医学界新聞

寄稿

2007.08.06

 

【寄稿】

小児科医不足を考える
研修医の意思を尊重した取り組みを

内山聖(新潟大学小児科教授)


小児科の魅力・醍醐味

 小児科の魅力は,「高度な専門性と全人的医療の実践,そして医師としての誇りと生きがい」につきる。科学としての医学は身体を多くの部位に分け,個別に独立させて進歩してきたが,各臓器からヒト全体を理解することはできない。社会が求めている全人的医療とは,心を持ったヒトの身体を包括的に診て,その病を治す医療であり,小児科は高度な専門性を発揮しつつ全人的医療を実践している科であると自負している。現代の臓器別診療を揶揄して,「木を見て森を見ず」とよくいわれるが,山頂からパノラマを見渡しているのが小児科である。

 きわめて広い守備範囲も魅力の一つである。新生児から思春期,キャリーオーバーする疾患は成人まで,しかも,あらゆる分野の疾患を診るほか,育児相談,予防接種,乳幼児健診,学校健診,不慮の事故の防止など,地域社会の小児保健・学校保健の担い手でもある。将来の選択肢はきわめて多種多様で,自らのライフスタイルやライフステージにあわせて社会に貢献してほしい。

 Subspecialityを持った小児科医も必要であるが,小児科医そのものが高い専門性を持っているといえる。小児のプライマリ・ケアはほとんどがcommon diseaseであり,そこに隠れた重大な病気を早期に的確に見出すことが小児科医の小児科医たる所以である。小児救急もこの一環であり,小児科専門医をめざす日々の研修の中で,十分に対応できる実力が身につく。

 未来ある子どもたちの病を治し,子どもたちの健康を守るために日々,全力を注ぐ。そして,元気になった子どもたちの笑顔に疲れは癒される。小児科医になってよかったと思う毎日である。

小児科医のイメージと実際

 マスコミは「小児科は3K(きつい,汚い,危険)のため成り手が少ない」としばしば報じている。潜在的に小児科に心引かれる医学生は多く,彼らが最終的に小児科を諦める理由こそが小児科医を増やすために取り組むべき課題といえる。3Kと簡単にいうが,小児科は医療訴訟が少ない科の一つであり,危険という言葉はあたらない。同様に,子どもたちを扱っている私たちが現場で汚いと感じることはまずない。したがって,問題になるとすれば,残りのK(きつい)であろうか。

 このKの解決には適切な勤務体制の保障が最も大切であり,日本小児科学会は10-15名の小児科医が勤務する「地域小児科センター構想」など,小児科医の集約化を進めている。将来望ましい体制であるが,時間を要する検討課題がいくつかあり,特に地方では即効性は期待できない。

 ないものねだりをせずに現状を打破するには,綺麗事は捨て,やれることをやるしかない。指導医は学生や研修医に,思い切り小児科を楽しんでいる姿を無理にでも見せて欲しい。もともと小児科が大好きな貴方たちのはずである。疲れ切っ...

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