MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2008.06.09
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


国分 正一,鳥巣 岳彦 監修
中村 利孝,松野 丈夫,内田 淳正 編
《評 者》吉川 秀樹(阪大大学院教授・整形外科学)
待望の改訂,成熟した『考える整形外科学』
『標準整形外科学』の初版が出版されたのは,昭和54年である。同年,医学部を卒業し,整形外科に入局した当時,医学部学生,研修医向けの詳細かつ明解な整形外科テキストブックは,ほとんど出版されていなかった。同期で入局した整形外科研修医が全員,本書を携帯していたのを記憶している。
以後,医学部学生,整形外科研修医,理学療法士など運動器にかかわる多くの方に読み継がれてきている。この間,整形外学は急速な進歩を遂げ,それに伴い,本書も改訂を重ね,このたび,待望の改訂第10版が出版された。
主な改訂は,重複記載の削除,参照頁の添付,用語の統一,略語一覧や索引の充実がなされたことである。具体的には,「診療の手引き」「疾患一覧表」「各論各章の機能解剖」「Side Memo」「参照頁・関連頁」「別冊付録」「カラー写真・着色図」の各項目の見直し,補充がなされ,最新の知見を盛り込み,かつ,初心者にも見やすい教科書に成熟している。初版からの本書のキャッチフレーズである『考える整形外科学』をベースに,現代的にビジュアル感覚を重視し,カラー図,カラー写真をふんだんに盛り込んだ内容になっている。
中でも,「別冊付録:運動器疾患の診察のポイント(OSCE対応)」は,特筆すべき内容になっている。第9版では,「別冊付録:整形外科,臨床実習の手引き」が添付されていたが,図・写真がなく,細かい文字の文章が箇条書きに列記されている内容であったため,実用的ではない印象があった。今回の第10版では,1.運動器診察の実際,2.主訴,主症状から想定すべき疾患一覧表,3.局所診察,4.身体計測,5.関節炎の診察,6.皮膚感覚帯,7.歩容の観察,8.皮膚の観察,9.関節弛緩,10.関節運動の表現,11.筋力の判定基準,12.総合機能のチェック,13.救急,外傷診療のキーワードの13項目からなっており,いずれもカラー図表,カラー写真を多く取り入れた内容で,本別冊のみを白衣のポケットに入れていても,日常の外来診察,ベッドサイドでの整形外科臨床に大変有用である。医学部学生,整形外科研修医に広く活用されるものと思う。
一方,『標準整形外科学』は,日本整形外科学会専門医試験の受験者のためには必読の書である。実際には,専門医試験委員会での問題作成に当たり,本書を参照し,語彙の確認や問題の妥当性を確認している。また,多くの日本整形外科学会代議員が本書を参考に,新規問題を作成しており,今後もこの傾向は継続するものと考える。本書は,専門医として備えるべき知識と考え方を示しているとともに,専門医有資格者の知識の整理やさらなる研鑽にも有用であると考える。
近年,日進月歩に変化する整形外科学の情報収集に効果的かつ効率的な教科書であり,全国の整形外科教室,整形外科研修施設の収蔵図書として薦めたい。
B5・頁956 定価9,660円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00453-4


