医学界新聞

連載

2007.05.14

 

連載
臨床医学航海術

第16回   医学教育(8)

田中和豊(済生会福岡総合病院臨床教育部部長)


前回よりつづく

 今回も筆者が経験した医学教育に関する奇妙な出来事を紹介する。

カンファレンス

 ある病院のカンファレンスでの出来事。

カンファレンスで発表者以外は全員眠っている!

 われわれ医師の責務は肉体的にも精神的にも過酷なものである。当直の夜はもちろん当直以外の夜も受け持ち患者の治療で眠ることができない夜が続くこともある。われわれ医師は慢性的に疲労困憊し睡眠不足である。だから,カンファレンスなどで落ち着いて座る時間があるとついつい眠ってしまうのである。ましてやスライド上映などで室内が暗くなるとますます眠りは深くなる。ピサの斜塔のように傾きながら眠る人,涎をたらす人,ついつい眠りが深くなりいびきをかいてしまう人,などなど。カンファレンス中の参加者の生態はさながら夜の森の生物のようである。睡眠や休息という人間の基本的な生理的要求さえ満たされていないのであるから,このようにカンファレンスで眠ってしまうというのは致し方ないことかもしれない。中にはカンファレンス中の睡眠が唯一の睡眠時間であるという人もいる。しかし,ここで疑問なのは「何のためにカンファレンスをしているのか?」ということである。

 福岡のある高校では昼休みにあえて昼寝の時間をつくることによって,午後の授業中の居眠りが少なくなり,学習効果を上げているという。同じように病院でもカンファレンスでこれだけ皆眠るのならば昼寝の時間をつくればいいのではないか? 昼寝の時間を表立って掲げるのはおこがましいのであれば,「スイミング・クラブ」でも「睡眠医学カンファレンス」でも,それなりの名称をつけて皆で眠れば怖くないだろう。カンファレンスの数はその病院あるいはその診療科の活動度を表しているかもしれない。しかし,その時間に皆眠っているのであれば,無理してわざわざ行う必要はないのではないか?

学会

 学会に行く人はとても楽しそうである。学会日程が終わってもその後の週末もなぜかすぐには帰ってこない。学会から帰ってきた人は,学会で発表された最新の知見について聴講したはずなのに,それについて尋ねてもまったくちんぷんかんぷんである。なぜか日焼けしてたりする。髪の毛も切りそろえられて,時にはパーマや染色されていたりする。肌は温泉にでも浸かったかのように潤って帰ってくる人もいる。

 学会に行ってリフレッシュして帰ってくる人に比べて,留守番組は3日3晩の当直を強いられ疲労困憊である。髪はぼうぼう,顔は疲れ果て,体は汗だらけで体臭がくさい。学会から帰ってきた人からの最新の医学知識というみやげもないし,みやげ話ときたら「誰々と会って一緒に飲んで楽しかった」ということくらいである。それだけ楽しい思いをして,学会開催地のおみやげを持って帰る程度のことで許してもらえると思っているのであろうか? 留守番組の白い眼を見ろ! 学会に行ってばかりいる特権階級の人々は,その間の診療体制が不十分になり,患者さんに行き届いた診療が行われなかったり,研修医への監督や指導が行き届かなくなったりすることをまったく気にかけないらしい。

 そんなに楽しい学会に自分も出席しない手はない。来年こそ箸にも棒にもかからないどうでもいい研究をして,病院から出張費をいただき,くだらない内容を大真面目に発表するために学会に参加しよう。しかし,ちょっと待て,つまらない研究を自分で発表するのは恥ずかしい。それじゃいっそのこと,この機会に誰か研修医に勉強のため発表してもらい,自分はそれを指導するという形で学会に出席することにしようっと。

現代医療のパラダイム・シフトの諸相
・基礎医学から臨床医学の時代へ
・疾患志向型から問題解決型の時代へ
・専門医から総合医の時代へ
・単純系から複雑系の時代へ
・確実性から不確実性の時代へ
・各国主義からGlobalizationの時代へ
・画一化からtailor-madeの時代へ
・医師中心から患者中心の時代へ
・教育者中心から学習者中心の時代へ

求められる4つの意識改革
・プロ精神を持つ
・フィールド・ワークを行う
・真理の追究目的から患者の幸福目的へ
・知識を知恵にする

医学教育の問題点
・基礎学力の低下
・ギャップの存在
・教育・学習方法
・評価方法
・人間関係

(次回につづく)


訂正とお詫び本連載第14回(2723号)に下記の誤りがありました。眼科卒業試験の問題文「眼科手術では手術前にまゆ毛を抜去する」は誤りで,正しくは「眼内手術では眉毛・睫毛は短く切っておく」です。ここに訂正させていただきますとともに,関係各位に深くお詫び申し上げます。

(「週刊医学界新聞」編集室)

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