医学界新聞

連載

2012.05.14

もう膠原病は怖くない!
臨床医が知っておくべき膠原病診療のポイント

◆その12 最終回◆
膠原病診療における免疫抑制治療

高田和生(東京医科歯科大学 医歯学融合教育支援センター 准教授)


2973号よりつづく

 膠原病は希少疾患ですが,病態はさまざまな臓器におよび,多くの患者で鑑別疾患に挙がります。また,内科でありながらその症候は特殊で,多くは実際の診療を通してでなければとらえにくいものです。本連載では,膠原病を疑ったとき,膠原病患者を診るとき,臨床医が知っておくべきポイントを紹介し,膠原病専門診療施設での実習・研修でしか得られない学習機会を紙面で提供します。


 最終回は,免疫抑制薬(immunosuppressive drugs:ISD)投与下の膠原病患者を診るときに臨床医が知っておくべきポイントを,作用機序と臨床効果,そして感染症の危険を中心に,まとめます。

(!)ISDはスタビライザーまたはステロイドスペアラーとして使用

 膠原病治療の根幹は糖質コルチコイド(GC)ですが,多くの患者に次の目的でISDが用いられます。

1)治療開始時の病勢沈静化がGCだけでは達成できない,または副作用により適切なGC量が投与できないとき(スタビライザーとして)。
2)初期治療により病勢沈静化が達成された後,その維持に免疫抑制治療が中~長期的に必要な場合に,蓄積性副作用のあるGC必要量を下げる目的で(ステロイドスペアラーとして)。

 ISDは,標的となる免疫反応に加え,各症例の病勢および副作用リスクに基づき選択されます。主なISDのターゲット(作用機序)をに記します。

 主な免疫抑制薬の作用機序
※メトトレキサートは,これ以外に抗炎症/免疫抑制作用を持つアデノシン濃度を高める作用を介して臨床効果を発揮すると考えられている。サラゾスルファピリジン(図中記載なし)は一部がそのまま小腸で吸収される一方,大部分は大腸内細菌によるアゾ結合切断にてスルファピリジンとアミノサリチル酸に分解される。膠原病への効果は,サラゾスルファピリジンのアデノシン濃度上昇作用を介した免疫調整作用および5-アミノサリチル酸の抗炎症作用によると考えられている。

(!)サイトカイン阻害薬は開始翌日から症状改善が見られ得る

 ISDの作用機序の違いにより,効果発現スピードが異なります。まず,サイトカインの直接阻害が最も速やかに効果を発現します。実際,関節リウマチでTNF阻害薬を使用した場合,多くの患者が翌日より全身症状の改善を自覚します。一方,転写因子制御,核酸代謝阻害,DNAアルキル化などでは,効果発現までに通常数週間を要します。生物学的製剤の場合,抗原提示細胞とTリンパ球間の共刺激シグナルを阻害し適応免疫を制御するアバタセプトでは,効果発現まで2-3か月を要します。

(!)ISDそれぞれの重症感染症相対危険度は2程度

 ISD使用に際し,感染症のリスクは医師・患者の双方を悩ませますが,ISDそれぞれの感染症の相対危険度はそれほど大きくありません。図に記したISD(膠原病診療での用量・用法)において入院を要する重症感染症の相対危険度は,シクロホスファミド(2.3)を除いていずれも2未満であり,生物学的製剤でも同様です(TNF阻害薬に関するメタ分析で1.37)。一方,各症例の絶対危険度には以下の要素も寄与します。

・個々の患者の基本危険度
・GCの相対危険度(プレドニゾロン換算10 mg/日以下で2程度1),40 mg/日以上で8程度2)
・各ISDと,各膠原病疾患や異なるGC用量との交互作用効果

 実際の重症感染症罹患率を見ると,関節リウマチ治療では総じて年間で100人中2-5人程度,高用量GCとシクロホスファミドパルス療法を併用したループス腎炎初期治療では6か月間で100人中10人程度になります。

(!)TNF阻害薬使用に際し常に結核の基本危険度評価が必要

 TNFαは肉芽腫形成に重要な役割を果たすことから,TNF阻害薬は肉芽腫形成性感染の危険を特に高めます。中でも疾患の基本危険度の比較的高い結核は重要で,TNF阻害薬による結核の相対危険度は4程度3)です(モノクローナル抗体製剤は可溶性受容体製剤より高い)。

 一方,適切なスクリーニングと予防により,再活性化の危険度を80-85%下げることができるので4),TNF阻害薬の使用に際しては,常にツベルクリン反応やクォンティフェロン等による基本危険度評価が必要です。

(?)メトトレキサート投与下では生ワクチンは絶対禁忌?

