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第2907号 2010年12月6日


レジデントのための
クリティカルケア入門セミナー

大野博司
(洛和会音羽病院ICU/CCU,感染症科,腎臓内科,総合診療科)

[第9回]

■人工呼吸器の使いかた(3) NPPV


2903号よりつづく

今回はNPPVを取り上げます。ここではクリティカルケアの現場で頻用されるフジ・レスピロニクス社の「BiPAP Vision」のモードで記載していきます。


CASE

Case1 陳旧性心筋梗塞,慢性心不全のある75歳男性。3日前からの労作性呼吸苦あり,ここ2日で夜間発作性起座呼吸,下肢の浮腫が強くなりERに搬送された。

 O215 L/分でSpO290%,血圧180/85 mmHg,心拍数90/分,呼吸数25/分,体温36.5℃。両肺野喘鳴著明,両下肢浮腫。体重+2 kg。うっ血性心不全急性増悪でICU入室。ニトログリセリン原液2 mL/時,フロセミド20 mg 2A静注し,NPPVをCPAPモード(CPAP 8 cmH2O, FIO21.0)で開始し,徐々に呼吸状態安定した。

Case2 肺気腫のあるADL自立の81歳男性。1週間前に感冒様症状,2日前からの発熱,労作時呼吸苦,喀痰,咳嗽で来院した。

 O210 L/分でSpO285%,血圧120/40 mmHg,心拍数140/分・不整,呼吸数25/分,体温37.5℃。粘稠な喀痰あり。胸部X線上は浸潤影はっきりせず。COPD急性増悪の診断でICU入室。ステロイド,β刺激薬吸入の上,NPPVをS/Tモード(IPAP 8 cmH2O,EPAP 4 cmH2O,FIO21.0)で開始し徐々に呼吸状態安定した。

NPPVとは

 NPPV(noninvasive positive pressure ventilation)とは非侵襲的陽圧換気のことで,気管内挿管や気管切開を行わない人工呼吸器管理を指します。クリティカルケアの現場では,人工呼吸器管理の大部分は気管内挿管を伴う侵襲的陽圧換気(invasive positive pressure ventilation ; IPPV)で行われます。しかしCOPD急性増悪,心原性肺水腫,免疫不全患者での呼吸不全ではNPPVが推奨されています。

 NPPVの利点としては,挿管に伴う危険の回避,人工呼吸器関連肺炎(VAP)の予防,開始・離脱が比較的容易,食事や会話が可能であることが挙げられます。欠点としては,気道分泌の多い患者では使用困難,誤嚥のリスク,マスク圧迫による発赤・潰瘍の形成,患者の協力が必要不可欠であることがありますが,適応を誤らなければ非常に優れた呼吸管理法ですので,積極的に使用すべきです。

NPPVのモード

 モードには,(1)CPAP,(2)S/T(spontaneous/timed),(3)PAV(proportional assist ventilation)/Tの3種類があり,頻用するのはCPAPとS/Tです。

 CPAPは,自発呼吸全般で気道に一定の圧をかけた状態を維持するモードで,強制換気はありません。使用時は,酸素濃度FIO2とCPAP(持続的陽圧気道)圧を設定します。

 S/Tは,自発呼吸を補助しながら,一定時間自発呼吸がない場合,設定回数のバックアップ呼吸が入るモードです。使用時は,吸気立ち上がり時間RiseTime,バックアップ換気の吸気時間Ti,バックアップ換気回数Rate,吸気圧IPAP,呼気圧EPAP,FIO2の設定が必要になります。IPAP-EPAPが人工呼吸器でのプレッシャーサポート(PS)圧に相当します()。

 S/Tモードの模式図
S/TモードではIPAP,EPAP,Rate,Ti,Rise Time,FIO2の設定が可能
Rate=バックアップ時の換気回数(BPM)
Ti=バックアップ換気の吸気時間
Rise Time=EPAP→IPAPまでの立上りの速さ
※図では,IPAP=10 cmH2O,Rate=10/分
EPAP=4 cmH2O,Ti=1.5秒,Rise Time=0.2秒

 PAV/Tは,あらかじめ気道内圧を設定するのではなく,呼吸筋発生圧(自発呼吸下でのエラスタンス)に対して一定の割合で気道内圧を保てるようにサポートするモードです。クイックスタートモードでは閉塞性・拘束性・混合性呼吸不全に対するVA(volume assist)値,FA(flow assist)値があらかじめセットされています。カスタムモードでは,100%アシストの上でVA,FA値を調整します。VA値は肺の弾性圧に打ち勝つために設定し,換気量を増幅します。5 cmH2O/Lで開始後,2ずつ増やし,気道内圧が上がりすぎたら1ずつ下げます。FA値は気道抵抗に打ち勝つために設定し,吸気流量を増幅します。2 cmH2O/L/秒で開始後2ずつ増やし,流速が速すぎて不快な場合1ずつ下げます。

 クリティカルケアで急性期にNPPV導入の場合,インターフェースとしては,フェイスマスクを基本的には選択します。特にフェイスマスク,鼻マスクでは鼻・頬の接触部位に発赤・表皮剥離ができることがあり,保護を行います。

 開始時は,(1)患者へ治療内容の説明,(2)適切なマスクの選択,(3)(器械に接続していない)マスクを顔にあててイメージしてもらう,(4)初期設定(CPAP,S/Tモード),(5)手で持ちながら固定せず運転開始(リークは当然のため,きつくあてないことがポイント),(6)患者の自発呼吸と器械の同調の確認(胸の動き,呼吸パターンの入念な観察),(7)呼吸が安定し,患者が納得した上でマスクをバンド固定する,の順番で行うとよいでしょう。

