医学界新聞

連載

2008.05.12



連載
臨床医学航海術

第28回

  医学生へのアドバイス(12)

田中和豊(済生会福岡総合病院臨床教育部部長)


前回よりつづく

 臨床医学は大きな海に例えることができる。その海を航海することは至難の業である。吹きすさぶ嵐,荒れ狂う波,轟く雷……その航路は決して穏やかではない。そしてさらに現在この大海原には大きな変革が起こっている。この連載では,現在この大海原に起こっている変革を解説し,それに対して医学生や研修医はどのような準備をすれば,より安全に臨床医学の大海を航海できるのかを示したい。


 前回人間としての基礎的技能の2番目である「記述力 書く」ことについて,文字それも漢字の読み書きについて述べた。今回は,単語についてである。

人間としての基礎的技能
(1)読解力-読む
(2)記述力-書く
(3)聴覚理解力-聞く
(4)言語発表力-話す,プレゼンテーション力
(5)論理的思考能力-考える
(6)英語力
(7)体力
(8)芸術的感性-感じる
(9)コンピュータ力
(10)生活力
(11)心

記述力-書く(2)

単語
 漢字の読み書きも難しいが,単語の意味を正確に把握して書くのも難しい。以下に示す単語をどれだけの人が正確に理解して使用しているであろうか?

姑息(コソク)  (正) 一時しのぎ
(誤) ひきょうな
さわり (正) 話などの要点
(誤) 話などの最初の部分
ぶぜん (正) 失望してぼんやりとしている様子
(誤) 腹を立てている様子
やおら (正) ゆっくりと
(誤) いきなり,急に
確信犯 (正) 道徳的,宗教的または政治的信念に基づき,本人が悪いことではないと確信してなされる犯罪
(誤) 自分で悪いこととわかっていながら行われた行為や犯罪

 これらの単語は最近の文化庁による世論調査によると,正しい意味で理解している人よりも誤った意味で理解している人のほうが多いとのことである。もっともこうようにして言語の意味が時代とともに変化していくものなのだが……。このように正しい意味と間違った意味を理解している人の割合が逆転してしまうと,もともとの意味でこれらの単語を用いると,伝える相手によってはかえって誤解を招いてしまうことになりかねない。そういう意味で,あることを表現しようとしたとき,これらの誤用されている単語を使用しないでほかの単語を用いて表現したほうが賢明かもしれない。

 単語ではないが,「物事の肝心な点を確実にとらえること」を「的を射る」と書くのを間違えて「的を得る」と表現する人は多い。正確には「的」は「射る」もので,「得る」と書きたいのであれば「当(トウ)を得る」である。

 ここで話のついでに,筆者が誤解して理解していた単語を紹介する。

 大学生のときに筆者はある日ラジオで「桃太郎などの日本昔話で『お爺さんは山にシバカリに,お婆さんは川に洗濯にいきました。』とあるが,そのシバカリとは漢字でどう書いてそしてそれはいったいどういう意味でしょうか?」と問いかけているのをたまたま聴いたことがあった。それによると,「シバカリ」の「シバ」とは柴田の「柴」と書いて,「柴を刈る」とは「たきぎなどに使う枯れ枝を集める」ことであるという。「シバカリ」と聴くとてっきり「芝刈り」だと思ってしまうがそうではないとのことであった。

 このラジオを聴いて筆者も「シバカリ」がどんな字...

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