MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2007.12.03
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


長井 苑子 著
《評 者》槇野 茂樹(阪医大・膠原病内科)
間質性肺疾患の治療管理まで踏み込んだ内容の濃い一冊

その後20年,著者は間質性肺疾患の領域で私を含め多くの研究者をリードして来られました。特発性間質性肺炎の分類は最近ようやくほぼ定まり,吸入性のものや,膠原病性,薬剤によるものなどとの異同が議論できるようになってきました。
今回,著者は長い間質性肺疾患の臨床経験の集大成として本書「間質性肺疾患の外来診療」を書かれたと思います。今までの間質性肺疾患について書かれた日本語の総説書は,幾人かの専門家が分担執筆したもので,一人の著者が一貫して書いたものは初めてではないかと思います。著者の経験と知識をもって初めてできたものと考えますし,また,そのため,著者の間質性肺疾患に対する思想,スタンスが本書を通して明確になっているのが強く感じられます。
本書の特徴と私が感じたことは,1つにはその完成度の高さと内容の濃密さです。本書には図表が多く,それぞれ,この疾患領域の重要なデータが選ばれており,文章と併せ膨大な知識を提供しています。もう1つは,間質性肺疾患の治療管理に踏み込んだ記述をしていることです。いままでの総説書が診断を重視しているのに対し,本書は治療管理に多くの頁を割き,「間質性肺疾患の臨床経過と管理方針」「間質性肺炎管理・治療方針のまとめ」といった複数の章を作り,また本文中ではステロイド漸減の詳細など治療管理の詳細も記述していることです。さらにもう1つ,著者の患者に対する見方を示している点です。患者の人格を尊重した著者の考え方がコラム欄などを通して一貫して示されるとともに,今までの総説書にない「患者と家族への対応」の章も立てられています。
著者はこの本で「外来診療」という初心者向けと感じる題名とは矛盾するような深い内容を提示しており,間質性肺疾患に取り組むわれわれに,もっとハイレベルの医療を実践するよう啓発しているようにも感じます。
B5・頁184 定価5,985円(税5%込) 医学書院
ISBN978-4-260-00274-5


コミュニケーションスキル・トレーニング
患者満足度の向上と効果的な診療のために
松村 真司,箕輪 良行 編
《評 者》高久 史麿(自治医大学長)
良好な診療関係を築くコミュニケーション技術を学ぶ

私が現在勤務している自治医科大学にはUCLAで長年教鞭をとられ,2007年4月から常勤の教授として学生の教育に当たっておられるアメリカ人の方,米国の病院で8年以上働いた後,本学に来られた准教授の方等がおられるが,これらの教員が異口同音に言われることは,日本の医学教育の中で最も欠けているのはコミュニケーションの技術と理学的所見を正確にとる技術の2つであるということである。特に前者のコミュニケーション技術に関しては,欧米では小学生の時代から訓練を受けているとのことであり,コミュニケーションに関する教育を大学入学前に受けたことがないわが国の医学生や臨床研修医が,目前の患者とのコミュニケーションを保つのに苦労するのは当然の結果とも言えるであろう。しかしコミュニケーションの能力が医師にとって最も重要な能力の1つであることは疑いの余地がない。患者からの不満の中でいちばん多いのは,医師が十分に言うことをよく聞いてくれないということである。このような不満が出るのは医師が忙し過ぎるだけでなく,本来持っているべき患者とのコミュニケーションの技術を医師が身に付けていないことも関係していると考えられる。
一人でも多くの医師が本書を参考にされて,患者と良好なコミュニケーションがとれるようになることを希望して本書の推薦の締めくくりの言葉としたい。
B5・頁184 定価3,675円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00450-3


伊藤 絵美,向谷地 生良 著
《評 者》石垣 琢麿(東大大学院准教授・総合文化研究科/精神科医)
認知行動療法の「あるべき姿」を知る絶好の入門書

べてるの家の活動は,本書とセットになっているDVDでも見ることができるし,向谷地氏や当事者自身が出演するさまざまなメディアや講演会によって見聞きされたことのある諸氏も多いことと思う。彼らの活動で皆がまず驚かされるのは,登場するべてるメンバーの「明るさ」と,彼らのコペルニクス的「発想の大転換」である。また,それを「べてるでは当たり前のこと」とさらっと言われてしまうことにも。私のような凡庸な精神科医は,彼らの姿に自分の発想の貧困さを再認識させられ,気分が滅入ってしまいがちである。べてるの活動は,当事者がもつ生活者としての能力を引き出し,彼らが真に希求する「生の」生活のなかでの具体的援助をめざしている。
では,発想が貧困で時間のない私には,慣れ親しんだ人間関係や土地から離れられない当事者とともに「ここ」で何ができるのか?
◆なぜ「腑に落ちる」のか
本書のなかで伊藤氏は,べてるの活動の基本は「問題志向」であり,認知行動療法も同様だと説く。問題志向とは,日常生活の「しょぼい問題」であっても,「問題解決」をあえて考えないで他者とともにまずはじっくり見つめること。その問題は,あくまでも患者さんの生活体験から提示されるものでなければならない。
問題解決を図るときも,日常性のなかでそれが扱われなければ,患者さんの腑に落ちない。多くの患者さんは,この「腑に落ちる」感覚を体験することに困難があるのだが,治療上きわめて重要な体験であろう。
それを現実生活のなかで獲得してもらうという意味では,べてるの活動や認知行動療法は「生活療法」の発展型とも考えられる。認知行動療法は,ともすると用いられる技法や,数字による実証性だけに注目が集まり,皮相な評価が下されることもある。本書は,認知行動療法のあるべき姿を知る絶好の入門書でもある。
◆「当事者研究」成功の鍵――家族とコメディカルに開けるか
また,べてるの「当事者研究」は当事...
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