 NPPV使用時のモニタリングは,

*意識状態:意識レベル低下の有無
*精神状態:不穏・錯乱の有無。場合によってはデクスメデトミジンやプロポフォールなどの使用
*呼吸パターン:同調しているか,頻呼吸・低呼吸,努力性呼吸,奇異性呼吸,ファイティング,胸郭の動き
*気道クリアランス
*舌根沈下の有無
*バイタルサイン,動脈血液ガス分析
*マスク装着部の状態

 を適宜観察します。運転時にはリークしすぎることがよくあり,ヘッドギア(バンド)が緩い(または締め付けのバランスが悪い),マスクサイズ・種類が不適切,胃チューブによる段差,などを考えて適宜補正します。

 NPPV導入時には,どの時点で気管内挿管へ移行するかをあらかじめ決めておくとよいでしょう。呼吸数の上昇,呼吸パターンの悪化,換気量低下,意識レベル低下,原疾患の悪化など,導入1-3時間程度での治療への反応をみて,改善がなければ早期に気管内挿管・人工呼吸器管理にします。

疾患別NPPVの使いかた

1.COPD急性増悪
 S/Tで,Rate 8-10/分,Ti 1.2-1.5秒,FIO2 0.6-1.0で開始します。呼吸パターン,動脈血液ガス分析でのPaCO2値を目安に各数値を変更し,EPAP/IPAPは以下のように設定します。

EPAP:COPD急性増悪時は内因性PEEP増加のため,3 cmH2Oから開始し2ずつ上げ,呼吸補助筋,呼吸苦改善
を目安にします。大部分のケースは5-8 cmH2O程度で落ち着くはずです。
IPAP:PS圧が高いほど換気効率がよいため,5-8 cmH2Oから開始し徐々に上げます。

2.心原性肺水腫
 高二酸化炭素血症を伴う低酸素血症の場合はS/Tで開始します(CPAPで開始しても機能的残気量FRCが確保できれば高二酸化炭素血症が改善することもよくある)。低酸素血症のみではCPAPで開始し,CPAP 5 cmH2Oから1-2ずつ上げ,10 cmH2Oを目標とします。FIO2は1.0で開始します。NPPVが効果的であるメカニズムとして,

*肺胞内圧↑⇒間質浮腫↓⇒シャント血流↓⇒酸素化改善
*虚脱肺胞↓⇒機能的残気量↑⇒酸素化改善
*胸腔内圧↑⇒前負荷↓・後負荷↓・心収縮↑⇒心機能↑

 などが挙げられます。

 現時点で,NPPVを使いこなすための10のポイントをに示します。

 NPPVを使いこなす10のポイント
1.圧換気の開始時は低い吸気圧/呼気圧で開始し,徐々に上げていく。

2.マスクフィットが大切。最初に十分な説明と装着開始時は"わざと"リークを作るように軽めに鼻・口にあて,慣れるまでの時間を作る。最初からしっかり密着させない。

3.血行動態不安定,意識障害,気道確保困難,嘔吐・誤嚥,呼吸停止寸前のケースではNPPVは決して用いない。

4.NPPV適応のエビデンスがあるのは,(1)COPD急性増悪,(2)心原性肺水腫,(3)免疫不全患者の呼吸不全(特に両肺野浸潤影を伴う)。これらでは迅速にNPPV装着を行い,治療を早期に開始する。

5.低酸素血症による呼吸不全のケースでは,CPAPモード5 cmH2Oから開始し,酸素化をみながら2 cmH2Oずつ上げていく。

6.高二酸化炭素血症による呼吸不全のケースでは,S/TモードでIPAP 8 cmH2O,EPAP 3 cmH2Oから開始し,pH,酸素化をみながらIPAPを2 cmH2Oずつ上げる。

7.低酸素血症と高二酸化炭素血症による呼吸不全のケースでは,S/TモードでIPAP 10-13 cmH2O,EPAP 5 cmH2Oから開始して,pH,酸素化をみながら調整する。吸気ピーク圧20-25 cmH2Oまでは胃拡張は起きにくいためこれらの範囲内で吸気/呼気圧を調整する。

8.NPPV装着後1-3時間でのバイタルサイン,臨床症状,呼吸状態,血液ガス分析所見などをフォローし,増悪傾向ならばNPPVから気管内挿管・人工呼吸器管理へ速やかに移行する。

9.NPPVの効果が十分現れるまで,呼吸不全のケースでは絶飲絶食で対応する。

10.NPPV開始時はICUやそれに準じた呼吸・循環のモニタリングが可能な場所で治療を行う。

ケースを振り返って

 Case1では,急性心原性肺水腫へNPPVを導入しCPAPモードで改善がみられました。Case2は,COPD急性増悪でNPPVを導入しS/Tモードで改善がみられました。NPPVの適応のあるケースでは,いかに迅速に導入できるかが治療への反応を決めることと意識する必要があります。

Take Home Message

(1)NPPVでのモード,特にCPAPとS/Tモードの使いかたに慣れる。
(2)NPPVの適応となるCOPD急性増悪,心原性肺水腫での使いかたを理解する。
(3)NPPV管理中のモニタリングも大事。

つづく


参考文献
1)Mehta S, et al. Noninvasive ventilation. Am J Respir Crit Care Med. 2001 ; 163(2) : 540-77.
2)石川悠加編.これからの人工呼吸NPPVのすべて.JJN スペシャル.83.2008.
3)丸川征四郎監,武田晋浩編.急性期NPPV実践マニュアル.メディカルレビュー社;2006.

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