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第3178号 2016年6月13日


Medical Library 書評・新刊案内


外来診療ドリル
診断&マネジメント力を鍛える200問

松村 真司,矢吹 拓 編

《評 者》徳田 安春(臨床研修病院群プロジェクト群星沖縄副センター長)

珠玉の外来100症例を疑似経験

 医師の診療能力はさまざまな症例を経験して上達する。それはマニュアルやガイドラインのみを参照するだけでは決して得られない臨床の実践知なのである。読者は,本書を精読することにより珠玉の外来100症例を疑似経験することができる。患者背景,主訴,病歴,バイタルサイン,身体所見,初期検査などが継時的に示され,本書を読みながら外来診察室で患者と向き合っているような雰囲気に引き込まれていく。

 各症例には,臨床的な判断ポイントを問うものとして重要な,診断と治療についての設問が1つずつ付いている。設問数は合計200となる。選択肢は単純な知識を問うものというより,問題解決能力を問う形式がほとんどである。知識を問う問題の解答はネットですぐに得られても,これらの設問の解答について自信を持って選択することは簡単ではない。

 ページをめくってみると,解答・解説がエビデンスベースで展開されている。最新の文献に基づいていることが解説を読むとすぐに理解できる。また,重要な項目は表としてまとめられているので後で参照するのに便利である。

 そして,キーポイントが箇条書きに整理されており,読者が学習ポイントをきちんと押さえて記憶することができるようになっている。それに続く症例の「転帰」でどのように経過したかを見ることで,症例の臨床経過の疑似体験はクライマックスを迎えるのだ。

 文献リストに一文解説が付いているのもありがたい。どの文献を参照すればよいか,読者がすぐにわかるようになっているからだ。評者が以前に発表したリンパ節生検の適応についての臨床研究論文も取り上げてくれているのはうれしい。

 編者が受験生時代に愛用したドリル式学習問題集のアイデアをベースにした本書は,わが国でもユニークな医学書となっている。受験生時代に編者の偏差値を飛躍させたという意味では,このドリル式問題集の効果のエンピリック(経験的な)エビデンスは十分にあると言ってよいだろう。

 「目指せ! 外来偏差値65!!」とうたわれているように本書はやや難問症例を集めているが,診断難問だけでなく,いろいろな難しい質問を投げ掛けてくる患者への返事の内容も症例として取り扱われている。そこがまた,外来診療の醍醐味でもあるのだ。

 お勧めしたい読者層としてはまず,外来診療のマニュアルを読みながら外来診療を数年経験し,さらにスキルアップしたいと思う医師。内科のサブスペシャルティ診療科を長年担当した後に,新規に総合系の外来を担当することになった医師。内科系以外の診療科から,守備範囲を広げて外来診療を行うための準備をしている医師。最新のエビデンスベースで復習してみたいと思う外来診療ベテランの実地医家など,広くお勧めできる自己学習書である。

B5・頁212 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02505-8


COPDの教科書
呼吸器専門医が教える診療の鉄則

林 清二 監修
倉原 優 著

《評 者》早田 宏(佐世保市総合医療センター呼吸器内科/副院長)

COPDのエビデンスと患者中心の医療が融合された理念の書

 倉原優先生のブログは,文献量とその質の高さから,呼吸器内科医では知らない人がいないくらいである。このたび,その倉原先生による『COPDの教科書――呼吸器専門医が教える診療の鉄則』が出版された。COPDの患者は重症度,呼吸困難感の訴え,合併症によってさまざまな臨床像を示し,診療に当たっては個別化が必要である。

 複雑なことを難しく書くことは誰にでもできるが,わかりやすく述べることは容易なことではない。多様なCOPDの診療を詳しく書けば書くほど,〈COPDの本質〉を見失いがちになる。一方,単なるガイドラインの解説だと実際の患者像から遠く離れてしまう。本書は,読み物という体裁を取ってはいるが,〈COPDの本質〉を極めている優れた医学書である。文献の英語原著論文の数からもわかるように,最新のエビデンスを基盤に,おそらく著者が出会った一人ひとりの患者から得られた実体験が,その内容に反映されている。

 特に,出色の出来栄えなのは,最近販売された数多くの吸入薬の説明である。臨床試験データと共に吸入器具の特性や患者の個別性を踏まえて,吸入薬の選択アルゴリズムが極めてわかりやすく提案されている。また,多くの呼吸器専門医が常々感じていることも解説されている。例えば,長時間作用性抗コリン薬(LAMA)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)の選択順位,LAMAとLABAの心血管系合併症への懸念などである。また,各薬剤の治療効果の図が多く,LAMA単独では1秒量の約100 mLの上乗せ,LAMA/LABA合剤では約200 mLの上乗せという日々の患者説明の再確認を評者はさせていただいた。

 一方,本書は単なる吸入薬のマニュアル書ではない。死亡減少効果が明らかな禁煙や在宅酸素療法(適用基準例)が治療の基本であることが詳しく述べられている。さらに,回復しても患者を階段状に悪化させてしまう急性増悪時の薬物療法や非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)のポイントが説明されている。そして,重症COPD患者では避けては通れない緩和ケア(モルヒネ使用の課題)と人工呼吸器装着のAdvance Care Planningの話題へと展開していく。

 本文約330ページの中に〈COPD治療の神髄〉が全て書き込まれているのは感嘆の限りである。単なる読み物ではなく,エビデンスを重視しながらもそれを超えた,患者中心の医療の理念が軽妙な語りの中に込められている。本書を,COPD診療にかかわる全ての医療職にぜひ読んでもらい,明日からの診療に役立てていただきたい。

A5・頁348 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02429-7


臨床研究の教科書
研究デザインとデータ処理のポイント

川村 孝 著

《評 者》尾崎 紀夫(名大教授・精神医学)

患者一人ひとりを重んじる臨床的観点に満ちた教科書

 評者が初めて医学部生向けに臨床研究について講義した際,参考にしたのは学生時代に受けた講義であった。一方,大学院教育はまったく受けていなかったが,ありがたいことにNIH(National Institutes of Health)で臨床研究に参加して,臨床研究に必要な事項を学ぶことができた。(研究デザインをした上で)研究倫理委員会への申請,研究参加した患者を含む一般へのアウトリーチ活動,そして統計学の重要性といった事柄である。

 当方の大学院生には,〈患者・家族のニーズを踏まえ,日々の臨床疑問の解決と病因・病態を解明し,病因・病態に即した診断・治療・予防法の開発をめざすことが基本方針〉であり,〈臨床研究のしっかりしたお作法,すなわち研究デザインやデータ解析などを身につけることが重要〉と説明し,参考図書を紹介してきた。ところが,研究デザインやデータ解析に関する図書は,臨床的観点が乏しい,あるいは数式が多すぎてとっつきの悪いものになりがちである。さりとて,あまりに簡略化したものは食い足りず,良い臨床研究の教科書はないものかと,探し続けていた。

 本書の著者である川村孝先生は「『臨床clinical』という用語には,(中略)『一人ひとりのindividual』というニュアンスが含まれ」(p.4),臨床の現場においては「一人ひとりの運命を左右するので,個人レベルで高い精度が求められる」(p.158)と述べているが,評者が求めていたのは〈(患者一人ひとりを重んじる)臨床的観点〉に満ちた図書に他ならない。さらに「エンジンの構造に詳しくなくてもクルマの運転は上手にできる。ユーザーとしては,疫学と統計学を賢く使いこなすことができればそれでよい」(p.8)と「数式嫌いの臨床家」に優しい言葉を掛けてくれる。それでいて例えば,機能的変化をもたらすゲノム多型を用いることで,観察研究に不可避の交絡を最小限にして因果関係を推論する方法,Mendelian randomizationなどにも触れている。

