医学界新聞

連載

2007.12.10

 

レジデントのための

栄  養  塾

大村健二(金沢大学医学部附属病院)=塾長加藤章信(盛岡市立病院)大谷順(公立雲南総合病院)岡田晋吾(北美原クリニック)

第5回   低栄養患者の栄養管理

今月の講師= 大谷 順


前回よりつづく

 栄養不良が原因で様々な合併症が発生するため,栄養状態を改善させる栄養療法は重要です。しかし低栄養の患者に対して栄養療法を行う際には,いくつかの重要なポイントがあり,これを忘れて栄養療法を行うと致命的な合併症を起こすおそれがあることを認識しましょう。

【Clinical Pearl】

・低栄養患者に対する栄養療法施行時特有の合併症を理解して予防に努めよう。
・低栄養患者の投与目標はunderestimateしたほうが無難。
・低栄養患者に対して栄養療法を行う際には,経腸栄養法は必ずしもpriorityとはならない。


【練習問題】


 78歳女性。8年前に脳梗塞に罹患,右半身不全麻痺がある。ここ数年は在宅療養を行っていた。経口摂取は可能であるが,ここ数年徐々に減っており,本人,家族とも痩せを認識していた。2週間前より発熱が続き,尿路感染症と診断され内科病棟に入院した。入院後は絶食のうえ,抗生剤投与と末梢静脈栄養法が施行され,入院後4日で症状は軽快したが,入院時に施行された栄養スクリーニングで高度の栄養不良との評価を受けたため,主治医は入院後4日目から中心静脈栄養法(TPN)を開始した。
 投与目標量は,患者の標準体重47kgを用いてHarris-Benedictの式(連載第2回参照)から求めたBEE1000kcalに活動係数1.1と,ストレス係数1.2を掛けて1320kcal/日,アミノ酸は1.2g×標準体重で計算して56g/日とした。右大腿静脈から中心静脈カテーテルを挿入し,アミノトリパ1号®850ml×2本(1320kcal,アミノ酸50g)を投与していたが,TPN7日目に突然呼吸困難,血圧低下,意識レベル低下を来たした。

入院時検査所見=白血球10,100/mm3,リンパ球数850/mm3,Hb10.1g/dL,CRP4.8mg/dL,血清総蛋白5.8g/dL,血清アルブミン3.0g/dL,Na135mEq/L,K4.0mEq/L,Cl100mEq/L,血糖87mg/dL,SpO297%,CXR異常なし,ECG洞律調
状態悪化時の検査所見=白血球8700/mm3,リンパ球数900/mm3,Hb8.7g/dL,CRP2.2mg/dL,血清総蛋白5.4g/dL,アルブミン2.8g/dL,Na143mEq/L,K2.2mEq/L,Cl109mEq/L,CRP2.5mg/dL,血糖55mg/dL,SpO278%,CXRびまん性浸潤影,ECG心室性期外収縮(単源性)
患者の身体構成成分(入院時)=身長145cm,体重27kg(%IBW58%),筋肉と皮下脂肪の高度の減少を認めた。

Q 本症例の状態が悪化した原因として何が考えられるでしょうか。
A refeeding syndromeが発生した可能性があります。

refeeding syndrome
 refeeding syndromeは,marasmus(連載第1回参照)のような慢性的な半飢餓状態の患者に大量のブドウ糖を投与した際に発生する一連の代謝性合併症の総称です。その病態は,以下のように説明されます。飢餓状態のようにエネルギー基質の外からの供給が不十分な状態では,体脂肪を分解して遊離脂肪酸とケトン体をエネルギー源とする代謝経路に生体が適応しています。そこに糖質が急激に入ってくることにより,インスリン分泌が刺激され,その結果KやMgが細胞内に取り込まれ,低K,Mg血症となり不整脈の原因となる。さらに糖質負荷によりATPが産生されるのに伴いPが消費され

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