田中 和豊 著
《評 者》岩田 充永(名古屋掖済会病院・救命救急センター
脱「当たるも八卦,当たらぬも八卦診断法」
指導体制が十分ではない救急室(ER)で診療を始めたばかりの研修医の皆さんは,「とりあえず検査をして,異常値あるいは異常所見が見つかったらそこから病気を探していこう」という診療をしているのではないでしょうか? 田中和豊先生はこの診療方法のことを「当たるも八卦,当たらぬも八卦診断法」と紹介され,「検査値に異常がない=正常」あるいは「検査値が異常=診断が確定」と短絡的に考えてしまうことに警鐘を鳴らしておられます。
実際に,「食後に胃の辺りが気持ち悪かった」という訴えでERを受診し,血液検査でγ-GTPが高値であったので腹部エコーをすると胆石が見つかった。それで「ああ,今回の痛みは胆石発作ですね」と安易に診断して帰宅させようとしたところ実は不安定狭心症であった……など恐ろしい事件が全国のERで発生しています。最近の国内外の報告では,歩いてERを受診したのに重篤な疾患(killer disease)である割合が0.3%程度とされており,研修医の皆さんが1回の救急当直で歩いて受診する救急患者を5人診察すると仮定すると,月に5回当直を行った場合,年間に300人の救急患者を診察することになり,年間に1人はそのような症例に遭遇することになります。
田中先生の前著『問題解決型救急初期診療』および本書は,このような「当たるも八卦,当たらぬも八卦診断法」あるいは,胃の痛みと嘔吐があるから急性胃腸炎・ というような「直感的診断法」に頼らざるを得ない救急診療初心者で,十分な指導を受けることもできずに途方に暮れている研修医の助けとなる良書であると確信しています。具体的には,救急室を受診した患者の主訴に対して,『問題解決型救急初期診療』を参照して,そこに記載されている優れたジェネラリストの思考過程を学び,もし判断に迷うことがあれば具体的にどこで困っているのかを明確にして指導医に相談する(研修医の相談が漠然としており,何に困っているかがわからないためによいアドバイスができないという指導医も多いものです),そして検査計画を立案し,得られた検査結果に対して本書を参照し,プロの解釈方法を学びながら検討していくという診療を繰り返すことでERでの診療能力は確実に向上し,救急研修は格段に充実するでしょう。
救急診療の指導を十分に受けることができないと嘆いている研修医の皆さん・ 本来であれば救急患者さんを前にして,診断の思考過程や検査の解釈を教育することが真の指導医の役割なのですが,自らの反省を含め救急室にはそのような指導医はまだまだ不足しています(決して開き直りではありませんよ)。急病で苦しんでいる目前の患者さんは,田中先生のようなスーパー指導医の登場を待ってはくれません。患者さんの病歴を適切に把握できる能力を身につけ,田中先生の著書を参照しながら,具体的にどの段階で判断に迷っているのかを明確にして指導医に相談するというスタンスで救急診療の能力を磨いて下さい。そして決して救急を嫌いにならないで下さいね。我々の世代も君たちと同じく田中先生の著書で一生懸命勉強しますから――。
B6変・頁544 定価5,040円(税5%込) 医学書院
ISBN978-4-260-00463-3


ギャーリー・キールホフナー 著
山田 孝 監訳
石井 良和/竹原 敦/村田 和香/山田 孝 訳
《評 者》小林 隆司(吉備国際大教授・作業療法学)
理論を実践に結びつけ実践から理論を作り変えていく
作業療法の臨床家にとって理論とは,“カーナビ”のようなものである。カーナビを持っていれば,見ず知らずの場所でも比較的容易にたどり着くことができるように,理論を身につけていれば,初めて出くわすような事例でも比較的容易に作業療法を展開することができるだろう。
もちろん作業療法の成果は,ある地理上の場所に到着すればよいといった単純な話ではないので,なるべく多くの理論を持っていたほうが有利である。ある時期のある状態の対象に適切であった理論が,違った条件下では不適切となることも,複数の理論を併用したほうが介入効果が高いということもあろう。
そのような意味で,本書の第2部を読めば,実践に必要なモデルを同じ形式で並列して紹介しているので,各モデルを客観的に比較・考察することが可能となり,複数の理論をうまく使いこなすための近道となるに違いない。
ある研究会グループに属していると,すべての事象をそこで扱っている理論のみで説明してしまうことがよくあるが,目前の対象者に最良のものを提供するために,ぜひ,第2部と第3部を自分の臨床手法と比較しながら読んでもらいたい。
さて,熟練した運転手が慣れた道を走るのにカーナビは必要ないし,ひょっとしたらカーナビを使うことでかえって遠回りになる場合もあろう。私も,カーナビの示さない近道を走りながら,機械に対する優越感に浸ることがよくある。しかしある時,その優越感を覆す事態に遭遇した。カーナビがその近道を「学習しました」と宣言したのである。そうなると近道は自分だけの近道ではなくなる。妻が使おうが親が使おうが,その道で行けるのである。このことは,作業療法臨床でいえば,熟練した作業療法士は理論というものをあまり必要としていないかもしれないが,彼らが理論を用いることによって,彼らの実践が理論の再構築に寄与し,多くの若き作業療法士の臨床の質を上げることにつながるということに等しい。
本書で...
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