間質性肺疾患の外来診療

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原因不明の難病である間質性肺炎は、病名が確定しているものだけで200種類を数える。本書は、世界で有数の症例数を経験してきた本邦最前線の臨床医による、より良い治療方針を決定し、安全な治療管理を進めるための、つまり「患者が病気とともに日常の生活を過ごす」ことを可能にするための、具体的な外来診療の手引きである。
長井 苑子
発行 2007年09月判型:B5頁:184
ISBN 978-4-260-00274-5
定価 6,270円 (本体5,700円+税)
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  • 目次
  • 書評

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1 間質性肺疾患とは
2 初診外来でのスクリーニング
3 患者と家族への対応
4 間質性肺炎の鑑別診断
5 間質性肺疾患の病勢の評価
6 間質性肺疾患の臨床経過と管理方針
7 特発性間質性肺炎の鑑別と治療管理
8 外因性の間質性肺疾患の鑑別と治療管理
9 全身性疾患の肺病変としての間質性肺疾患
10 その他のまれな間質性肺疾患
11 間質性肺炎管理・治療方針のまとめ
文献
付録 厚生労働省申請書類の例
おわりに
索引

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間質性肺疾患の診断の道筋とノウハウを収載
書評者: 近藤 康博 (公立陶生病院/呼吸器・アレルギー内科)
 「間質性肺疾患」多くの読者はこの病気の名前は知っていても,どんな病気? どう診療するの? と,尋ねられると,はたと困ってしまうのではないだろうか。間質性肺疾患は,有効な治療がほとんどない難病も多く含むため,専門家をも悩ませる厄介な病気である。かくいう私も,この悪女のような悩ましい病気に心奪われ,深みにはまり,不惑の年を迎えても,相も変わらず悩める少年のごとく葛藤しているのである。

 このような「間質性肺疾患」に対する実践的解説書として作成されたのが本書である。本疾患に20年以上も携わってこられた長井先生の,情熱,臨床経験,知識・エビデンスを駆使しての力作で,先生の多くの難病に苦しむ患者さんに対する深い愛情からうまれたものである。先生の属する京都大学間質性肺炎グループの世界に誇る臨床データも,随所にちりばめられている。私自身,本書から多くを学ぶとともに長井先生の難病に立ち向かう医師としての姿勢に強い感銘を覚えた。

 本書は,日常臨床に携わるプライマリケア医の方,はじめて間質性肺疾患の患者を診る研修医の方,さらには,呼吸器専門医,中でも間質性肺炎に興味がある先生方,いずれの方にも,満足をもって読んでいただける良書である。単に,外来診療の手引き書にとどまらず,充実した文献リストも備え,最新の知識をまとまりよく吸収することも可能である。本書を一読すれば,呼吸器専門医以外の先生方にも,外来診療において,間質性肺疾患の可能性を個々の患者からどのようにして引き出し,それを臨床画像あるいは,臨床画像病理的に診断していくかの道筋とノウハウが,容易に理解可能であろう。

 通常,このような教科書は,分担執筆となることが多いが,本書は長井先生一人により書き下ろされている。ご多忙な先生が,本書を作成するには大変なご苦労であったと推察されるが,そのおかげで,本書では「患者に不利益を被らせない」という著者自身の強い臨床姿勢に基づく診療方針が終始貫かれた内容を維持することが可能となっている。
 さらに,豊富な臨床経験と卓越した見識を持つ著者ならではの,「経過観察については,“治療しないという治療方針”の意義についてよく説明する」「間質性肺疾患領域では,症例蓄積による臨床経験が,知識とほどよくバランスがとれてはじめて,現実的で妥当な,患者にとっても不利益とならない管理治療方針が決定されることを強調したい」「組織診断をしても,治療導入の時期とその種類については,臨床的判断なしではできない」といった小気味のよい名言に随所に触れることができる。

 また,付録の厚生労働省申請書類,治療継続のためのピンポイント・アドバイスなど,痒いところに手が届く内容となっている。さらに,欄外のコラムからは,患者さん一人ひとりを大切にする著者の人柄や,考え方に触れることができる。

 日常臨床では,間質性肺疾患の多くは見逃され,また,見つけられても適切な診療がなされていないのが現状ではないだろうか。本書が多くの臨床医の先生方の手に届き,“間質性肺疾患”の診療レベルの改善,ひいては患者さんの利益につながることを期待したい。
間質性肺疾患の治療管理まで踏み込んだ内容の濃い一冊
書評者: 槇野 茂樹 (阪医大・膠原病内科)
 1988年,私は,京都大学の免疫研究所でリンパ球を表面マーカーで染色しフローサイトメトリーで測定する実験に従事していました。当時所属した研究室には自前のフローサイトメーターがなく,検査会社の機械を会社の仕事が済んだ後,好意で使用させてもらっていました。夜9時10時になって染色したリンパ球を持って検査会社に行くと2台あるフローサイトメーターのもう1台を使って1人で黙々と測定している人がいました。それが本書の著者,長井先生でした。その頃,著者は「びまん性肺疾患研究会」で,気管支肺胞洗浄のデータの第一人者として中心的ディスカッサーであり舌鋒鋭く議論され,「凄い人だなあ」と仰ぎ見ていた方でしたが,データは自分自身で作られたものなのだと感心したのを覚えています。

 その後20年,著者は間質性肺疾患の領域で私を含め多くの研究者をリードして来られました。特発性間質性肺炎の分類は最近ようやくほぼ定まり,吸入性のものや,膠原病性,薬剤によるものなどとの異同が議論できるようになってきました。
 今回,著者は長い間質性肺疾患の臨床経験の集大成として本書「間質性肺疾患の外来診療」を書かれたと思います。今までの間質性肺疾患について書かれた日本語の総説書は,幾人かの専門家が分担執筆したもので,一人の著者が一貫して書いたものは初めてではないかと思います。著者の経験と知識をもって初めてできたものと考えますし,また,そのため,著者の間質性肺疾患に対する思想,スタンスが本書を通して明確になっているのが強く感じられます。

 本書の特徴と私が感じたことは,1つにはその完成度の高さと内容の濃密さです。本書には図表が多く,それぞれ,この疾患領域の重要なデータが選ばれており,文章と併せ膨大な知識を提供しています。もう1つは,間質性肺疾患の治療管理に踏み込んだ記述をしていることです。いままでの総説書が診断を重視しているのに対し,本書は治療管理に多くの頁を割き,「間質性肺疾患の臨床経過と管理方針」「間質性肺炎管理・治療方針のまとめ」といった複数の章を作り,また本文中ではステロイド漸減の詳細など治療管理の詳細も記述していることです。さらにもう1つ,著者の患者に対する見方を示している点です。患者の人格を尊重した著者の考え方がコラム欄などを通して一貫して示されるとともに,今までの総説書にない「患者と家族への対応」の章も立てられています。

 著者はこの本で「外来診療」という初心者向けと感じる題名とは矛盾するような深い内容を提示しており,間質性肺疾患に取り組むわれわれに,もっとハイレベルの医療を実践するよう啓発しているようにも感じます。

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