脳卒中の下肢装具
病態に対応した装具の選択法

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装具療法の中で、脳卒中に対する短下肢装具療法は一般的なものであるが、装具の種類が多く(約30種類)、かつ患者の病態もさまざまであるため、そのフィッティングは容易ではない。本書では、著者が長年培ってきた病態の把握と装具の適応の妙案を完璧にまとめている。脳卒中患者の歩行において何が問題となっているのかを把握したうえで、それぞれの下肢装具の特徴と機能(素材、継手、向き/不向きなど)に合わせた適合を、一通りマスターすることができる。
渡邉 英夫
発行 2007年11月判型:B6変頁:208
ISBN 978-4-260-00518-0
定価 4,180円 (本体3,800円+税)
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渡邉 英夫

 脳卒中片麻痺患者に下肢装具を処方することは多い。しかし装具のベストな選択は他の疾患の装具処方より難しいと考えられる。それは脳卒中の病態が多彩であるうえに,装具の種類が多く,最適の装具を選択するのは容易ではないからであろう。
 本著は脳卒中の装具の知識が深くなくても,適切な装具を選択する方法はないものかとの考えから出発している。当初は脳卒中の病態をパソコンで順番にチェックしていくと最適な短下肢装具が選択できる方法を作りたいと考えて,プログラム化してCD-ROMにするつもりだった。しかしCD-ROMは,パソコンが手近にないと使えない不便さがあるので,結局ハンディーな単行本になった。
 本誌の内容はなるべく図,表を主とし,直感的に判りやすくと考えたつもりである。
 また各装具の機能についての判断や説明は,著者が学会での商業展示などで実物を見たり,入手したパンフレットや私信で尋ねた内容に,著者の経験や考えを基にしているので,不十分な部分もあるかと思っている。本著の内容をたたき台として,読者が自分流に自由に使って頂ければと考える。
 この小冊子が脳卒中片麻痺者の下肢装具の選択,処方,装具訓練に少しでも役立てば幸いである。
 2007年10月

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1 はじめに
2 脳卒中の代表的な短下肢装具
3 脳卒中に用いられる下肢装具の種類
4 脳卒中の下肢装具療法
5 脳卒中の下肢装具での歩行訓練に関する考え方
6 脳卒中のAFO選択について検討すべき事項
7 脳卒中に用いられる主なAFO
8 脳卒中の病態からのAFOの選択
9 脳卒中のAFOでの歩行異常-原因と対策
10 脳卒中片麻痺に合併しやすい障害への装具による対策
11 下肢装具の名称,種類
12 主な下肢装具の一覧
13 下肢装具の構成-継手と半月の正しい取り付け位置
14 脳卒中の長下肢装具
15 脳卒中の骨盤帯長下肢装具
16 脳卒中の膝装具
17 下肢装具の統一処方箋
18 すぐ装着できる下肢装具
19 デザインの工夫
20 参考文献
21 各AFOおよび継手の機能
索引

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脳卒中リハビリテーション・チーム すべてのスタッフに役立つ実用書
書評者: 川村 次郎 (日下病院名誉院長)
 渡邉英夫先生がこれまで長年にわたり装具についての紹介や解説を,学会誌『リハビリテーション医学』や『日本義肢装具学会誌』,臨床雑誌『総合リハビリテーション』などに,またリハビリテーションや装具に関する単行本に数多く執筆されていることは周知の通りである。また独自に創案された「すぐ装着できる下肢装具」もよく知られている。本書はその渡邉先生が脳卒中の下肢装具についてまとめられたハンディーな実用書である。

 脳卒中の下肢装具の種類は実に多種多様で,脳卒中リハビリテーションや装具の専門家でさえも,各装具がどのような構造の装具で,その機能や特徴が何なのかを直ちにイメージするのは容易ではないのが現実であろう。かつて筆者は脳卒中の下肢装具の構造や特徴をまとめた一覧表はないものかと数多くの単行書を参照したが見つけることができず,自ら作成しようと内外の数百のオリジナル論文の収拾と整理に随分苦労した経験がある。数多くの下肢装具の中から目の前の脳卒中片麻痺患者に最適の装具を選択するのは,脳卒中リハビリテーションに従事する医師にとっても容易ではないのである。

 医療に関する権限と責任は医師にあるのが原則であり,装具の公的給付においても法制度上は医師に任されているのである。しかしながら実際の臨床場面では,医師以外の理学療法士,作業療法士,義肢装具士,看護師,医療ソーシャルワーカーなどが参加するチームの合議によって装具の処方内容の選択が行われることが多い。また療法士や義肢装具士,看護師,ソーシャルワーカーなどが処方された装具について患者や家族に説明する際にも困難を伴うものである。

 本書には現在使用されている脳卒中下肢装具のほとんどすべての種類について,著者が学会での商業展示などで実物を見たり,入手したパンフレットや私信で尋ねた内容を元に著者の経験や考えを加えて,しかも美しいイラストと実物の写真を示して各装具の機能などがわかりやすく説明されている。そのため,この一冊を手にするだけで脳卒中の病態から各装具の特徴と機能に合わせた選択法を理解し,実際に処方や説明をするときに役立つであろう。特に脳卒中に処方されることの多い短下肢装具(AFO)については,主なAFOの種類と各種足継手について,機能と構造の詳細な図示と説明がされていることは,これまでの類書に見られない本書の独壇場であろう。渡邉先生自身が創案された「すぐ装着できる下肢装具」についても述べられている。

