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臨床研究の教科書

研究デザインとデータ処理のポイント

著:川村 孝

  • 判型 B5
  • 頁 248
  • 発行 2016年03月
  • 定価 4,536円 (本体4,200円+税8%)
  • ISBN978-4-260-02497-6
読むうちに臨床研究に必要な知識と技術が身につく!
「な~るほど、そうだったのか!」。複雑な疫学や統計学を初学者にもわかりやすく解説。ニューイングランド・ジャーナルやランセット、JAMAなどのトップジャーナルに論文を載せてきた臨床家による臨床研究の知識と技術、そしてコツを満載。研究デザイン、データ解析方法、中途打ち切り例の取扱い、多変量解析の限界など、初学者でも読んでいくうちにポイントがわかる。京大の臨床研究者養成コースのハイライト授業を再現!
序 文


 自動車メーカーのホンダ技研工業を創始した本田宗一郎の名言集にこんな言葉がある.
 「やってみもせんで,何がわかる….」
 臨床においてエビデンスが重視されるようになって久しいが,そのエビデンスも自分でつくってみると臨床論文の読み方もよくわかるようになる.それ以上に,自分...


 自動車メーカーのホンダ技研工業を創始した本田宗一郎の名言集にこんな言葉がある.
 「やってみもせんで,何がわかる….」
 臨床においてエビデンスが重視されるようになって久しいが,そのエビデンスも自分でつくってみると臨床論文の読み方もよくわかるようになる.それ以上に,自分たちでつくるエビデンスほど自分たちの診療に役立つものはない.
 エビデンスをつくること,すなわち臨床研究をやってみると,失敗や反省点がいっぱい出てくる.そのような失敗経験から学ぶことは数多く,2003年に自分自身や同僚の研究における多数の失敗談を紹介しながら臨床研究の要諦を解説した 『エビデンスをつくる——陥りやすい臨床研究のピットフォール』 (医学書院)を上梓した.さいわい好評を得たが,玄人好みというか,ある程度の実践経験がないとピンとこない話が多かった.
 そこで,初学者にも利用していただけるよう,新たに基礎から説き起こしたものが本書である.難しい研究デザインや複雑な統計処理も,根底にある考え方を理解してもらえるようにした.数式も少し出てくるが,概念を理解するために示すにとどめた.平易なことから始め,発展的な内容も盛り込んでいる.
 本書は,名古屋大学予防医学教室および京都大学社会健康医学系専攻(SPH)の授業,種々のカンファレンスや合宿における学生と教員,研究者どうしの切磋琢磨の中から生まれたものである.執筆はほとんど夜明け前.メールも電話も来ない静寂の中で,患者さんを前に精一杯頑張っている臨床家を思い浮かべながら書いた.
 稿を脱するに当たって振り返ると,かつて同僚であった玉腰暁子先生(北海道大学),若井建志先生(名古屋大学),安藤昌彦先生(名古屋大学),後藤雅史先生(京都医療センター)には研究方法論に関する有形無形の手ほどきを受けた.大先輩である齋藤英彦先生(元名古屋大学第一内科教授),岩塚徹先生(元愛知県総合保健センター所長),外山淳治先生(元名古屋大学環境医学研究所教授),児玉逸雄先生(前名古屋大学環境医学研究所教授),故大野良之先生(元名古屋大学予防医学教授),太田壽城先生(元国立長寿医療センター病院長)には,人を対象とした研究を行うきっかけをつくっていただき,その後も温かい目で見守っていただいた.諸先生にはどれだけ感謝しても感謝しきれない.
 現在の同僚である石見拓氏をはじめ京大の健康科学センターの教員やスタッフには,多忙な業務の中でどこにも引けを取らないアクティブな学術環境をつくっていただいた.教室に所属する学生は聡明で,本書の予稿の段階で原稿をチェックし,貴重なコメントを寄せてくれた.京大の社会健康医学系専攻の諸兄には折々に議論の相手になっていただいた.思索をめぐらすには最良の環境ではあったが,執筆に当たって医学書院の西村僚一氏には折々に刺激していただき,脱稿にたどり着くことができた.お世話になった方々にあらためて謝意を表したい.
 一書をまとめたとはいっても,果てのない学問の前に筆者はまだ一学徒にすぎない.今後,ウエブ上に追加情報の提供や意見交換の場を設けて読者とともにアップデートを重ね,臨床現場から良質なエビデンスが発信されるのをお手伝いすることが筆者の夢である.

