医学書院

検索
HOME週刊医学界新聞 > 第2923号 2011年04月04日

第2923号 2011年4月4日


学ぼう!! 検査の使い分け
シリーズ監修 高木康(昭和大学教授医学教育推進室)
○○病だから△△検査か……,とオーダーしたあなた。その検査が最適だという自信はありますか? 同じ疾患でも,個々の症例や病態に応じ行うべき検査は異なります。適切な診断・治療のための適切な検査選択。本連載では,今日から役立つ実践的な検査使い分けの知識をお届けします。

第2回
腎機能検査

肝合成能
(アルブミン)

肝細胞傷害
(AST, ALT)

胆汁うっ滞(γ-GT)

前川真人(浜松医科大学教授 臨床検査医学)


前回からつづく

肝機能検査は,肝臓の機能や肝臓で生じる現象をとらえるための検査です。肝合成能をみるには,アルブミンのほか凝固因子(プロトロンビン時間など)やコレステロール,コリンエステラーゼなど。肝細胞傷害では,肝細胞からの逸脱酵素であるASTやALTのほか,LDや直接ビリルビン(抱合型)。また肝胆道系の閉塞を示すマーカーには,γ-GTやALP,直接ビリルビン(抱合型)といった検査があります。さらに肝臓が慢性炎症から肝硬変に進展する過程では線維化が進むことから,線維化のマーカーもあります。今回は,このような多様な肝機能検査を,どのように使い分けていけばよいか考えていきます。


病態把握にはマーカーの機序の理解が大切

 肝機能検査には,肝臓のさまざまな病態を把握するための多くのマーカーがあります。その選択基準や病態との関連をまとめたのがです。図を見ると,総ビリルビンや総胆汁酸は肝細胞の傷害・胆汁うっ滞・肝細胞の機能障害と3つの機序にまたがるマーカーとして位置付けられることがわかります。

 肝機能検査法の選択基準(文献1より)

 肝病態と肝機能検査の関連(文献1より改変)

 しかしながら,個々の検査項目における異常値は肝臓以外の臓器障害が原因となっても生じます。アルブミンはネフローゼ症候群のような尿中排泄亢進でも低下し,栄養状態の悪化でも低下します。ASTは全身の細胞に含まれ,ALTも肝細胞に特異性が高いとはいえ筋疾患でも上昇します。またビリルビンは,溶血亢進でも上昇します。

 つまり肝臓の病態を把握するためには,どの機序によって変動する検査項目に異常があるかを判定し,他の原因を排除しながら障害のタイプを鑑別することが重要です。また,そこから疾患名を考え,異常の度合いで重症度を推定していくことが大切となります。

肝機能検査を行うとき

 肝機能検査を行う目的は大別すると3つあります。1つ目は,広い意味では健診や人間ドックも含めた,肝疾患を拾い上げるためのスクリーニングです。2つ目は,肝障害の原因を探索するため。3つ目は,疾患の重症度や進展度を把握するために行われます。その際には,表の肝機能検査法の選択基準に基づく検査が推奨されます。

 特に肝疾患が疑われる症状がある場合,全身倦怠感や微熱,食欲不振といった不定愁訴のほか黄疸や尿の濃染などが認められた場合には,急性肝炎が疑われます。しかし,肝臓は沈黙の臓器と言われるほど予備力が大きいため,病態がかなり進展しないと自覚症状が現れません。したがって,臨床検査によるスクリーニングや定期的な経過観察が重要です。

症状に合わせた検査を選択する

症例
68歳男性。50歳を過ぎてから,ときどき全身倦怠感を自覚することがあったが,放置していた。2か月前から全身倦怠感が強くなり,2週間前から腹部膨満感と褐色尿を自覚。訳のわからないことを話すことに家族が気付き来院した。30歳のとき,胃潰瘍の手術で輸血を受け輸血後肝炎を発症,入院加療により改善した既往がある。

血液所見:赤血球数300万/μL,白血球数2200/μL,Hb 11.0 g/dL,Ht 32.0%,血小板数6万/μL。血液生化学所見:総蛋白7.0 g/dL,アルブミン2.5 g/dL,総ビリルビン4.0 mg/dL,直接ビリルビン2.5 mg/dL,AST 100 U/L,ALT 95 U/L,ALP 300 U/L,γ-GT 60 U/L,コリンエステラーゼ85 U/L,プロトロンビン時間16秒(INR 1.6),アンモニア300 μg/dL。

 全身倦怠感の増悪で来院した症例ですが,来院前は何の治療を受けることもなく放置されていました。これは肝臓が沈黙の臓器と言われるゆえんですが,だからこそ健診などによるスクリーニングが大切です。

 本症例では,黄疸や高アンモニア血症のためと推測される肝性脳症の症状も出現していることから,重篤な肝機能不全が疑われます。ですから,図のすべての観点から検査を行う必要がありました。また,原因探索も同時に行う必要があります。検査結果では多項目に異常値が認められています。すなわち,肝細胞の傷害,肝細胞の機能不全(ビリルビン代謝,蛋白合成能,アンモニアの解毒作用など),肝胆道系の閉塞を示す異常(軽度),貧血や血小板減少も認められています。これらの所見から,進行した肝硬変であることが考えられます。

 病因検索のため肝炎ウイルス検査を行ったところ,B型肝炎ウイルス感染の既往を示すHBs抗体が陽性,かつHCV抗体陽性であることから,C型肝炎ウイルス感染が示されました。以上より,HCVによる慢性肝炎から非代償性のC型肝硬変を引き起こしたものと考えられます。

まとめ

 肝機能検査は,健診にも用いられる項目を多く含んでいますが,それぞれの項目がどの肝機能,肝障害に関係しているのか,すなわち,肝細胞傷害,肝胆道系閉塞性障害,合成能の障害のいずれに最も異常が生じているか,それを検査データから理解して病態を推定することが肝要です。

 また,肝臓は画像検査の良い標的です。超音波検査をはじめ,CT,MRIなどの画像所見も十分に活用することが実際の肝疾患の診療には不可欠です。

 小林良正博士(浜松医科大学医学部第二内科)のご助言に感謝致します。

ショートコラム

肝合成能を示すマーカーの感度を考えるには,生体内半減期を理解する必要があります。アルブミンの半減期は約20日と比較的長く,徐々に異常値となりそれが長く持続するという特徴があるため,病態を鋭敏に表す検査というよりも全身状態の把握など幅広い疾患に用いられます。コリンエステラーゼの半減期は約10日であるため,アルブミンよりも早く低下します。また凝固第VII因子は半減期がぐっと短く,約4時間です。つまり,プロトロンビン時間は肝合成能の低下を鋭敏に反映します。

つづく

参考文献
1)日本消化器病学会肝機能検査研究班.肝機能検査法の選択基準(7版).日消誌2006;103(12):1413-9.


前川真人
1982年浜松医大卒。卒後同大検査部にて研修。89年米国国立環境衛生研究所へ留学。94年国立がんセンター中央病院(当時)臨床検査部,99年同医長を経て,2000年浜松医大助教授。01年より現職。専門は,臨床検査医学,臨床化学。

連載一覧