 GCまたはISD投与下の生ワクチン接種は,ワクチン由来の感染の増強・持続の危険があるため禁忌とされていますが,そもそも免疫抑制の程度は薬剤の種類やその投与量により異なりますし,危険度に関するエビデンスもありません。米国疾病予防管理センター(CDC)の推奨に基づき,今年出された米国リウマチ学会によるガイドラインでは,帯状疱疹ワクチン(生ワクチン)の接種につき,メトトレキサート,レフルノミド,サラゾスルファピリジン,またはそれらの併用治療下では接種可としています(GCについては,プレドニゾロン換算20 mg/日,2週間以上の投与に該当しなければ接種可)。

(!)トシリズマブ投与下では感染症でもCRP上昇がない

 ISD使用下の膠原病患者を診る際に役立つTipsを以下に記します。

*感染症罹患時のISD中断ですが,臨床効果発現と同様に多くのISDでは中断による免疫抑制効果減弱までに時間がかかります。よって,ISD中断の是非は,感染症の重症度とISDの免疫抑制度合いから判断します。米国リウマチ学会のガイドラインでは,抗菌薬を要する細菌感染,深部真菌感染,帯状疱疹合併時のISDすべての中断(サラゾスルファピリジンは含まない),高熱を伴うウイルス性上気道炎や皮膚潰瘍感染症などの場合の生物学的製剤の中断,が推奨されています。
*ISD治療中の患者の腎機能がさまざまな理由で下がった場合,活性体や毒性を持つ代謝産物が腎排泄されるISD(前者はメトトレキサート,アザチオプリン,シクロホスファミド,ミコフェノール酸モフェティル,ブシラミン,後者はミコフェノール酸モフェチルなど)は作用増強を来す可能性があるため,投与量調節が必要です。
*メトトレキサートは胸水や腹水に蓄積するため,それらの貯留時には投与量調節が必要です。
*シクロスポリンとタクロリムスは腎排泄ではありませんが,副作用(腎機能低下)のため腎機能低下時の使用は避けます。一方,これらは肝のCYP3A4により活性体が代謝を受けるため,CYP3A4の基質・阻害薬・誘導薬の併用時には投与量調節が必要な場合があります。
*レフルノミドの副作用が疑われ,体内からの除去が必要な場合は,コレスチラミン投与が必要です。
*作用機序から推察されるとおり,ISDの血中濃度は免疫制御を介した臨床効果とはそれほど強い相関関係にありません。血中濃度測定の意義は,多くの場合,副作用回避(血中濃度との相関関係が強い副作用)を目的としています。
*サイトカイン阻害療法中の患者では,感染症合併の際に呈する症候が減弱する傾向があります。特にトシリズマブ投与下ではIL-6刺激を遮断しているため,CRP上昇も伴わないことが多く,注意が必要です。

 1年間,本連載をお読みくださり,ご声援,ご指導くださった皆様に,心から感謝いたします。

(了)

文献
1)Lacaille D, et al. Use of nonbiologic disease-modifying antirheumatic drugs and risk of infection in patients with rheumatoid arthritis. Arthritis Rheum. 2008; 59(8): 1074-81.
2)Ginzler E, et al. Computer analysis of factors influencing frequency of infection in systemic lupus erythematosus. Arthritis Rheum. 1978; 21(1): 37-44.
3)Askling J, Risk and case characteristics of tuberculosis in rheumatoid arthritis associated with tumor necrosis factor antagonists in Sweden. Arthritis Rheum. 2005; 52(7): 1986-92.
4)Winthrop KL. Risk and prevention of tuberculosis and other serious opportunistic infections associated with the inhibition of tumor necrosis factor. Nat Clin Pract Rheumatol. 2006; 2(11): 602-10.

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