医学界新聞

2008.06.30



MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


USスクリーニング

竹原 靖明 監修・編集
熊田 卓,桑島 章,竹内 和男,田中 幸子,遠田 栄一,安田 秀光 編

《評 者》木村 邦夫(千葉社会保険病院健康管理センター長・消化器病学)

マクロ病理から診断まで必要な要素を網羅した名著

 US(超音波法)によるスクリーニング検査に携わる者に求められるのは,診療のニーズに十分に応える診断と情報を提供できる技術と知識である。知識には,USで診断可能な個々の疾患の概念と,画像の成り立ちをもたらすマクロ病理や局所解剖,さらには疾患の診断基準などの要素が含まれよう。しかも,USで診断可能な疾患は多岐にわたり,多彩であり,疾患に付随する所見まで含めるとあまりにも広範である。それゆえ,1冊でそれらの全要素を満たすスクリーニング書の出版が待たれた。

 今回,出版された『USスクリーニング』はまさにそれらの要素を満たす本と言えよう。今後は,本書と同じ竹原靖明氏が監修されマニュアル本として広く読まれている『日本医師会生涯教育シリーズ 腹部エコーのABC』とともに,この検査に携わる人々はもとより,診療に関与する多くの人々に読まれるに違いない。

 本書を監修された竹原靖明氏は広く知られているとおり,今日のリアルタイム装置による超音波の開発に貢献されたのみならず,ご研究の傍ら超音波検診の普及に邁進され,技師や看護師,医師の教育・訓練に率先して取り組んで来られ,USを「第二の聴診器」と言われるまでに普及させた方である。その妥協を許さない真摯な歩みの過程で,「スクリーニング」に求められる諸要素を深く追求してこられたことが,本書の出版を可能にしたことは言うまでもない。さらに,各分野で第一人者であられる編集者と執筆陣が,監修者と同じ考えで各項を意味深く,しかも簡潔にまとめ上げている。

 まず,冒頭のカラー刷り病理マクロ像は本書の特徴の1つである。明瞭なマクロ像は超音波像の成り立ちの理解に大きく寄与する。これまでのスクリーニング本に見られない配慮である。さらに,第一章の「けんしん(健診・検診)の現状」は読者にスクリーニングとしてのUSに対する認識と熱意を刺激する資料となっている。とりわけ,USスクリーニングの対象臓器に関する諸統計は本書のめざす「がんの早期発見・診断」への道標である。次に基礎的な項の中で目を引くのは「超音波所見の書き方」である。実際の症例をサンプルとし,「けんしん」の結果が診療側に正確に伝達され,かつ還元されることに重きを置いた得難い内容となっている。

 さて,本論の位置にあるのは「対象となる疾患の病態(概念)と超音波画像」である。まずスクリーニング対象となるすべての領域を網羅してあることが読者にとってとてもありがたい。消化器実質臓器のほか,泌尿器,骨盤臓器(男性,女性),消化管,体腔液,腹部リンパ節,体表臓器(乳腺,頸部),血管系(頸部,腹部)が見事にB5判400頁のこの本に収められている。そして,各論は疾患概念からスタートして超音波所見に連なるスタイルを貫いている。疾患概念は極めて簡明な記述であり,コメディカルや研修医の読者には大きな助けとなるに違いない。超音波所見は同じ写真を再掲して解説するスタイルのため容易に理解が得られる。

 最後の章には疾患別の事後指導基準が扱われている。「けんしん」や人間ドックの関係者にとって,各種の診断や所見をどのように事後指導するのかは極めて重要である。なお,忘れてならないもう1つの特徴は,巻末の参考資料の中に対象臓器範囲のリンパ節解剖が付されていることである。検査の現場で頻繁に問題となるその局所解剖がスクリーナーにとってかゆいところに手が届く感を与える資料となっており,報告を受ける診療側にとっては治療に直結する貴重な資料となる。

 こうして,病理マクロから始まり,「けんしん」から診療に至る徹底したコンセプトによって成されたこの名著が,ともすると超音波を離れてしまいそうな多忙な若い研修医・臨床医たちはもとより,診療所や健診施設の医師,またスクリーナーである技師や看護師たちの必携の書となることを予感するとともに,確信を込めてそうお勧めしたい。

B5・頁472 定価7,350円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00433-6


標準整形外科学 第10版

国分 正一,鳥巣 岳彦 監修
中村 利孝,松野 丈夫,内田 淳正 編

《評 者》山内 裕雄(順大名誉教授・整形外科学)

ほどよく熟成された美酒

 1979年に上梓された本書もなんと30年目を迎え,第10版となった。書評を依頼され,第9版も横に置きながら一覧し,まさに熟成された美酒との観を深くした。どんな酒でも年を経さえすれば良くなるわけではない。最初に良質な酒があり,それを優れた環境下で手間暇かけて育まなくてはならない。本書は幸いにもそのような条件に恵まれてきたようだ。

 初版はよくできてはいたが,分担執筆にありがちなレベル設定の不均衡や項目の重複・脱落などがあり,横文字のミススペルも気になった。3年後に出た第2版の書評を書く機会があったが,これらの欠点は見事に改善され,薦められる教科書に変貌したと記した。そのころ,私は他社からの整形外科学教科書に分担執筆しており,学生に推薦してはいたが,本書第2版を見て一本取られたなと思い,潔くそれを学生への推薦図書としたものである。それは私の後任にも引き継がれ,現在に到っているようだ。

 その後,編集者は移り変わり,特に監修者が交代するたびにかなりの改変が行われ,めまぐるしい学問の進歩によく順応してきた。その間に医学教育にも大幅な変革が実施され,講義よりもbedside learningに重点が置かれるようになった。いわば覚えるよりも考えることが重視された。本書...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook