医学界新聞

連載

2007.02.26

 

看護のアジェンダ
 看護・医療界の“いま”を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第26回〉
「疲れたから辞める」をなくそう

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 日本における看護職の勤務体制は,これまで三交代制が主流であった。それは,1947年に労働者保護を目的として制定された「労働基準法」において,労働者の就労時間を「1日8時間,週48時間まで」と規定したことから,完全看護承認制度(1958年に基準看護制度に改正)において,「看護の勤務形態はなるべく三交代制であること」と明記したことに関係する。

 その後,看護体制の見直しが行われた。1992年の診療報酬改定において,基準看護承認要件に「二交代制も差し支えない」の一項が加えられてから,病院における看護職の二交代制導入率は急速に上昇し,1999年には一般病棟の49.2%において実施され,三交代制の48.6%を上回るに至った。

二交代制勤務のメリット

 病院に勤務する看護師は24時間看護を提供するための体制を整えておかなければならず,臨床看護師に夜勤は不可欠であるという認識は,当事者のみならず一般にも知られていることである。病棟師長が毎月作成する勤務表は看護師たちにとってもっとも関心の高いペーパーであり,これによって1か月の生活が規定される。いわば勤務表に運命がかかっているのである。

 勤務表にはいろいろな記号が用いられるが,基本の形式は,縦軸に当該病棟に勤務する看護職員の名前(この順番をどう並べるかで物議をかもすこともある)と,横軸に日付と曜日が入る。図に雑誌に紹介された日本大学医学部附属病院内科病棟の勤務表1)を示した。説明によると,三交代制勤務は,日勤(8:00-16:00),準夜勤(16:00-23:30),深夜勤(23:30-8:00),休日とめまぐるしく変化し,生活リズムと身体のリズムが一致しないため,慢性的疲労につながりやすい。一方,二交代制勤務では,週1回の夜勤を組み入れても日勤3日間ののち夜勤に入るが,勤務間隔が24時間あるため,睡眠時間が多く取れることや,夜勤前日の夜をゆったりとした気持ちで過ごすなど,ストレスの解消に役立てることができるとしている。私自身も深夜勤に行く前の午後11時頃は寝不足と緊張感のため,ボーイフレンドにやつあたりしていたことを思い出す。

勤務帯が“選択肢”のフランス

 フランスのナースは夜勤に関するインタビューで次のように答えている(M.ブーロンニュ・ガルサン他:ケアの組織を比較する,北樹出版,2006年,88-89頁)。

 「看護学校を卒業して,看護師の資格を取得した後は,ずっと日勤のポストでC病院で1年間勤務してから,M病院にもどって10年間勤務しています。(中略)昼間の勤務を選ぶというのは家族の事情という理由によるのです。私が(看護助手として筆者註)夜勤をしていたとき,私は看護師と結婚しましたが,まだ子供はいませんでした。看護師の資格を取得してから,子供ができたので日勤のポストについたのです」

 「(前略)実際,10年前,一度,自由開業をやろうとしました。現在は自由開業にはまったく興味がありません。(中略)病院勤務の場合,その日の勤務を終えたら,日勤の場合,午後3時半ですが,それで仕事はきっぱりと終わりです。つまり,自由開業とは違い,夕方,夜は自分の時間になるのです」

 他のナースはこのように語っている(79頁)。「現在,ポストについている看護師長たちは,ほとんど全員,若い人たちです。そこで,彼女たちは退職まで長くとどまることになります。ですから,これからカートルの学校を卒業しても,準夜勤か夜勤のポストにしかつけないのです。日勤のポストはないのです。閉塞状態ですよね。私は,今の日勤のポストを失いたくはありません。(後略)」

 これらの記述にみられるように,フランスでは,どの病院で何をするかを決めるとともに,勤務帯もひとつの選択肢となっていることがわかる。

 どうやら,1人の看護師が1週間の間に,日勤と夜勤をくり返すという勤務形態はわが国独特のものであり,労働科学の研究などからみても「疲労」を蓄積する根源になっている。病院看護師が20代後半になると「疲れて辞める」のは,シフトローテーションによるところが大きい。今や,看護管理者は日勤と夜勤の完全分離制(総合大雄会病院)2)の導入を決断すべきである。

つづく


参考・引用文献
1)東克子,水野とよ子:有効な交替勤務のありかた,看護実践の科学,22(9),1997年,41-45頁.
2)山崎慶子他編:シフトワーク・マニュアル,日本看護協会出版会,1996年.

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