 2016年3月吉日
 京都大学教授・健康科学センター 川村 孝
書 評
  • 患者一人ひとりを重んじる臨床的観点に満ちた教科書
    書評者:尾崎 紀夫(名大教授・精神医学)

     評者が初めて医学部生向けに臨床研究について講義した際,参考にしたのは学生時代に受けた講義であった。一方,大学院教育はまったく受けていなかったが,ありがたいことにNIH(National Institutes of Health)で臨床研究に参加して,臨床研究に必要な事項を学ぶことができた。(研究デ...
    患者一人ひとりを重んじる臨床的観点に満ちた教科書
    書評者:尾崎 紀夫(名大教授・精神医学)

     評者が初めて医学部生向けに臨床研究について講義した際,参考にしたのは学生時代に受けた講義であった。一方,大学院教育はまったく受けていなかったが,ありがたいことにNIH(National Institutes of Health)で臨床研究に参加して,臨床研究に必要な事項を学ぶことができた。(研究デザインをした上で)研究倫理委員会への申請,研究参加した患者を含む一般へのアウトリーチ活動,そして統計学の重要性といった事柄である。

     当方の大学院生には,〈患者・家族のニーズを踏まえ,日々の臨床疑問の解決と病因・病態を解明し,病因・病態に即した診断・治療・予防法の開発をめざすことが基本方針〉であり,〈臨床研究のしっかりしたお作法,すなわち研究デザインやデータ解析などを身につけることが重要〉と説明し,参考図書を紹介してきた。ところが,研究デザインやデータ解析に関する図書は,臨床的観点が乏しい,あるいは数式が多すぎて取っ付きの悪いものになりがちである。さりとて,あまりに簡略化したものは食い足りず,良い臨床研究の教科書はないものかと,探し続けていた。

     『臨床研究の教科書——研究デザインとデータ処理のポイント』において筆者である川村孝先生は「臨床clinicalという用語には,一人ひとりのindividualというニュアンスが含まれ」(p.4),「臨床の現場においては一人ひとりの運命を左右するので,個人レベルで高い精度が求められる」(p.158)と述べているが,評者が求めていたのは〈(患者一人ひとりを重んじる)臨床的観点〉に満ちた図書に他ならない。さらに「エンジンの構造に詳しくなくてもクルマの運転は上手にできる。ユーザーとしては,疫学と統計学を賢く使いこなすことができればそれでよい」(p.8)と「数式嫌いの臨床家」に優しい言葉を掛けてくれる。それでいて例えば,機能的変化をもたらすゲノム多型を用いることで,観察研究に不可避の交絡を最小限にして因果関係を推論する方法,Mendelian randomizationなどにも触れている。

     また副題で「研究デザインとデータ処理のポイント」と謳っているが,研究倫理,研究運営体制,論文執筆,論文投稿後の査読対応にまで及び,「査読意見にどうしても納得できない場合は,その旨を記述し,『筆者は必要ないと考えるが,編集委員長がどうしても必要と判断するなら加筆(削除)する』と回答してもよい」(p.197)と,「人を対象として研究を行ったら,その結果がどうであっても必ず公表すべき」(p.184)との信念を具現化する戦略まで教えてくれる。

     欄外の文章も興味深い。「漢方薬は,その独特の苦みや臭いが別物質では再現できず,またそれらを含めて治療を構成するといわれているので,カプセル詰めやゼリー化では効力を失う」とされ,その結果,漢方薬のプラセボ対照試験が困難となっているらしい(p.45)。

     評者は学生時代,研修医の川村先生が在籍していた病院を訪問した。川村先生に「精神科志望である」と申し上げたところ,当時の精神科部長,成田善弘先生をわざわざ紹介して頂いた。このことがきっかけとなり,評者は2年下の研修医として川村先生からさまざまな臨床場面で直接ご指導いただく機会を得た。

     本書には,川村先生の,患者一人ひとりの運命を左右する臨床への思いと,親切で教えることが好きなお人柄が満ちている。臨床研究を始めようとする大学院生はもちろん,〈リサーチマインドの涵養〉に励む専門医研修中の医師にも,本書をぜひ読んでもらいたい。
  • 作法は初心者のうちに学ぶべし
    書評者:村川 裕二(帝京大附属溝口病院中央検査部教授)

     今どきの〈愛想の良い本〉ではない。

     〈臨床研究をなぜやるか,どうやるか,ロジックは,統計処理は〉などを1cmの厚さにまとめてある。

     論文を10本書いた人が本書を開けば,自分の研究計画が杜撰だったとか,もっと理を詰めるべきだったなど思い至ることもあるかもしれぬ。しかし,多少でも研究の...
    作法は初心者のうちに学ぶべし
    書評者:村川 裕二(帝京大附属溝口病院中央検査部教授)

     今どきの〈愛想の良い本〉ではない。

     〈臨床研究をなぜやるか,どうやるか,ロジックは,統計処理は〉などを1cmの厚さにまとめてある。

     論文を10本書いた人が本書を開けば,自分の研究計画が杜撰だったとか,もっと理を詰めるべきだったなど思い至ることもあるかもしれぬ。しかし,多少でも研究の道を歩いてきたなら,自分の流儀が出来上がっていて,いまさらイチから習う気にはならぬもの。下手なゴルフを20年続けてきたのに,30回のレッスンを受けるために駅前のスクールに通う人は少ない。

