周術期の栄養管理
連載
2007.11.12
レジデントのための 栄 養 塾
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第4回 周術期の栄養管理 |
今月の講師= 岡田 晋吾 |
(前回よりつづく)
周術期栄養管理はこの10年ほどで大幅に変わってきました。クリニカルパスの普及による絶食期間の短縮だけでなく,免疫能強化栄養剤なども使われるようになりました。患者さんの栄養状態や手術の侵襲度,糖尿病などの合併症の有無にあわせて経口・経管・PPN・TPNなどを選択することが求められています。
【Clinical Pearl】
・術前に栄養状態を把握して「術前から栄養管理を始める」ことで,術後の合併症を予防することができる。外来・入院時に栄養評価を行うことが大切。
・低栄養や免疫機能の低下が疑われる患者には,免疫能強化栄養剤を術前に使用しよう。
・周術期の血糖管理はとても重要。血糖値のモニタリングを行おう。
・経口による栄養補給がもっとも望ましいが,術後しばらく経口による栄養摂取が難しい手術では,腸ろうなどからの経腸栄養を併用することも考えよう。
【練習問題】85歳,男性。身長165cm,体重52kg。以前から糖尿病があり,インスリンの自己注射を行って管理していた。この2か月で体重が5kg減り,食欲不振,胃痛にて消化器内科を受診された。外来にて上部消化管内視鏡検査を行い,胃体上部から下部にかけて大きな胃がんが認められた。明らかな出血は認められず,同時に行った腹部CT検査では近位のリンパ節への転移は疑われたが,遠隔転移は認められなかった。外科に紹介となった。 血液検査所見(外科外来受診時):WBC7,600/mm3,Hb13.0g/dL,CRP1.0mg/dL,TP6.6g/dL,Alb3.2g/dL,Na135mEq/L,Cl1103mEq/L,K4.0mEq/L,AST40IU/L,ALT26IU/L,BUN18mg/dL,CRE1.1mg/dL BMI:19.1 |
外科外来にて手術日を決定して,術前2日前に入院してもらうことにしました。食事は好きなものを十分に取るように話し,免疫能強化栄養剤の効果について十分に説明して,入院前5日間インパクト®を500-750ml/日飲んでもらうことにしました。
Q 免疫能強化栄養剤とは何でしょうか?
A 免疫栄養(immunonutrition),免疫強化経腸栄養剤(immuno-enhancing diet)とも呼ばれています。欧米では,術前に使用することによって術後感染症の減少や,人工呼吸器の装着期間の短縮などの効果が得られたという報告がなされています。
【Check】
・術前に必ず栄養アセスメントを行い,低栄養や免疫機能が低下している患者には術前から栄養療法を行うことが必要。
・最近ではインパクト®などを用いて積極的に免疫機能強化を行う施設も増えている。ただしわが国ではまだエビデンスが得られておらず,摂取量についてもコンセンサスはないので注意を要する。
その後,入院時からクリニカルパスを用いて管理を行います。手術は胃全摘術を行い,肝転移・腹膜播種も認めず,周囲のリンパ節も十分に郭清を行い根治手術ができました。周術期管理は末梢静脈栄養法(PPN:peripheral parenteral nutrition)として,中心静脈栄養法(TPN:total parenteral nutrition)による管理は行いませんでした。
Q 胃全摘術の患者でもTPN管理はしなくていいのでしょうか?
A 以前はルーチンでTPN管理としていました。しかし現在ではパスによる標準化が進み,周術期の絶食期間が短縮しているため,重度の栄養障害や長期にわたり経口摂取が不可能と思われる症例以外はPPNを用いています。
【Check】
・TPNに伴う合併症発生によるリスクとTPNによる効果を十分に検討して,必要があればTPNを用いた栄養管理を行う。
・PPNであっても脂肪を50-60g/日投与することで1,100-1,400kcal/日の投与が可能である。
・ただし術後超早期には循環動態の安定が第一であり,この時期には高濃度ブドウ糖,アミノ酸や脂肪乳剤の投与は行わない。
周術期にはインスリンを用いて厳格な血糖管理を行います。パスに基づき術後4日目から水分摂取を開始し,術後5日目から流動食,その後3食ずつアップしていき術後10日目で常食という指示が出ていました。
合併症はなかったのですが,術前にやせたため義歯の具合が悪く,十分に食事が取れず,五分粥の3分の2程度しか取れませんでした。そのためエンシュア®・Hを250-500ml/日飲んでもらうことにして,静脈栄養を中止しました。
【Check】
・周術期の高血糖の持続は術後合併症を増やす。血糖管理を厳格に行うことは周術期の栄養管理に必須である。
・十分に経口摂取ができない場合には経腸栄養剤などを飲んでもらうことで,必要なエネルギー量を確保する。食道がんや膵がんの術後などで長期間にわたり経口での栄養摂取が進まないことが予想される場合には,腸ろうなどを術中に造設しておき,術後早期から使用する。
その後,歯科にて義歯を調整して食事が全量取れるようになったため退院となりました。退院時のアルブミンは3.0g/dL,体重は51kgです。
Q 入院時よりも退院時のほうが栄養状態の指標が悪くなっています。大丈夫でしょうか?
A 在院日数の短縮により,栄養指標が改善するまで入院で診ることはできません。退院後も栄養が十分取れることを入院中に確認して,退院後も外来で栄養状態のモニタリングを行うことが大切です。
術前,術後になるべく腸管を使用することは,bacterial translocationから敗血症に至ることを予防することになります。周術期管理ではなるべく腸管を使用することを考えることが大切です。
ひと言アドバイス・術前から様々な合併症を有する症例は増加しています。病態や栄養状態を把握して施行する適切な周術期の栄養管理は術後合併症を減少させます。また,退院や転院後も栄養管理を継続できる体制作りが肝要でしょう。(大村)
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(つづく)
この記事の連載
レジデントのための栄養塾(終了)
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