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第2923号 2011年4月4日


それで大丈夫?
ERに潜む落とし穴

【第13回】

失神:QT延長症候群

志賀隆
(Instructor, Harvard Medical School/MGH救急部)


前回よりつづく

 わが国の救急医学はめざましい発展を遂げてきました。しかし,まだ完全な状態には至っていません。救急車の受け入れの問題や受診行動の変容,病院勤務医の減少などからERで働く救急医が注目されています。また,臨床研修とともに救急部における臨床教育の必要性も認識されています。一見初期研修医が独立して診療可能にもみえる夜間外来にも患者の安全を脅かすさまざまな落とし穴があります。本連載では,奥深いERで注意すべき症例を紹介します。


 研修医生活も2年目となった。救急外来で後輩を指導することになり,少し不安なあなた。とはいえ,救急外来は相変わらず忙しい。元気なインターンが症例の相談に――。

■CASE

 16歳女性。生来健康。家族と口論となり,失神したとのこと。前駆症状はない。血尿なし。現在は元気にしていて,右の腰が少し痛いと言っている。以前,朝目が覚めてすぐに失神したことがあるという。血圧100/80 mmHg,脈拍数98/分,呼吸数14/分,SpO2 99%(RA),体温37.0℃。頭部外傷なし,頸椎を含めた椎体の圧迫なし,胸腹部圧痛なし,心音純,肺音清,四肢の腫脹圧痛なし。右の傍椎体部の圧痛あり。

■Question

Q1 失神の問診にて大事な点は何か?
A 鑑別診断を考えながら問診をすること。

 失神(SYNCOPE)の問診の一例を下記に示す。

Situational:咳や排尿などがあったか。

Vagal(※V looks like Y):空腹や疲労,感情の起伏があったか。

Neurogenic:頭痛の有無の問診は,くも膜下出血との関連から考慮すべきである。失神は,両側の脳血流が遮断されないと起こらないため,TIA(一過性脳虚血発作)ではめったに失神にはならない。

Cardiac:胸痛,呼吸困難の問診。さらに,『研修医当直御法度(第4版)』(三輪書店)で紹介されているHEART[Heart attack(急性心筋梗塞),Embolism(肺塞栓症),Aortic dissection(大動脈解離),Rhythm disturbance(不整脈),Tachycardia(心室頻脈)]にも気を付けたい。

Orthostatic:性器出血,タール便,腹痛の問診。女性なら,子宮外妊娠を考える。ワルファリン服用中の患者であれば後腹膜血腫を考える。心窩部痛があれば,上部消化管出血を疑う。

Psychiatric:転換性障害などを疑う。

Everything else

Q2 診察に当たって気を付けることは何か?
A 鑑別診断に沿って診察すること。外傷の評価を忘れないこと。

 心血管系では,心音(特に収縮期雑音に注意。失神を伴う大動脈弁狭窄症の場合は手術適応),両側の撓骨動脈,頸動脈雑音,腹部の圧痛の有無を確認する。上部消化管出血が疑われれば,NGチューブで胃内容を確認。便潜血の有無も確認する。また腹部の診察にて大動脈瘤の有無を確認する必要もある。

 また,失神によって転倒した場合,外傷の評価も不可欠である。頸椎外傷や頭部外傷の有無,椎体の圧痛,四肢の腫脹・圧痛,胸腹部の圧痛の有無,などを確認する。

Q3 失神において忘れてはいけない3つのアプローチは何か?
A 心電図,CBC,妊娠反応。

 心電図,CBC,妊娠反応。この3つは,どれも重要な鑑別診断にかかわるため失神のワークアップにおいて欠かせないものである。林寛之先生(福井大医学部総合診療部教授)は,これらを"失神の三羽ガラス"と提唱している。

 「そうそう。だから心電図だよね。心電図は主訴に合わせて読み方を変えるんだよ」と言いながら,インターンと一緒に心電図(図)をみたあなたは「?」と止まる。あまり重篤感のない病歴であったが,QTc(補正QT間隔)が延長していることに気付き,驚く。

