医学界新聞


男をもっと知ってほしい

寄稿

2007.12.03

 

【寄稿】

男性医学のすすめ
男をもっと知ってほしい

熊本悦明(日本臨床男性医学研究所所長/日本Men's Health医学会理事長)


男性医学が忘れられている

 21世紀の医学は20世紀の生死の医学を乗り越えて,QOLの医学に進みつつある。長寿を楽しむため,そのQOLの維持のための基本的医学として,種々の意見はあるが,“脳の健康”と,男として女として広い意味での“性の維持”が,すなわち,脳と性の医学が最大の医学のテーマになってきているといってよい。

 われわれは生き物であり,男として女として生きているが,過去の医学はその男女の性差にはほとんど目を向けている余裕はなく,女性についても生殖医学のみを中心に検討されていたにすぎない。そこで,それではならぬと,われわれは1992年から2001年の10年間,性差医学研究会をもって,人間医学を性差を十分意識し,検討・研究すべしとして,21世紀のQOL医学の基礎となる男性医学・女性医学への橋渡しをしたつもりでいる。多少の経緯はあったが,この流れを引き継ぐ形で女性医学を中心とした日本性差医学研究会とわれわれの日本Men's Health医学会が新たに発足し,現在それぞれの分野で活動している。

 ただ女性医学の方は,生殖医学を中心とした医学研究が古くからすでに進んでおり,その基盤と女性内分泌学の発展を加え,確実に進歩を遂げ,いまや全身医学としての女性医学へと発展しつつある。しかも同時に女性特有の心理を十分に考慮した医療体系づくり,女性というgenderを意識した繊細な配慮も加え,より高度の近代医療体系への道を模索しつつあるといってよい。

 ところが,男性医学側の発展は著しく遅れている。男の生理についてさえ,現行のほとんどの生理学教科書でもまったく無視されており,記載はあるとしてもsex animal的取り扱いで勃起・射精や,精子形成の概略がせいぜいである。男を“男性として一生を送る生き物”として,すなわち男性ホルモンの全身的に強力な生理的影響を心身ともに受けつつ生きているという視点からの医学的アプローチは,医療現場ではほとんど無きに等しかったといってよい。前述の女性医療の現状からすれば,その後進性は目に余るものがある。

 その現実を深く憂慮したWHOが,1997年に,心ある男性医学者グループを支援しつつ”ワイマール宣言”を発表し,それに呼応して1998年国際Aging male研究会が創立された。そして高齢化社会に対応して,中高年男性のための医学研究とその啓蒙のための体系創りとしての臨床男性医学の活動が始まったわけである。その国際的流れの中で,わが日本Men's Health医学会(はじめは日本Aging male研究会で発足したが,昨年から医学会に発展して改名)も,2001年に発足したのである。

 この地道な国際的な男女性差医学・医療発展の医学史的な流れが,いまだわが国の医学界の方々にあまり定着していないのが残念でならない。われわれの医学は,人間が男と女という生き物であるという,しっかりした認識を持った新しい医学に発展すべき時がいまやってきているのである。ことに前述したように,男性は今まではほとんど男性という特性のない,“単純な人間”のようにしか医学的なアプローチがなされていなかった。これは,医学者・医師のほとんどが,男性であったにもかかわらず,自身の性には関心を持たず,女性にしか目を向けていなかったわけで,不思議な医学の流れであったといえよう。この認識を改めることが,21世紀医学の出発点ではないだろうか。

“難しきもの,そは男なり”

 過去の男性に対する医学的問題意識では,トピックス的な性機能低下が取り上げられるくらいの関心しか持たれていなかった。そこで前述のワイマール宣言では,まず男女の寿命の著しい差を取り上げている。なぜ男性は女性に比して短命であるのか,XX/XYのみの差ではないであろうというところから始まったといってよい。男女生

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