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第2935号 2011年7月4日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


多発性硬化症治療ガイドライン2010

日本神経学会,日本神経免疫学会,日本神経治療学会 監修
「多発性硬化症治療ガイドライン」作成委員会 編

《評 者》田平 武(順大大学院客員教授 認知症診断・予防・治療学)

現場の医師が直面する疑問の答えを容易に見いだせる

 「多発性硬化症(Multiple Scleorosis;MS)治療ガイドライン」が改訂された。初版は斎田孝彦前国立病院機構宇多野病院長を作成委員長として,2002年に日本神経免疫学会と日本神経治療学会により共同で策定された。あれから8年がたち,MSの考え方も治療法も大きく進歩した。今回は厚生労働省「免疫性神経疾患に関する調査研究班」の班長であった吉良潤一九州大学神経内科教授を委員長としてエビデンスの詳細な検討が行われ,日本神経学会も加わって3学会により合同で策定された。

 今回の特徴はクリニカル・クエスチョン形式をとっていることで,MS医療の現場にいる医師が直面する疑問に容易に答えを見いだすことができる。さらにエビデンスレベルおよびMindsの推奨のグレードが明確に示されており,EBMの実践を可能にしている。

 再発寛解型MSの急性期には炎症を抑え,病期を短縮して機能回復を図る治療が行われ,副腎皮質ステロイドが推奨される(グレードA)。しかし今日最も一般的に行われている大量静注療法(ステロイドパルス療法)は,保険適用がないため“グレードB”となっているのは残念である。今回,急性期の治療としてステロイドパルス療法により十分な効果が得られない症例に対し,血液浄化療法(アフェレシス),特に単純血漿交換療法が“グレードB”として推奨されている。血液浄化療法は保険適用があり,一定回数まで可能となっている。

 寛解期にはインターフェロンβによる再発防止が“グレードA”として推奨されるが,インターフェロンβが使用できない症例や効果が不十分な症例に対し免疫抑制剤(アザチオプリン,シクロホスファミド,ミトキサントロン)が“グレードBからC”で推奨されている。なお,対症療法のエビデンスや推奨のレベルは,本書では知ることができない。

 近年,視神経脊髄型MSの多くにアクアポリン4抗体が証明され,MSと区別すべきかMSの範疇に含めるべきか議論されている。治療面ではインターフェロンβの使用によりむしろ悪化する症例があり注意が必要であるが,すでに使用されていて有効と思われる症例もあり,新たに始める症例では慎重に投与すべきという表現になっている。これは他の膠原病を合併するMSでも同様である。

 MSの初回発作は治療面で気を使う。急性散在性脳脊髄炎(ADEM)のようにほとんど再発しない病気をMSと診断し,無用な予防治療を施さないとも限らない。最も恐れられるのは1回目の発作であると診断し経過観察していたところ,ひどい発作を起こして失明したような場合は訴訟もあり得る。治療のガイドラインがエビデンスに基づきここまで細かく記載されてくると,それを知らなかった場合言い訳が立たない。MSの治療に当たる医師は全員このガイドラインを熟知しておく必要があろう。

 今回の改訂では新薬の追加はほとんどない。欧米ではナタリズマブ,フィンゴリモド,リツキシマブなどが認可されMSの再発は著しく減少し病気の長期予後は改善している。わが国でも治験が行われており,これらの薬が使用可能になる日もそう遠くないと思われ,このガイドラインの見直しが近く必要となろう。

B5・頁168 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01166-2


噴門部癌アトラス

南風病院消化器内科 編

《評 者》浜田 勉(平戸市国民健康保険度島診療所)

胃癌を扱う臨床医必携の書

 噴門部とされる食道胃境界部のごく狭い範囲は,X線検査においても内視鏡検査においても観察が不十分となりやすく,病変の認識および診断,特に癌の早期発見がしばしば困難である。多くの消化管の専門家ですら経験できた症例は少なく,日常臨床検査で大きな盲点となってきた。

 編集代表である西俣寛人氏は,噴門部癌における膨大な症例の集積と多数の研究論文を発表してきた日本における第一人者であり,まさに『噴門部癌アトラス』は待望の書と言えよう。本書で示されている多くの症例画像は,西俣氏と鹿児島南風病院グループが噴門部癌にじっくり焦点を合わせ,症例を長年にわたり追い続けた結果の集大成であり,薩摩魂の真骨頂を見せている。