     このテキストは研究の入り口か,そこをちょっと過ぎた辺りの読者に勧めたい。例えば,研究室の上司から「こんな研究を考えたらどうか」と〈おおざっぱな言葉〉で,〈それほど煮詰めてもないテーマ〉を提案された若手が購入すべきである。

     このテキストはテーマを与えた上司にとっても研究の成り立ちを手取り足取り教えなくてすむので,手間が省けるメリットがある。

     第1部は「研究の立案」,第2部は「研究の運営」,第3部は「データの整理と解析」。

     第1部で臨床研究とは何か,おぼろげに理解できてくる。何かの薬とプラセボをダブルブラインドで比較すれば一丁上がりだと思っている若者も「それなりに深い」と思うだろう。

     第3部は〈統計解析の本を一冊読むのはつらいから,このくらい理解したらどうか〉ということらしい。統計処理の個々のものを詳しく論じるのではなく,その性格がどんなものかヒントを与えている。

     第4部は論文の作法。brief and to the point。味がある。しぶい。

     第5部は具体的な研究の経過やその後を述べている。この第5部が一番おもしろい。rejectされて別なジャーナルに送った経緯や,「肩こりに対する鍼治療の有効性」の研究で〈何がどうしてどうなった〉と,詳しく語られている。見たことがない趣である。

     「ぴったりタイミングが合えば,ぴったりくるテキストである」が書評子としての結論である。そこまで成長していない人や,もう出来上がった人には向いていない。作法は初心者のうちに学ぶべし。

     最初に手に取ったとき,表紙の色やデザインが医学書院らしくないなと感じたが,内容は装丁がどうであろうと関係がない本だ。
目 次
 序章
  1.なぜ臨床研究が必要か
  2.足らないエビデンスは自分でつくる
  3.プライマリ・ケアの現場でもエビデンスはつくれる
  4.臨床研究の分類
  5.疫学・統計学のセンスを持つ

第1部 研究の立案
 1章 研究の構想
  1.診療上の疑問の定式化
  2.先行研究の成果の確認
 2章 研究のデザイン
  1.疫学とは何か
  2.実態を要約する記述疫学研究
  3.予後を調べるコホート研究
  4.原因を遡及する症例対照研究
  5.治療・予防の有効性を検証する介入研究
  6.診断性能を検証する診断研究
  7.研究の趨勢を知る系統的レビュー(メタアナリシスを含む)
  8.医療の効率を評価する費用効果分析
  9.膨大なデータから知見を見出すデータ・マイニング
  10.探査と精査のための質的研究
 3章 倫理的配慮
  1.倫理規範
  2.『人を対象とした医学系研究に関する倫理指針』の主な規制点
 4章 研究体制の整備
  1.研究の公正な運営に必要な組織
  2.科学研究費等の申請に必要な組織
 5章 研究計画書の作成
  1.研究計画書の内容
  2.現場マニュアル
  3.対象者への説明文書および同意書
  4.パイロット研究

第2部 研究の運営
 6章 研究の運営
  1.事前の準備
  2.研究の開始と維持
  3.データの収集
  4.対象者の登録・追跡の終了
 7章 研究費の確保と経理
  1.研究費の種類
  2.研究費の経理

第3部 データの整理と解析
 8章 データベースの構築と内包する問題
  1.データベースの構築
  2.バイアスと交絡
 9章 統計解析
  1.統計解析の考え方
  2.基本的な統計技法
  3.生存曲線
  4.交絡を調整する多変量解析
  5.個人の転帰を占う-臨床予測モデル
  6.基準値の作成
  7.観察研究で行う疑似的ランダム化試験
  8.サンプル・サイズの算定

第4部 研究成果の公表と活用
 10章 論文の執筆
  1.成果公表の義務
  2.論文の構成
  3.執筆の手順
  4.作文のポイント
  5.日常のトレーニング
  6.投稿と査読対応
  7.臨床現場の還元

第5部 研究の実例とトレーニング
 11章 臨床研究の実例
  1.手作り感覚の多施設共同RCT-感冒に対するNSAIDの有効性
  2.小数でも検出力の高いクロスオーバー・デザインのRCT
    -肩こりに対する鍼治療の有効性
  3.目の前の患者の真実を予測する臨床予測モデル
    -肺炎における起炎菌の薬剤耐性の予測
  4.経年変化を見る症例対照研究-心電図ST-T異常完成までの血圧の推移
  5.着想次第で面白い結果が出る記述疫学研究-働き盛りの突然死の実態
 12章 京都大学における臨床研究者の養成

文献
索引