片側頸部リンパ節腫脹では結核を考慮!
連載
2007.12.10
【連載】はじめての救急研修One Minute Teaching! |
田中 拓・箕輪 良行・桝井 良裕 (聖マリアンナ医科大学・救急医学) |
[
Case20
] 片側頸部リンパ節腫脹では結核を考慮! |
(前回よりつづく)
Key word
リンパ節腫脹,微熱
早いもので今年も残すところあとわずか。河田君はいろいろと迷ったあげく,来年度から救急で後期研修を行うことに決めた。栗井先生に相談→焼肉屋→居酒屋→いつの間にか決定。という経緯であった。でも今では楽しみにしている。さまざまな症例が診られて,かつスピード感がある。そしてon-offがはっきりしているところが自分向きだと思っている。
そんななか次の患者は独歩で診察室に入ってきた。痩せ型の34歳男性。主訴の欄には「首にしこりができた」と書いている。 バイタルサインは意識清明,血圧120/50mmHg,脈拍80回,体温37.1℃,SpO2 98%であった。特記すべき既往歴なし。定期内服なし。身体所見では眼瞼結膜貧血なし,眼球結膜黄疸なし。咽頭発赤なし。右頸部に径2cm程度の弾性のあるリンパ節を触れる。圧痛はなし。顎下,鎖骨上,腋下,鼠径のリンパ節は触知しない。呼吸音:清,心音:整,心雑音なし,腹部は平坦,軟。下肢に浮腫なし。 河田君は,緊急性のある疾患じゃないなと思いながらも栗井先生のもとに向かった。 |
■Guidance
河田 最近救急外来と時間外診療を勘違いしている人が多いですよ。この人もたしかに頸部のリンパ節が腫れているようですが,腫れているのは頸部の1か所だけですし,1か月前から腫れに気づいているんです。痛みもありません。日中に内科を受診してもらえばいいと思います。栗井 うん。リンパ節腫脹をきたす疾患のほとんどは容易に原因が推測できたり,そのまま自然経過で消退したりするものだね。でも救急外来でリンパ節腫脹の患者を診たとき,まず考えなくてはいけないのは何だと思う?
河田 やはり悪性疾患の有無ではないでしょうか。
栗井 そう。家庭医を対象としたオランダのスタディでは原因不明のリンパ節腫脹のうち10%が何らかの専門科への受診を要し,そのうち1%が悪性疾患だったという報告がある。頻度は低いけれど,一応念頭に置かなくてはいけないね。診察では,この方は頸部のリンパ節のみの腫脹を認めるけれど,その原因となる病巣は認めないんだね。たしかにこの方の年齢を考えても悪性疾患は非常に稀かな。その他の鑑別は何が考えられる?(Check Point1)
河田 あとはやはり感染症だと思いますが,発熱も微熱ですし,感染源を示唆する症状や所見も認めません。
栗井 僕はむしろその微熱が少し気がかりだね。感染症のリスクについてもう少し考えてみよう。生活歴については訊いてみた?
河田 独身の一人暮らしの男性です。仕事はアルバイトを渡り歩いているようで定職には就いていないとのことです。かなりのヘビースモーカーであるとともに,毎日飲酒を続けているようです。最近の海外渡航なし,動物との接触もないと言っています。体重の変化については自覚していませんが,あまり食欲はないとのことです。
栗井 なんだか河田君より不養生な生活のようだね。そうすると……。
河田 先生,いちいち僕の生活に踏み込まないでください。でも先生の言いたいことがなんとなくわかりました。結核も鑑別の上位に挙げておくべきですね(Check Point2)。
栗井 すばらしい。もちろんリンパ腫や悪性疾患を疑って今後血液検査,画像検査,さらに特殊な検査が必要にはなってくるかもしれないけれど,頸部片側のリンパ節腫脹では結核を忘れてはいけない。さらに結核によるリンパ節腫脹を疑うならHIVについても必ず押さえておく必要があるね(Check point3)。
河田 今日はとりあえず胸部レントゲンと血液検査,ツベルクリン反応検査,それから喀痰の結核菌塗沫,培養,PCRの検体を提出しておきます。
後日河田君が患者のカルテを見ると,リンパ節の切除生検がなされ,結核性リンパ節炎の診断のもと抗結核薬による治療が開始されていた。またHIVについては陰性であった。 |
Check Point 1
リンパ節腫脹の原因:CHICAGO(シカゴ)次のように鑑別のヒントとする。CHICAGO(Cancers, Hypersensitivity syndromes, Infections, Connective tissue disease, Atypical lymphoproliferative disorders, Granulomatous lesions, Other unusual causes) Cancers:リンパ腫,白血病を含めた血液疾患や乳癌,肺癌,腎細胞癌,前立腺癌など,Hypersensitivity syndromes:薬剤に対する過敏反応,Infections:ウイルス感染,HIV,HTLV-1,細菌感染,梅毒,猫引っ掻き病,クラミジア,結核,原虫感染,リケッチアなど,Connective tissue disease:RA,SLE,強皮症,MCTD,シェーグレン症候群など,Atypical lymphoproliferative disorders:ウェゲナー肉芽腫症など,Granulomatous lesions:結核,非定型抗酸菌症,クリプトコッカスなど。
Check Point 2
頸部リンパ節腫脹一般的な目安として前頸部のリンパ節腫脹は頭頸部の感染症,全身の特殊な感染症(伝染性単核球症,サイトメガロウイルス感染,トキソプラズマなど)に伴い,後頸部リンパ節腫脹は結核,風疹,リンパ腫,亜急性壊死性リンパ節炎,悪性腫瘍などに伴って起こる。数週-数か月の経過で大きさが変動し,炎症所見や圧痛のないものは結核,非定型抗酸菌,また猫引っ掻き病などを疑う。頭頸部の感染に伴うリンパ節は柔らかく,圧痛や熱感を伴う。結核性リンパ節炎では弾性硬で圧痛はない。癌の転移によるリンパ節腫脹は硬く,可動性に乏しいことが特徴的である。
Check Point 3
AIDSと肺外結核肺外結核病変のリスクは免疫抑制の程度により増加する。米国においては1980年代に一時減少傾向にあった結核がAIDSの蔓延とともに再び増加傾向を見せた。AIDSの結核患者では50%以上に肺外病変を有する。肺外病変はさまざまな症状を呈し,診断が困難になりやすい。病変部位としては胸膜,リンパ節,骨関節などに多く見られるが,あらゆる臓器に起こりうる。
Attention!
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(次回につづく)
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