 本書は厳選された50例で構成され,その症例ごとに丁寧なX線や内視鏡画像とともに切除標本と病理組織像が提示され,症例の本質をついた表題と簡潔なコメントが記されている。掲載された症例は癌深達度がM癌(17例)からSM癌(18例),そして進行癌の順,すなわち癌の形態的変化が軽微のものから次第に凹凸の変化が明瞭なものへと工夫して配列されており,これにより読者は噴門部癌がその発育に従い形態的な変化が顕著になっていくさまを知ることができるだろう。特に早期癌症例の精密なX線像,色素散布像を混じた内視鏡像は秀逸で,思わず凝視するほどであり,編者たちのこれらの症例への並々ならぬ熱意を感じる。

 さらに,具体的なコメントを読み進むうちに,噴門部以外の胃における早期癌の形態とは異なる噴門部癌の特徴を学ぶことができ,次第に癌による異常所見の指摘や癌の深達度の予測が可能になってくることを読者は実感するだろう。本書は噴門部癌を余すところなく画像で示しており,消化管癌,特に胃癌を扱う臨床医にとって,内科医であれ外科医であれ,必携の書と言える。

 形態診断学はX線や内視鏡画像により視覚的に疾患の本質をとらえようとするものであり,数字によるパーセントや有意差検定などの統計学的な手法とは異なっている。したがって,提示される1枚1枚の病変の画像は,精密であるばかりでなく病理組織像を含めた形態を正しく表現しているかどうかが常に求められる。そのためには検査医の目を錬成していく必要があり,その点でも本書は最良の教科書に仕上がっている。どのような所見をどのようにとらえるかを追求して,日本は世界に冠たる消化管画像診断学を築き上げた。より良き画像への日々の研鑚こそが疾患の解明への道であることを確信できる1冊である。

B5・頁168 定価8,400円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01049-8


眼科ケーススタディ
網膜硝子体

吉村 長久,喜多 美穂里 編

《評 者》大橋 裕一(愛媛大教授・眼科学)

現場での情報を基に病態を推理する

 『眼科ケーススタディ 網膜硝子体』が,吉村長久先生と喜多美穂里先生を編者に医学書院から発刊された。板塀を思わせるチョコレート色の瀟洒な表紙の本書,京都大学医学部眼科学講座が精魂を込めて完成させた網膜硝子体疾患のガイドブックであるが,一見して,その構成に多くの創意と工夫が凝らされていることがわかる。基本線として,患者背景や主訴あるいは眼底所見をベースにした31に及ぶ症例バリエーションが呈示され,それぞれに光干渉断層計(OCT)を中心とする詳細な病態解説が続く。次の【Point】では,類似症例をリストアップし,鑑別診断のコツが要約されているほか,随所に散りばめられた【Memo】では,その項目に関連した豆知識を学ぶこともできる。眼底写真をはじめとする多数の図表,そして程よい量のテキストの中,フリーな気分で網膜硝子体疾患を学ぶことができる設計になっているのである。

 「序」において編者らも述べているように,OCTの出現は網膜硝子体疾患の臨床に革命的な変化をもたらしたと言える。眼底所見や蛍光眼底といった平面的な情報を基に感覚的に網膜硝子体疾患を考える時代から,個々の眼底所見を病理解剖学的な側面から確認しつつ,生じている病態をより深いレベルで考察しうる時代に入ったからである。本書編集のリーダーシップを取られている吉村先生はわが国を代表するclinician scientistであり,基礎研究者としても,また臨床家としても卓越した識見の持ち主であるが,この書に彼の理想とする網膜硝子体の臨床の在り方が具現化されているに違いない。京都大学眼科と言えば網膜硝子体が看板であるが,これほどの長きにわたってその伝統が続いている教室は全国でも他に類を見ない。本書の行間にその歴史が生み出す凛としたオーラを感じるのは評者だけであろうか。