 本症例の12誘導心電図
QT間隔がR-R間隔の半分を越えている。計測値は時に不正確であることに注意。本症例では,T波の終末がU波と融合している(T波の終末が不明瞭)。

Q4 失神の際の心電図検査において,気を付けるべき疾患は何か?
A Brugada症候群,WPW症候群,左室肥大(閉塞型肥大心筋症を示唆),催不整脈性右室心筋症,QT延長症候群。

 上記疾患について,心電図の特徴を挙げる。

Brugada 症候群:12誘導心電図のV1からV2(V3)誘導における特徴的なST上昇が見られる。

WPW症侯群:デルタ波,PR短縮が見られる。

左室肥大:胸部誘導において,V5やV6でR波高が高い(25 mm以上)。

催不整脈性右室心筋症:右側前胸部誘導(V2,V3)のT波陰転,右側前胸部誘導(V1-V3)におけるイプシロン波または部分的なQRS幅延長(>110 ms)が見られる。

 本症例ではQTcが延長しており,QT延長症候群が疑われた。

Q5 San Francisco Syncope Ruleとは何か?
A 入院の必要性を判定するための臨床ルール。

 収縮期血圧90 mmHg未満,息切れ,うっ血性心不全の既往,心電図異常(洞調律以外,以前の心電図より変化),Ht 30%未満。このいずれも認めない患者は入院を必要としないとするルール。当初の感度は96%であったが(Ann Emerg Med. 2004[PMID : 14747812]),San Francisco Syncope Ruleを検証するその後の追試では,同様の感度が得られていない。

 ほかにはROSE study,OESIL score(救急外来における入院判定ではなく,予後判定のスコア)などが知られている。OESIL scoreでは,「65歳以上」「既往歴で心疾患」「前駆症状なし」「心電図異常」を各1点とし,死亡率は1点で0.8%,2点で19.6%,3点で34.7%,4点で57.1%とされている。これらを比較する研究も実施されている2)

Q6 QT延長症候群において気を付けることは何か?
A 循環器科での入院治療が必要。

 入院後は,β遮断薬の投与などを考慮する。VT(心室頻脈)を繰り返す場合などは,ICD(埋め込み型除細動器)が必要となる。遺伝性QT延長症候群の可能性も考えられるため,家族の遺伝子テスト,モニターを行い,必要であれば,投薬・治療を考えなければならない。

■Disposition

 患者はQT延長症候群と診断され,循環器科入院となった。家族への問診で,妹が痙攣にて薬剤服用中とわかり,家族の遺伝子診断が勧められた。

■Further reading

1)Quinn JV, et al. Derivation of the San Francisco Syncope Rule to predict patients with short-term serious outcomes. Ann Emerg Med. 2004 ; 43(2): 224-32.
↑救急における失神の論文で欠かせない。

2)Reed MJ, et al. The Risk stratification Of Syncope in the Emergency department (ROSE) pilot study : a comparison of existing syncope guidelines. Emerg Med J. 2007 ; 24(4): 270-5.
↑複数のルールを比較している。

3)Serrano LA, et al. Accuracy and quality of clinical decision rules for syncope in the emergency department : a systematic review and meta-analysis. Ann Emerg Med. 2010 ; 56(4): 362-73.
↑現時点で救急の失神におけるベストサマリー。

4)Challenges of Diagnosis of Long-QT Syndrome in Children : Case Report
↑Long QT症候群のケースとサマリー。

Watch Out

 失神のアプローチでは,鑑別診断を念頭に置きながら問診,診察することが欠かせない。心電図を読む際には,5つの鑑別診断を必ずrule outしなければならない。妊娠可能な年齢の女性の失神では必ずHCGをチェックし,子宮外妊娠を考えること。Hypovolemiaが原因だとしても,それが腹部大動脈瘤によるものか,消化管出血によるものかなど,常に原因を探らなければならない。残念ながら,現状では心血管リスクのある患者や高齢者の救急医療における入院基準は確立されておらず,モニターのために入院する場合が多い。

つづく

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