医学界新聞

連載

2007.09.03

 

〔連載〕続 アメリカ医療の光と影  第111回

殺人犯?
それともヒーロー?(1)

李 啓充 医師/作家(在ボストン)


2736号よりつづく

 2006年7月18日,ルイジアナ州総検事局は,医師1人と看護師2人を,「患者4人を殺した」容疑で逮捕した。

 逮捕されたのは,医師アナ・ポウ(50歳,ルイジアナ州立大学准教授),看護師ロリ・ブードー(43歳),同チェリ・ランドリ(49歳)の3人だった。逮捕発表の記者会見をした州総検事チャールズ・フォティによると,ポウが致死量の薬剤を注射するよう指示,ブードーとランドリの2人が注射を実施したという。「安楽死ではなく,明白な殺人」と,第二級殺人の容疑で逮捕したのだった。

 逮捕発表と同時に,ルイジアナ州医療界に,激しい反発が巻き起こった。「3人が殺人犯だなんてとんでもない。それどころか,他の医療者が逃げ出すような過酷な状況に踏みとどまって,献身的に患者のケアに当たったヒーローだ」と,3人を逮捕したフォティ総検事を厳しく批判したのだった。

 はたして,3人は殺人犯だったのか,それとも,そうではなくてヒーローだったのか? フォティが言うところの「殺人」とは,いったいどんな事件だったのだろうか?

医師は殺意を否定

 フォティによると,「殺人」が行われたのは,超大型ハリケーン,カトリーナ直撃後の2005年9月,ニュー・オーリンズ市はメモリアル・メディカル・センターでのことだった。当時,ニューオーリンズ市全体がハリケーンの被害で周囲から孤絶していたが,メモリ

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