 ここで筆者の個人的希望を述べさせてもらえるのであれば,日常生活における実際の使用状況,装具使用によるデメリットなどの装具の問題点についても先生のこれまでの臨床経験についての記述がもっとあってよかったのではないかと思う。しかしながら,初心者にわかりやすい手引き書という本書の当初の目的を考えると欲張りすぎであろうか。
 初心者はもちろん,ベテランには知識の整理に役立つ本書は,脳卒中リハビリテーションに関係するすべてのスタッフ(職種)の関係者全員が手にするとともに,臨床現場にも常備して欲しい一冊である。
臨床の場でよりよい装具選択と機能調節を行うために
書評者: 山本 澄子 (国際医療福祉大学大学院教授・福祉援助工学)
 はじめから私事で恐縮であるが,筆者が下肢装具に関する研究を始めたのは約20年前である。その当時,装具に関する研究を調べたところ,九州地方でたくさんの新しい装具が開発されていることを知った。それらの研究開発の中心が佐賀医科大学にいらした渡邉英夫先生であった。装具の教科書にはいつも,渡邉先生が書かれたわかりやすい図解による装具の分類が掲載されていた。本書は渡邉先生の半世紀におよぶご研究の集大成である。

 本書では,短下肢装具を足関節の動きに関する機能から分類している。すなわち,背屈,底屈それぞれについて固定,遊動,制限,制動,補助とし,その組み合わせで種々の装具を示している。さらに,制動の強さをリジット,セミリジット,セミフレキシブル,フレキシブルと分類することにより,多くの装具の機能が一目でわかるように工夫されている。さらに本書の特徴は装具自体の機能分類だけでなく,使用する片麻痺者の身体機能によって,個々の使用者の状態に適した装具の機能を示していることである。使用者の機能としては,足関節底屈背屈の筋力とROM,歩行時の膝折れや反張膝,接地の状態などさまざまな観点から検討し,可能性のある装具の選択肢が図表で提示されている。特に足関節角度や硬さを調節できる装具については,使用者の底背屈筋力の組み合わせに適した装具足関節角度と硬さを示した表が示されている。

 現在,多くの片麻痺者が短下肢装具を使用していると考えられるが,身体機能に合わせてここまで細かく装具の機能を調節している施設がどのくらいあるだろうか。どのような装具であっても装具なしよりは歩きやすいことが多いので,残念なことに多くの施設で各使用者に合った装具の選択と細かい調節がなされてはいないのが現状ではないだろうか。筆者は歩行分析の立場から装具の機能が使用者の歩行に大きく影響すると考えているが,本書は機能調節による装具の大きな可能性を示すものである。

 本書では豊富な写真とわかりやすい図によってたくさんの装具が紹介されている。特に最後の「各AFOおよび継手の機能」の章では,48種類ものAFOと継手についてきわめて客観的な説明がなされている。おそらく誰もが,世の中にこれほどたくさんの装具があったのかと驚くとともに,こんなにあってはどれを選んでよいかわからないと感じるのではないかと思う。48種類すべてを試すことは不可能なので,まず身近で手に入る装具について本書に書かれている機能調節を試みられることをお勧めしたい。本書はそのような臨床の現場で使用しやすいハンドブックである。臨床の場で使用され,本書をもとによりよい装具の選択と機能調節の方法が形作られていくことこそ,著者である渡邉先生の希望されていることではないかと考える。
症例ごとの装具選択に役立つ“装具・アラカルト”書
書評者: 首藤 貴 (愛媛県立中央病院・リハビリテーション部部長)
 医学書院より発行された渡邉英夫先生の著書,『脳卒中の下肢装具』を入手した時,その内容のユニークさに感激した。脳卒中のリハビリテーションを開始する際,ベッド上での足部良肢位保持・下肢の支持性確保・患肢遊脚期の床面クリアー能がまず課題となってくる。この課題に対する渡邉先生のこれまでの長い研究は,“さすが先生”と常に新鮮さを感じさせてくれた。

 いろいろな状況の症例を目前にすると,今回はどの形式の装具を処方しようかと悩みに近い検討を余儀なくされるのが実際である。最適な装具処方は,今まだ“永遠の課題”となっている。脳卒中後遺症で自力移動をしている大半の方は,下肢装具と杖を使用することになる。患者さんにとって,良い装具はその方の日常生活を明るく活性化し,具合の悪い装具は移動を疲れさせ毎日を暗くする。私もポリオのため短下肢装具を常用しているが,ありがたいものであると毎日装具に感謝している。

 渡邉先生の書かれたこの本は,前半で脳卒中症例の歩行病態と装具処方の考え方をわかりやすく解説したうえで,後半にはこれまで発表された各種のプラスチック装具を数多く紹介していることも本書のユニークなところである。終始,図表やカラー写真等で要点が直感できるように工夫されているところに引き付けられた。装具処方に際して本書を身近に置いて実用性・有効性をイメージしながら,症例ごとの装具を選択するのに役立つ“装具・アラカルト”書であると思う。本書にある各種の装具を開発された方の意図と苦労の跡が,一頁ごとに伝わってくるのも興味深いところである。

 余談ではあるが,装具の師と仰いでいる渡邉先生とは約30年前ニューヨークでの国際義肢装具学会に参加した時,ホテルで同室となり装具について話し合った事がつい先日のことのように思い出される。先生の下肢装具への情熱はいささかも衰えることなく,その結実が本書となった。医師・理学療法士・作業療法士・義肢装具士・看護師等,脳卒中リハビリテーションを提供する方々はぜひ目の届くところに一冊置いていただきたい。

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