 あえて言うならば,呈示された症例バリエーションは合わせても31,編者らも記しているようにこれだけでもかなりの網膜硝子体疾患が網羅されているのだが,疾患スペクトルの幅広さを考慮すれば,異なった切り口からの症例バリエーションもまだ残っているはずである。もしも紙面の都合で収めきれなかったような材料をお持ちならば,吉村先生,喜多先生にはぜひとも第二弾の刊行を期待したいものである。とにもかくにも,現場での情報を基に病態を推理するというコンセプトは素晴らしく,門外漢の評者ですら,知らず知らずのうちに読み込んでしまった。網膜硝子体の専門家を志す若手はもちろん,研修医から開業医まで,一度は触れていただきたい好著である。

B5・頁272 定価13,650円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01074-0


不整脈治療のThe Basics
臨床に役立つ電気生理学
Electrophysiology : The Basics─A Companion Guide for the Cardiology Fellow during the EP Rotation

山下 武志,野上 昭彦,高橋 良英 監訳

《評 者》奥村 謙(弘前大大学院教授・循環呼吸腎臓内科学)

不整脈はこの1冊でわかる:最新の知識を平易な日本語で解説したテキストブック

 本書はSteinberg氏,Mittal氏の編集によるElectrophysiology : The Basicsの訳書で,山下武志,野上昭彦,高橋良英の3氏によって監訳された不整脈診断・治療のテキストである。英文タイトルが『電気生理学:基礎(基本)』となっているため,当初は膜電位やイオンチャネルなどの細胞電気生理学の解説書かと思いひもといた。ところがThe Basicsは「知っておくべき基本的事項」の意味のようで,実際は臨床不整脈のテキストであり,The Basicsというように初学者にもわかりやすく,コンパクトにまとめられていた。和訳を担当された諸氏は循環器病学,不整脈学を専門とし,日常的に不整脈診療に当たるとともに最先端の治療に取り組んでいるわが国きっての強者である。何事もそうであるが,真に理解している者は難解な物事を平易に説明することができる。本書の和訳もそうで,不整脈発症機序にかかわる難解な部分が平易な日本語で説明されている。

 そもそも不整脈と聞くと敬遠する向きも多いとも聞く。私自身は医学部学生時代から心電図,不整脈に興味を持ち,現在は生業と言えるほど電気生理学,臨床不整脈学にどっぷりつかっているためか,さほど難解とも思えないし,むしろ発生機序から治療法までこれほど基礎と臨床が有機的かつ補完的にかかわり合う分野は他にはないとさえ思っている。ではなぜ不整脈は敬遠されるのであろうか。一つには用語が専門的で,いちいち解説がないと先に進めないこと,また細胞電気生理の知識がある程度必要なことが関係していると思われる。では,用語を平易に(標準的に),電気生理を模式図で示せば理解も容易となるであろう。本書はそういう要求に応えた,わかりやすい「不整脈の専門書」である。

 内容は4つのセクションから構成されている。最初の「不整脈の診断と治療」では,臨床で遭遇することの多い不整脈,失神,心臓突然死の診断,電気生理学,治療の進め方が最新の情報を基に明快に記載されている。「電気生理学的検査」では必要な設備から最新のマッピング装置,アブレーションまで記載され,これから臨床心臓電気生理検査を学ばれる方にとって大いに参考となるだろう。「ペースメーカとICD」の項目では,ますます賢くなったデバイスの機能,そして植込みの適応などが丁寧に説明されている。最後に「不整脈の知識」として,一般に診断が難しいとされるwide QRS頻拍の鑑別診断法が詳細に紹介され,さらに抗不整脈薬の分類と作用,投与法,そしてチャネル病としてのQT延長および短縮症候群,Brugada症候群などの病態,診断,治療までも記載されている。本書の特徴として,各項目の最後にKey Pointとして,ここだけは押さえておくべき内容が箇条書きで示されている。研修医諸君はKey Pointを記憶することで,各不整脈,検査,診断,治療の基本的事項,つまりThe Basicsを自分のものとすることができるだろう。

 繰り返しになるが,本書は心臓電気生理学をイオンチャネルレベルで解説したものではない。敬遠されがちな臨床不整脈の病態生理(発症機序),診断,治療をわかりやすく説明したテキストブックである。不整脈の臨床をこれから学ぶ研修医諸君のみでなく,内科学,循環器病学を専攻し,不整脈に関する知識を深めたい諸氏にもお薦めしたい一冊である。

A5変型・頁312 定価5,250円(税5%込)MEDSI
http://www.medsi.co.jp/

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