医学界新聞

連載

2011.05.16

学ぼう!! 検査の使い分け
シリーズ監修 高木康(昭和大学教授医学教育推進室)
○○病だから△△検査か……,とオーダーしたあなた。その検査が最適だという自信はありますか? 同じ疾患でも,個々の症例や病態に応じ行うべき検査は異なります。適切な診断・治療のための適切な検査選択。本連載では,今日から役立つ実践的な検査使い分けの知識をお届けします。

第 3 回
末梢血液一般検査

赤血球数(RBC)

ヘモグロビン量(Hb)

佐守友博(日本医学臨床検査研究所・統括所長)


前回からつづく

 末梢血液(末血)一般検査には,赤血球数(RBC),白血球数(WBC),血小板数(Plt)という3つの血液細胞成分の数(/μL)を測定する血球数検査のほか,ヘモグロビン量(Hb),赤血球が血液全体の容積の何%を占めるかを示すヘマトクリット(Ht),そして,赤血球の産生能を知るための網(状)赤血球比率(Ret,全赤血球に対する新生赤血球の割合)や血液像検査,血液比重などがあります。今回は,「RBC」と「Hb」に焦点を当てながら,末血一般検査のとらえ方を学んでいきます。


 今日の検査室では,自動血球計数装置の発達により,RBC,WBC,Plt,Ht,Hbの5項目に加え,Ret,白血球分類のデータがCBC(総血球数,complete blood-cell counts)として自動的に測定できます。さらに,RBC,Hb,Htの値から,MCV(平均赤血球容積),MCH(平均赤血球ヘモグロビン量),MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)の3データ(赤血球恒数)が計算され,機種によっては白血球百分率や赤血球所見,血小板凝集の報告や血液比重の測定を同時に行っています。

 一方,血液像検査は血液の塗抹標本を作製し,顕微鏡的に赤血球・白血球・血小板の形態や数(比率)を観察する検査です。赤血球では大小不同や奇形赤血球の有無,血小板では大きさや凝集の有無をチェックし,白血球では好中球・好酸球・好塩基球・単球・リンパ球の分類を行います。血液像検査にはもう一つ,本来正常では末梢血液中に出現しない幼若な血液細胞や腫瘍細胞の有無を観察するという重要な役割があります。

末血一般検査を行うとき

 末血一般検査は,通常の初診時検査や経過観察検査に付随して,患者の一般状態を知る検査として用いられます。特に初診時に何らかの疾患を疑って生化学的検査や免疫血清学的検査などの血液検査を行う際には,末血一般検査は同時に行っておくべきです。

 見落とされがちですが,必ず末血一般検査が必要な病態として,カタル症状を伴わない発熱(微熱でも),作業時の易疲労感・動悸・息切れ,腹部理学所見での肝臓や脾臓の腫大などがあります。これらは炎症性疾患や心疾患,また肝・門脈疾患が疑われる症状ですが,無自覚の貧血や白血病など思わぬ疾患が見つかることもあります。

 RBCとHbはともに赤血球を追うのに最適の検査です。ただ貧血は,酸素運搬能力が低下した状態を示すので,赤血球の数(RBC)ではなく,Hbで判断することに注意が必要です。RBCとHbには性差があり,通常♂>♀です。貧血がみられれば,RBC・Hb・Htの3項目からMCV・MCH・MCHCを計算し,MCVでその貧血が大/正/小球性かと,MCHで高/正/低色素性,すなわち赤血球1個に含まれるHbが多いか/普通か/少ないかを判断します。

検査値の推移から患者状態を正確に把握する

症例 1
29歳男性。数日前からの心窩部痛,昨日からの黒色便,ふらつき,めまいで来院。意識清明。身長172 cm,体重60 kg,体温36.9℃,血圧106/68 mmHg。顔色は不良で,眼瞼結膜も白色調。腹部の触診で圧痛あり。便は黒色タール状で,水で希釈した液は赤色調。便中ヒトヘモグロビン反応陽性。末血所見:WBC 8600/μL,RBC 320×104/μL,Plt 25×104/μL,Hb 10.2 g/dL,Ht 28.8%,MCV 90 fL,MCH 31.9 pg,MCHC 35.4%,Ret 14‰,赤血球像異常なし,白血球像はやや好中球の増加を認める。

