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第3073号 2014年4月21日


量的研究エッセンシャル

「量的な看護研究ってなんとなく好きになれない」,「必要だとわかっているけれど,どう勉強したらいいの?」という方のために,本連載では量的研究を学ぶためのエッセンス(本質・真髄)をわかりやすく解説します。

■第4回:数値化のメリット・デメリット

加藤 憲司(神戸市看護大学看護学部 准教授)


3069号よりつづく

 前回まで,量的研究の新たなとらえ方をご提案してきました。量的研究はその名のとおり,「ものごとを数量的に表す」ことが肝心かなめの部分です。今回は,数量的に表すことのメリットとデメリットについて考えてみます。

それは数値化できますか

 ソチオリンピックでの日本人選手の活躍は,まだ記憶に新しいところです。特にフィギュアスケート女子の浅田真央選手が,ショートプログラムでの不本意な結果から立ち直り,フリーで素晴らしい演技を見せたことは,世界中の人々に感動を与えてくれました。ところで,フィギュアスケートの順位というのはどうやって決まるのでしょうか? 筆者はスケートについては素人ですが,調べてみると,現在のフィギュアスケートの得点は「技術点」と「演技構成点」に分けられるそうです。そして「演技構成点」の内訳は,スケーティング技術や音楽表現,振り付けなどプログラム全体の印象を評価する5項目から成っているとのことです1)

 ジャンプの回転数ならば,誰が数えても3回転なら3回転と決まるのでしょうけれど,「音楽表現」などと言われると,素人考えではずいぶん主観的なものにならざるを得ないように感じます。にもかかわらず,それを点数の形で細かく数値化しているのです。読者の皆さんの中にも,金メダルだった選手より銀メダルだった選手のほうがもっと印象的だった,という感想を持つ人がいるかもしれませんね。でも,だからと言って数値化をしなかったら,「みんなきれいでしたね」で終わってしまい,メダルや順位を争うことに意味がなくなってしまうでしょう。

 このフィギュアスケートの例から見えてくるのは,「世の中の出来事は,数量的に表すのがふさわしいものとそうでないものとがある」「数値化しやすさの程度は,物事によって異なる」という事実です。

数値化が比較を可能にする

 スポーツの例えをもう少し続けます。今,2つのサッカーチームがあるとします。一方は華麗なボールさばきで観客を魅了する個性派ぞろいのチーム,もう一方は各選手が小粒で地味ながら高い統率力で試合を運ぶチームだとしましょう。さて,どちらのほうが良いチーム,強いチームでしょうか? そんなこと,一概には言えないですね。どちらにも良さや強みがあるでしょうし,サポーターがどこに引きつけられるかも人それぞれでしょう。でも,どうにかして比較したいなら,どうしますか? それはもう,実際に対戦してもらうしかありませんね。優劣を決めたいのなら,同じピッチで,同じルールのもとで,試合をしてみて,勝敗とか得失点の形で数値化して比べるしかありません。

 量的研究はこれに似ています。量的研究においては,異なる集団同士を比較するために,その特徴を数値で表現します。そして統計という同じルールのもとで大小や優劣を比較することで,判断や推測の根拠とするのです。その一方で,数値として表さなかった特徴は,比較対照の俎上に載せることができません。量的研究を実施する際には,数値化することによって何を拾い,何を捨てているのかについて,十分に自覚的であることが肝要だと言えます。

数値化には落とし穴がある

 このように便利な数値化ですが,問題点もあります。一つはフィギュアスケートの例で触れたように,「それは本当に測れるものなのか」が不確かである場合にどうするかです。患者さんが訴える痛みや不安のような主観的なもの,「家族の絆」のような抽象的な物事を,誰もが同じ方法で測定できるかどうかは必ずしも自明ではありません。抽象的な物事を測定する試みに,尺度構成・尺度開発と呼ばれる方法がありますが,これについては本連載の後半であらためて述べたいと思います。

 次に問題なのは,「測るべきものを正しい方法で測っているか」です。例えば,福島第一原発事故の人体における影響を調べるにあたって,ホール・ボディー・カウンター(WBC)という装置が用いられることがあります。でも,WBCで測定できるのは放射性セシウムなどのガンマ線を放出する物質だけであり,ストロンチウムのようにベータ線しか出さない物質はこの方法では測れません2)。このことを知らないと,「WBCで検出されなかったから大丈夫」というふうに早合点してしまうおそれがあるでしょう。

 別の例を挙げると,前立腺がんの腫瘍マーカーである前立腺特異抗原(prostate specific antigen;PSA)は,前立腺がん以外の理由(加齢や前立腺炎など)でも高値を示すことがあります(偽陽性)3)。つまり,測りたいもの(前立腺がん)と測っているもの(PSA)とが必ずしも一致していないということです(PSAが無意味と言っているわけではありません)。このように「測りたいものをちゃんと測っているか」は方法の「妥当性」の問題と呼ばれますが,これも稿をあらためて解説します。

 もう一つ,数値化の問題で見落とされがちなのは,「ゼロは本当にゼロか」についてです。量的研究者にありがちなのは,「測定結果がゼロ」イコール「存在しない」と短絡的に考えてしまうことです。筆者はこの問題を考えるとき,いつもカエルを思い出します。本当かどうか知りませんが,カエルは動いているものしか見えないんだそうです。そして動くものを見ると,長い舌を伸ばして食べようとするのです。したがってカエルにとっては,「動かないもの」イコール「存在しないもの」なのでしょう。でも,「今,測定結果がゼロである」ということは,「現在利用可能な測定機器を用いた場合にゼロである」という限定された意味でしかありません。血液検査結果が基準値の範囲内だからと言って,被検者に「あなたは病気ではない」とは断言できないはずです。量的研究をする際は,カエルにならないように注意が必要です。

 「ゼロは本当にゼロか」に関して,もう一点述べておきます。再び原発事故を例に挙げて恐縮ですが,食品などの放射能測定において「検出限界1ベクレル/kg」といった表記を見たことがあるかもしれません。「検出限界」というのはその測定機器の性能が関係することはもちろんですが,周囲の遮蔽環境にも影響されます2)。遮蔽が十分でないと,試料から放出される放射線(シグナル)とバックグラウンドの放射線(ノイズ)とを識別できず,検出限界が上がって試料からの放射線を正しく測定できなくなります。この「シグナル」と「ノイズ」の関係は,量的研究における統計の考え方の基本となるものですので,ぜひ覚えておいてください。

 数値化のメリット・デメリット

今回のエッセンス

●数値化することで初めて比較が可能になる
●数値化の際には,落とし穴に対する自覚・注意を要する

つづく

参考文献
1)荒川静香.誰も語らなかった 知って感じるフィギュアスケート観戦術.朝日新聞出版;2013.
2)鳥居寛之他.放射線を科学的に理解する.丸善出版;2012.
3)独立行政法人国立がん研究センター.前立腺がん検診ガイドライン

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