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第3248号 2017年11月13日


賢く使う画像検査

本来は適応のない画像検査,「念のため」の画像検査,オーダーしていませんか?本連載では,放射線科医の立場から,医学生・研修医にぜひ知ってもらいたい「画像検査の適切な利用方法」をレクチャーします。検査のメリット・デメリットのバランスを見極める“目”を養い,賢い選択をしましょう。

[第7回]肺領域

隈丸 加奈子(順天堂大学医学部放射線診断学講座)
村山 貞之(琉球大学大学院医学研究科放射線診断治療学)


前回からつづく

症例

 72歳女性。発熱と呼吸困難により近医を受診した。胸部X線写真を撮影したところ,全体にやや不均一なすりガラス陰影が確認された(図1)。

図1 仰臥位胸部X線写真
全体にやや不均一なすりガラス陰影を呈するが,肺炎像は明らかではない

市中肺炎の診断・重症度判定に使用される胸部X線写真

 日常診療で市中肺炎の可能性を疑った場合,まずは胸部X線写真を撮影することになります。肺感染症は私たちが遭遇する「異常所見を示す胸部X線写真」の中で,おそらく最も頻度が高い疾患群でしょう。胸部X線写真でコンソリデーションや浸潤影が認められれば,容易に肺炎の診断を下すことができます(図2)。胸部X線写真で起炎菌まで同定することは難しいです。しかしながら,コンソリデーションや浸潤影を示す細菌性肺炎と,すりガラス陰影を主とするマイコプラズマやウイルス性肺炎による非定型肺炎は,胸部X線写真だけでも鑑別可能なことが多々あります。

図2 発熱・呼吸困難を訴える68歳男性の胸部X線写真
右上葉にminor fissureに接するコンソリデーションを認める。上内側はすりガラス陰影を呈している。ブドウ球菌による肺胞性肺炎として加療された。

 日本呼吸器学会は,2007年,2008年にそれぞれ市中肺炎・院内肺炎の診療ガイドラインを作成しており1, 2),日本の呼吸器感染症の診断・治療はこのガイドラインに基づいて行われてきましたが,2017年に新たに「成人肺炎診療ガイドライン2017」が発行されました3)。このガイドラインでは,胸部X線写真は診断に用いられるのみならず,重症度判定の因子(胸部X線写真陰影の広がりが一側肺の3分の2以上)にも使用されています。

肺炎評価の胸部CT撮影法

 肺炎評価のための胸部CTを撮影する場合は,通常の撮影と同じく,肺尖部から肺底部までを5~10 mmスライス厚で撮影し,肺野条件と縦隔条件の画像を作成して示します。病変が小さく,さらに詳細な情報が欲しい場合は,必要に応じてスライス厚1~2 mmの高分解能CTを追加します。しかしながら多列検出器CT(マルチスライスCT)の登場により,最初から薄層スライスで撮影し,5~10 mm厚の再構成画像を作成して示すことも多くなりました。その場合は,高分解能CTは必要に応じて後処理で作成することができます。肺炎評価のために造影CTが必要になることは少ないですが,肺膿瘍などが疑われる場合,背景に腫瘍が疑われる場合などでは有用です。

市中肺炎における胸部CTの適応と有用性

 胸部X線写真でコンソリデーションや浸潤影が認められれば,肺炎の診断は容易です。「成人肺炎診療ガイドライン2017」では,「市中肺炎診断において,問診,身体診察と胸部X線画像で診断した肺炎に胸部CTを施行することは推奨されるか」というCQがあり,「実施しないことを弱く推奨する」と定められています。解説部分には「胸部X線の読影が困難な場合に,胸部CTを否定するものではない。また,異常陰影を見逃すリスクもあるが,負の側面(被ばく,コスト)を考慮すると,全例に胸部CTを行うのは問題がある」と記載されています。

 このように市中肺炎に対してルーチンの胸部CTは推奨されませんが,次のステップの胸部CTが必要なケースとして,以下のような場合が考えられます。

1)胸部X線所見が肺炎としては非定型的である場合
2)抗菌薬治療を行っても,臨床症状・X線所見が改善しない場合
3)肺炎の原因として中枢気管支を閉塞する肺がんなどや気管支拡張症など基礎疾患の存在が疑われる場合

 胸部X線写真では一定の偽陰性が存在し,胸部CTで初めて肺炎像を確認できることがあります。また,マイコプラズマ肺炎,結核,ニューモシスチス肺炎,ウイルス性肺炎などの非定型肺炎では,胸部CTでの特徴的な所見が治療戦略に貢献することがあります。2016年版の日本医学放射線学会画像診断ガイドライン4)では,「成人市中肺炎と非感染性疾患の鑑別にCTは有効か?」というCQには推奨グレードC 1(科学的根拠はないが,行うよう勧められる)が付けられています。感染症および非感染性疾患に比較的特徴的な高分解能CT所見が存在し,ある程度の鑑別が可能であるためと理由付けがなされています。「細菌性肺炎と非定型肺炎との鑑別にCTは有効か?」というCQも推奨グレードはC 1であり,肺炎球菌とマイコプラズマ肺炎との鑑別にCTは有用であるが,その他の病原微生物においては有用性のエビデンスは限られるとしています。

 以上より,臨床的に肺炎を疑うけれども胸部単純X線で診断が確実でないときや,非定型肺炎の病原微生物を特定できる可能性があるときなどには,積極的に胸部CTを行っていくことで患者さんの臨床的予後に貢献できると考えられます。

症例への対応

 胸部X線写真では肺炎像がはっきりしなかったため,非定型肺炎を疑って胸部CTを撮影した。高分解能CT(図3)では胸部X線写真で確認できなかった微細結節影が全肺野に多発していた。喀痰検査も施行し,粟粒結核と診断され入院加療となった。

図3 高分解能CT画像
全肺野に微細粒状影が多発

肺領域
画像検査適応のポイント

●被ばくやコストを考慮し,胸部CTの全例施行は推奨されない
●胸部X線の偽陰性や非定型肺炎を疑う場合はCTを推奨

(つづく)

参考文献
1)呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会編.「呼吸器感染症に関するガイドライン」成人市中肺炎診療ガイドライン.日本呼吸器学会;2007.
2)呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会編.「呼吸器感染症に関するガイドライン」成人院内肺炎診療ガイドライン.日本呼吸器学会;2008.
3)日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2017作成委員会編.成人肺炎診療ガイドライン 2017.日本呼吸器学会;2017.
4)日本医学放射線学会編.画像診断ガイドライン2016年版 第2版.金原出版;2016.

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