MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2008.05.12
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


中村 健一 著
《評 者》伊藤 澄信(国立病院機構本部)
不安を興味に変えてくれる一冊 皮膚疾患を診るためのコツが満載
自分が医学生のころ,脂漏性皮膚炎を患っていたことがある。左頬部にできた,時々悪化する皮疹が皮膚科のテキストをみてもわからずにいたことを思い出す。通常の教科書は疾患の頻度に応じて記述の順番や量が配慮されていないために,初学者が診断にたどり着くのは容易ではない。この本があれば悩まずに済んだのに,と思う。
通常の皮膚科の教科書は疾患の頻度を無視して記載してあるので,目の前の患者さんがどの疾患なのかを判断することは容易ではない。プライマリ・ケアに必須なのは頻度の高い疾患の診療と見落とすと致命傷になる疾患の初期対応である。本書のすばらしさは,遭遇する頻度の高い皮膚疾患とその対応策が述べられていることにある。特に,稀でも落とし穴が隠れている場所と対応策を重点的に書いてある本なんてそうざらにあるものではない。
「皮膚科診療は立会勝負である」と著者はいう。皮膚の異常は誰にでも見えるし,良くなったのか悪くなったのかわかるからごまかしがきかない。そのため上手に保険(診断がはずれてもトラブルにならないようにするための患者さんへの説明)を掛けないととんでもないことになってしまう。本書には,著者の痛い経験からできた対処法や説明が随所に散りばめられている。失敗に基づいた説明は説得力が違う。それに加えてきれいな写真の数々。通常のアトラスであれば典型例が1つ例示されているだけであるが,本書では疾患のバリエーションをきれいな写真で提示している。皮膚疾患を理解するのに最適な方法だろう。
本書には汗疱,蕁麻疹,アトピー性皮膚炎,しみ・ほくろ,脂漏性皮膚炎,ジベルばら色粃糠疹,尋常性疣贅,とびひ,毛虫皮膚炎,ジアノッティ症候群,足白癬,単純ヘルペス,疥癬,痒疹,癖による皮膚炎,おむつ皮膚炎,尋常性挫創,褥瘡,靴源病,薬疹,ステロイド酒・905b・について記載されており,これだけ知っていれば皮膚科の診療もできそうな気さえする。もちろんスタンダードな教科書ではないので皮膚科の総論や基礎的な事項は書いてない。教科書には書かれていない,実際の臨床をやっている人だけが知っている診療のコツが満載なのだ。本書一冊で皮膚科診療ができるわけではないし,皮膚科のトレーニングの代わりになるとは言い難い。しかし,通院中の患者さんに皮膚疾患が出てきた時の不安を,興味に変えてくれる一冊であることは間違いない。
全体を読み終わってから冒頭の総論を読み直すと,著者の思いが伝わってくる。皮膚科は結果が患者さんにもわかるので,患者さんとのコミュニケーションが大事だということである。コミュニケーションをサポートするために,各疾患ごとに記載されている患者さん向けの説明文書「For Patients」は秀逸である。「For Patients」は患者さんへの説明というより,むしろ一般医が知っておくべきエッセンスの凝縮である。
付録として「現場で使えるデジカメテクニック」がついている。これだけきれいな臨床写真を撮るコツまで披露してしまう著者の気前のよさは,「言葉の罠と落とし穴」に記載されている失敗談からもわかるように,ストレートな診療理念を持つゆえだと思う。
本書が内科診療所に出回ってしまったら,皮膚科診療所に行く患者さんが減ってしまうのではないかと心配してしまうほどの出来のよさ。まさに目からウロコの皮膚科診療極意書である。
A5・頁208 定価4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00506-7


渡邉 英夫 著
《評 者》川村 次郎(日下病院名誉院長)
脳卒中リハビリテーション・チーム すべてのスタッフに役立つ実用書
渡邉英夫先生がこれまで長年にわたり装具についての紹介や解説を,学会誌『リハビリテーション医学』や『日本義肢装具学会誌』,臨床雑誌『総合リハビリテーション』などに,またリハビリテーションや装具に関する単行本に数多く執筆されていることは周知の通りである。また独自に創案された「すぐ装着できる下肢装具」もよく知られている。本書はその渡邉先生が脳卒中の下肢装具についてまとめられたハンディーな実用書である。
脳卒中の下肢装具の種類は実に多種多様で,脳卒中リハビリテーションや装具の専門家でさえも,各装具がどのような構造の装具で,その機能や特徴が何なのかを直ちにイメージするのは容易ではないのが現実であろう。かつて評者は脳卒中の下肢装具の構造や特徴をまとめた一覧表はないものかと数多くの単行書を参照したが見つけることができず,自ら作成しようと内外の数百のオリジナル論文の収拾と整理に随分苦労した経験がある。数多くの下肢装具の中から目の前の脳卒中片麻痺患者に最適の装具を選択するのは,脳卒中リハビリテーションに従事する医師にとっても容易ではないのである。
医療に関する権限と責任は医師にあるのが原則であり,装具の公的給付においても法制度上は医師に任されているのである。しかしながら実際の臨床場面では,医師以外の理学療法士,作業療法士,義肢装具士,看護師,医療ソーシャルワーカーなどが参加するチームの合議によって装具の処方内容の選択が行われることが多い。また療法士や義肢装具士,看護師,ソーシャルワーカーなどが処方された装具について患者や家族に説明する際にも困難を伴うものである。
本書には現在使用されている脳卒中下肢装具のほとんどすべての種類について,著者が学会での商業展示などで実物を見たり,入手したパンフレットや私信で尋ねた内容を基に著者の経験や考えを加えて,しかも美しいイラストと実物の写真を示して各装具の機能などがわかりやすく説明されている。そのため,この一冊を手にするだけで脳卒中の病態から各装具の特徴と機能に合わせた選択法を理解し,実際に処方や説明をするときに役立つであろう。特に脳卒中に処方されることの多い短下肢装具(AFO)につ...
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