 また副題で「研究デザインとデータ処理のポイント」とうたっているが,研究倫理,研究運営体制,論文執筆,論文投稿後の査読対応にまで及び,「査読意見にどうしても納得できない場合は,その旨を記述し,『著者は必要ないと考えるが,編集委員長がどうしても必要と判断するなら加筆(削除)する』と回答してもよい」(p.197)と,「人を対象として研究を行ったら,その結果がどうであっても必ず公表すべき」(p.184)との信念を具現化する戦略まで教えてくれる。

 欄外の文章も興味深い。「漢方薬は,その独特の苦みや臭いが別物質では再現できず,またそれらを含めて治療を構成するといわれているので,カプセル詰めやゼリー化では効力を失う」とされ,その結果,漢方薬のプラセボ対照試験が困難となっているらしい(p.45)。

 評者は学生時代,研修医の川村先生が在籍していた社会保険中京病院を訪問した。川村先生に「精神科志望である」と申し上げたところ,当時の精神科部長,成田善弘先生をわざわざ紹介していただいた。このことがきっかけとなり,評者は2年下の研修医として川村先生からさまざまな臨床場面で直接ご指導いただく機会を得た。本書には,川村先生の,患者一人ひとりの運命を左右する臨床への思いと,親切で教えることが好きな人柄が満ちている。臨床研究を始めようとする大学院生はもちろん,〈リサーチマインドの涵養〉に励む専門医研修中の医師にも,本書をぜひ読んでもらいたい。

B5・頁248 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02497-6


感染症プラチナマニュアル2016

岡 秀昭 著

《評 者》舘田 一博(東邦大教授・微生物・感染症学)

研修医にとってエッセンスとなるポイントがまとめられた一冊

 実に明快・簡潔に感染症の要点をまとめた本である。“プラチナ”という名に込めた筆者の思いを聞いたことはないが,余計な情報を削り落とし,研修医にとってエッセンスとなる抗菌薬,臨床微生物学,そして臓器・病態別の診断・治療のポイントがまとめられている。既にベストセラーになっていると聞いているが,本書をポケットに入れて病棟を走り回る研修医の姿が目に浮かぶようである。

 岡秀昭先生のこれまでの経歴・活動と人柄をご存じの方にとってみれば,岡先生らしいマニュアルが作られたと納得する一冊であろう。私も岡先生とは,地域連携の症例検討会などを通してしばしば交流する機会があるが,この本をめくってみて,あらためて岡先生の頭の中での知識の整理,思考過程が見えてきたような気がする。症例に向き合うことを第一に,これだけよく勉強して,そして常に新しい情報を入手しながらさらに高いレベルの診療につなげていく。ジカ熱に関する情報など,最新情報が多数記載されていることもさすがであり,2015年,16年のエビデンスが数多く引用されている。三五変型,たった250ページ程度の小さな一冊であるが,岡先生が重要と考える知識に加え感染症への思いが込められた2016年版となっている。

 本書はまだ2年目の新米本である(2015年に初版)。その本がこれだけの反響を受けていることがうれしいし,岡先生がこれからどのようにこれを改訂し,進化させ,そして育て上げていくのかが楽しみである。今の時代,新しい本を発刊するのは比較的容易である。しかし,それを改訂・継続させながら発展させていくのはなかなか難しい。この点で,本書が5年後,10年後に研修医の必携本となっていることを期待したい。そしてもう一つ,私からの勝手な希望を追加させてもらえれば,本書の中にガイドラインには記載されていない岡先生なりの経験,気付き,提案,知見が盛り込まれていけば……この本の改訂を通して,岡先生自身がどのように進化していくのか,個人的には大変楽しみに感じている。いつの日か,本書が感染症を志す人たちのプラチナ・バイブルになることを祈念して。

三五変型・頁272 定価:本体1,800円+税 MEDSi
https://www.medsi.co.jp/

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