介護における看護リーダーたちへの期待
連載
2008.02.25
看護のアジェンダ | |
看護・医療界の“いま”を見つめ直し,読み解き, 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。 | |
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井部俊子 聖路加看護大学学長 |
(前回よりつづく)
12月と1月に,「これからの特別養護老人ホームにおける看護リーダー研修」が3日間,2会場で実施された。特別養護老人ホームに勤務する看護部長,看護師長,看護主任・係長などの職位にあるおよそ130人が参加した。参加者は,各都道府県で実施される「実務看護職員研修」でリーダーシップを発揮することが求められている。
この研修は,「特別養護老人ホームにおける看護サービスのあり方に関する検討会」報告書(座長・伊藤雅治,平成16年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金事業)の提言にもとづき毎年,開催されているものである。この検討会の委員であった私は,上記の看護リーダー研修で「これからの特別養護老人ホームにおける看護のあり方(総論)」を担当した。参加者の多くは,セカンドキャリアとして選んだ職場である特別養護老人ホームでの仕事に燃えており,研修会場にはオーラのようなものを感じた。
入所者の重症化が進む特養
特別養護老人ホームは,老人保健施設と介護療養型医療施設とともに介護保険3施設である。全国に5535施設,入所定員数は約39.5万人(平成17年度介護サービス事業所調査)であり,平均要介護度3.74(平成18年4月審査分),平均在所日数は1429.0日(平成15年9月)である。人員基準は入所者100人当たり医師(嘱託医で可)1人,看護職員3人,介護職員31人,介護支援専門員1人等となっており,従事者数(常勤換算,平成16年10月1日)は,看護師7661人,准看護師1万127人,介護職員13万6960人となっている。
特別養護老人ホームの入所者の要介護度は,介護保険制度導入時の平成12年10月では平均要介護度が3.35であったが,平成15年10月には3.63,さらに平成18年4月には3.74と,年々重度化している。また,入所者のうち認知症のある者は93.3%であり,認知症のケアが標準となっている。平成14年に導入されたいわゆる優先入所基準(指定介護老人福祉施設の入所に関する指針について;註)により,今後入所者の重度化はより一層進むことが予測され,入所者に対する健康管理や医療的な対応が重要となる。また,特別養護老人ホームの平均在所期間は1429.0日(約3.9年)と長く,71.3%が死亡退所であり,施設内死亡25.8%,医療機関45.5%(平成15年9月)となっている。特別養護老人ホームは終のすみかとして終末期ケアへの対応が求められており,看護職にとって安らかな死への援助という看取りのケアが求められる。
看護実践の伝道師として
特別養護老人ホームにおける看護サービスのあり方は次の5点に集約される。
1)特別養護老人ホームは,生活の場であるという位置づけを再確認し,看護活動は入所者の生活ニーズを優先した視点を基本とすべきであること。
2)特別養護老人ホームにおける看護は,日常生活を通じた健康管理が重度化の予防につながるため,入所者との直接の接点が多い介護職員との連携が重要であること。
3)看護のアプローチは,入所者の尊厳の保持と個別性を尊重した「個人に対するアプローチ」が重要であるとともに,重度の高齢者が集団で生活する場であるため,「生活環境に対するアプローチ」が求められること。
4)いずれのアプローチにおいても,介護職員との連携は重要であり,個別のアプローチはケアプランを基本としながら,看護職員と介護職員の配置やシフトの工夫,記録の一元化やシステムの構築による情報共有の工夫が必要であること。
5)医療機関ではなく,施設で看取りを行ってほしいという入所者や家族の要望に応えて,特別養護老人ホームにおいては,日常生活の延長としての看取りが望ましいこと。
検討会では,生活ニーズを優先した看護を実施するための基本的な活動として,(1)食べることと飲むこと,(2)排泄すること,(3)身体を清潔にすること,(4)呼吸すること,(5)体温を調節することをあげ,独自の視点で看護と医療との統合を試みている(伊藤雅治,井部俊子監修:特別養護老人ホーム看護実践ハンドブック.64-92頁,中央法規,2006年)。
介護施設を看護実践の場として選択した看護リーダーたちは,節度ある医療とは品位ある医療であり,医療というものは人間らしい自然の死を助けるためのものである(森亘:美しい死.283-296頁,アドスリー,2007年)ことを人々に伝える伝導師の役目も果たしてくれるであろう。
(つづく)
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