医学界新聞

連載

2007.11.12

 

【連載】

はじめての救急研修
One Minute Teaching!

桝井 良裕
箕輪 良行田中 拓
(聖マリアンナ医科大学・救急医学)

[ Case 19 ]
高齢者の失調歩行=パーキンソン??


前回よりつづく

Key word
歩行障害,認知障害,排尿障害,特発性正常圧水頭症

Case
 朝晩の肌寒さに秋を感じるこの頃,今日も河田君は当直である。次の患者は82歳男性で“歩けなくなった”とのこと。息子に支えられながらも歩いて来院した。もともと軽度の認知症を指摘されている。同居する息子によると,歩行障害は1か月ほど前から徐々に出現。その頃から物忘れもひどくなり,尿も漏らすようになったため,2週間前かかりつけ医に相談した。脳循環改善薬を処方されたが改善がないため,夕方帰宅した息子が脳の病気が心配になり連れてきた。歩行は不安定だが転倒したことはなく,頭部を強くぶつけたりもしていない。高血圧,高脂血症を指摘されており,カルシウム拮抗薬とHMG-CoA還元酵素阻害薬を常用している。薬剤・食物に対するアレルギーの既往および喫煙歴・飲酒歴なし。身体所見は155cm,50kg,認知症による失見当識はあるが意識は清明。体温36.5℃,血圧140/80mmHg,脈拍72/分整,呼吸数は18/分,SpO2 98%。貧血,黄疸無し,表在リンパ節は触知せず,甲状腺腫大や頸静脈の怒張も認めない。呼吸音,心音,腹部にも異常なく下腿にも浮腫なし。全体に動作が緩慢だが脳神経は正常で,上下肢Barre'徴候も年齢相応と思われる筋力低下のみ。指鼻試験などでみる限り上肢には明らかな小脳失調所見なし。下肢は,実際に歩行させたところ,パーキンソン病の特徴は認めず,明らかな企図振戦や固縮もない。感覚も温痛覚・触圧覚ともに異常はなさそうだ。深部腱反射は四肢でやや減弱気味だが左右差はなく,Babinski反射も陰性。HDS-R(長谷川式簡易知的機能検定スケール)は15点だった。河田君は首をひねりながらも髄膜炎などの否定を目的とした採血,脳卒中など頭蓋内病変を否定するための頭部CTをオーダーして栗井先生に報告した。

■Guidance

河田 ちょっと悔しいです。最近僕は何でも診れると思いあがってました。傲れる者は久しからずです。さっぱりわかりません。神経内科の変性疾患とか苦手なんです。

栗井 歩行障害の患者さんか。まだ変性疾患と決まったわけじゃないよ。

河田 おっしゃるとおりです。でも明らかな片麻痺はないので脳梗塞や脳出血は考えにくそうだし,小脳失調でもなさそうです。最初はパーキンソン病かと思ったのですが,歩行させてみると印象が異なっていて,パーキンソンではないようです。きっと脊髄小脳変性症とかよくわからない変性疾患です。

栗井 順序だてて考えていこう。歩行障害というけど,どんな障害なの?

河田 最初の一歩が踏み出しにくいようですし,歩幅は減少して足の挙上も悪く,歩行はゆっくりできわめて不安定な印象です。いわゆる失調歩行だと思います。でも小脳症状は他にないので最初はパーキンソンだと思ったんです。でも,外股で歩くこと,外的なきっかけによる歩行の改善が認められないことが気になります。振戦や固縮もはっきりしませんし,少なくとも典型的なパーキン...

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