCD 院内で患者が急変したら」「同期,非同期って何だ?」「プライマリー・サーベイとFAST 外傷患者の初期診療」「Killer Diseaseを見逃すな!」「帰宅時リーフレット」「新しい創傷ケア」の記載は分かりやすく実用的だ。

「う~ん あるある こんなこと!」
「へー こんなふうに対処すればいいのか」

 読み進めながら,思わずニンマリ声が出て...

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