症例 2
84歳男性。多発性動脈瘤による慢性のDICに対し,ワルファリンでコントロール中の患者。初診時,身長160 cm,体重62 kg,血圧101/57 mmHg。顔色不良で眼瞼結膜も白色調。末血所見:WBC 7300/μL,RBC 263×104/μL,Plt 9.1×104/μL,Hb 8.4 g/dL,Ht 27.1%,MCV 103 fL,MCH 31.9 pg,MCHC 31.0%,Ret 21.2‰。血液生化学検査所見:総蛋白7.1 g/dL,アルブミン4.0 g/dL,血液尿素窒素40 mg/dL,クレアチニン2.24 mg/dL。

 症例1は,上部消化管の大量出血が数日前に起こった症例と考えられます。便が黒色タール状であることから上部消化管の出血を疑います。便中ヘモグロビン陽性であり,赤血球恒数がすべて正常であることから急性の比較的大量の出血が疑われます。大量の血液が下血として排出されたこともあり,血圧が軽度に低下していますが,ふらつきなどの症状が著明なときはさらなる血圧の低下が予想されます。若い男性の基準値(RBC 450-500×104/μL,Hb 14-18 g/dL)と本症例のRBC・Hbから,約3分の1の血液が血管外に出たと想定できます。体重60 kgの成人の循環血液量は約4.8 Lであることから,約1.6 Lの出血と考えられます。

 症例2は,ベースに腎性の貧血と老人性の貧血がある腎機能障害の患者です。慢性のDIC(播種性血管内凝固)と溶血により,初診時から大球性の貧血を認めます。

 RBC,Hb,MCVの3項目の経時変化をに示しました。初診後すぐにDIC診断確定のため入院。へパリンの持続投与により血小板数の上昇,FDPの減少を認めたため,抗凝固療法をワルファリンに切り換えました。8月7日に退院。8月中旬よりエリスロポエチンの投与も行い,貧血(RBC,Hb)の改善とMCV正常化がみられました。しかし10月にPT-INR<2009>5.85とワルファリンのコントロール不良となり,多発性の巨大な皮下出血と筋肉内出血を来し,10月8日に緊急入院となりました。

 症例2のRBC,Hb,MCVの経時変化
プロットのA-Oは緊急入院前日からの各検査値。白抜きのプロットは2単位の赤血球輸血を行った後の検査値を表す。

 図のAの時点で既に慢性出血があり,AからCへと大量の出血を起こしていることがRBC,Hbからわかります。C,Dで輸血後にもかかわらずRBCの改善が見られないのは,出血がまだ続いていることを示しています。A→BでMCVが変化していないものの,C→Dの輸血後にMCVが低下したのは,正常なMCVを持つ赤血球の輸血を受けたためです。Fの時点でいったん止血したようにみえますが,F→Gで中等度の出血があります。G,Hの輸血が期待通り,RBC,Hbを上昇させていますが,I→Kで再出血が見られ,M以降完全に止血しました。この間のMCVの動きは,患者赤血球と輸血した赤血球の混ざり具合で変化していることがわかります。

まとめ

 RBC,Hbの検査は,病態に合わせて行うことが必要です。臨床症状や眼瞼結膜の所見から,ある程度の貧血の推測は可能ですが,出血時の止血確認や輸血時の効果確認には欠かせません。

ショートコラム

症例1,2ともに,Ret(基準値8-11‰)の基準範囲を超えた上昇を認める。このとき,出血のため赤血球系が造血刺激を受け上昇しているという勘違いがよくある。このような相対数で表現する検査データは絶対数に変換して考える習慣をつけてほしい。症例1の場合,RBCが320×104/μLなのでRet 14‰を絶対数に直すと4.48×104/μL。症例2では,同様に5.58×104/μLとなる。Retの絶対数の基準値は4-6×104/μLであるので,両症例ともRetの実数は基準範囲内にあり,造血刺激は受けていないと考える。

つづく


佐守友博
1973年東京医大卒。83年獨協医大越谷病院臨床検査部助教授を経て,89年より現職。2010年より日本臨床検査専門医会副会長。専門は止血機能検査。

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