人工呼吸器の使いかた(4) ウィーニングと抜管(大野博司)
連載
2011.01.10
クリティカルケア入門セミナー
大野博司
(洛和会音羽病院ICU/CCU,感染症科,腎臓内科,総合診療科)
[第10回]
■人工呼吸器の使いかた(4) ウィーニングと抜管
(2907号よりつづく)
今回はクリティカルケアでの人工呼吸器のウィーニングと抜管を取り上げます。
CASECase1 75歳男性が肺炎,呼吸不全,意識障害でICU入室。BiPAPモード(FIO21.0,Tinsp1.5秒,f12/分,Pinsp 15 cm H2O,PS 10 cm H2O,PEEP 5 cm H2O)で人工呼吸器管理を開始した。抗菌薬投与,輸液負荷,カテコラミン使用し,徐々に全身状態改善した。鎮静剤としてデクスメデトミジン,ミダゾラム併用した。 呼吸状態改善のため,5病日抜管予定として4病日にミダゾラム中止。その後FIO20.3まで下がったため,f12→4/分へ減らした。5病日朝にFIO2そのままで,CPAP 5 cm H2O+PS 8 cm H2Oとした。抜管1時間前にCPAP 3 cm H2O+PS 5 cm H2Oとして,30分前よりインスピロンTピース50%5L/分吹流し。その後,問題なく抜管した。デクスメデトミジンは継続した。 Case2 肺炎,呼吸不全,ARDS,心不全,腎不全の67歳女性。挿管され人工呼吸器管理。鎮静・鎮痛目的でミダゾラム10 mg 5A+ブプレノルフィン0.2 mg 2A+生食38 ccを5 cc/時で持続静注。5病日朝に抜管予定として,4病日日中からプロポフォール原液持続静注に変更。朝よりプロポフォール中止し,アミノフィリン点滴,フルマゼニル1/2A静注×2回を行い,午前9時に無事抜管。 Case3 S状結腸穿孔による腹膜炎で緊急手術となった84歳男性。術後挿管され人工呼吸器管理。2日後の抜管予定を考え,過鎮静にならないよう考慮し,鎮静目的でデクスメデトミジン200μg1A+生食48 ccを3 cc/時で持続静注。鎮痛にはフェンタニル持続静注を用いた。A/CモードでIPPV→SIMV+PS→CPAPのウィーニングの過程で自発呼吸もすぐに誘発された。3病日朝にデクスメデトミジン3 cc/時継続しながら午前10時に無事抜管。 ※人工呼吸器モードはドレーゲル社のSavina®のもので記載。 |
ウィーニングのための条件
人工呼吸器管理は,人工呼吸器関連肺傷害(ventilator-induced lung injury ; VILI)などの負の側面が強調されてきましたが,VILIを可能な限り起こさない管理とともに早期の離脱(ウィーニング)が重要なポイントとなります。
ウィーニングのためのチェックポイントは,(1)原疾患,(2)呼吸器系,(3)心血管系,(4)中枢神経系,の4つにわけて考えるとよいでしょう。
まず(1)ですが,人工呼吸器管理に至った原疾患が改善し,さらに"輸液過多(血管内ボリュームオーバー)"でないことが重要です。ウィーニングの過程で陽圧換気から陰圧での自発呼吸というダイナミックな変化が起こるため,血管内ボリュームが多いと高齢者や合併症多数の症例では心不全を起こし,循環不全に陥るリスクがあります。そのため血管内ボリュームを常に評価することが大切となります。
(2)では,人工呼吸器管理でFIO2 0.4-0.5以下,PEEP 5-8 cm H2OでPaO260 mmHg以上ないしSpO292%以上,PaCO2が正常ないし人工呼吸器前と同程度のpH 7.35以上,吸気努力可能でRSBI(rapid-shallow breathing index)が100/L以下,などを目安にします。
(3)では,心筋虚血の徴候がなく心拍数50-140/分で,昇圧薬が投与なしかごく少量で維持できていることが挙げられます。
(4)では,十分な意識状態が得られていること,GCS≧13が目安となりますが,脳神経外科術後の患者や内科系で認知症・超高齢者の患者では必ずしもこの限りではありません。
人工呼吸器からの離脱では,いくつかのパラメータがありますが,特にRSBIを覚えておくとよいでしょう。一般的に自発呼吸に耐えられない患者では,ウィーニングし自発呼吸を誘導するにつれて,速く浅い呼吸となります。この指標として,呼吸数と1回換気量の比〔RR(回/分)/VT(L)〕で表したものがRSBIであり,正常は30-50/Lとなります。人工呼吸からのウィーニングの成否を判定する基準は約100/Lとされ,
*RSBI>100/L:失敗の可能性が高い。自発呼吸試験(SBT)中止,抜管延期。
*RSBI≦100/L:失敗の可能性は低いが,確実に成功するわけでもない。
を,ウィーニングの目安として考慮するとよいでしょう。
ウィーニングに失敗したらどうするか
ウィーニングがうまく進まず,途中で呼吸状態,血行動態が破綻する場合は,元の設定に戻し失敗した原因を考えます。以下の6つから考えると原因が見つかりやすいでしょう。
ウィーニング失敗時に考慮する原因 (1) 原疾患が改善していない (2) 輸液過多 (3) 心筋虚血 (4) 呼吸筋疲労 (5) 電解質異常(特にK,P,Mg) (6) 甲状腺機能低下症・副腎不全など内分泌学的異常 |
原因が判明した後の自発呼吸試験(SBT)ですが,1日1回,30-120分を目安に日々ウィーニング・抜管可能かを探ります。
鎮静とウィーニング
鎮静薬の中止については,次の5つのポイントを理解する必要があります。
(1) 投与期間による:24-48時間以上投与するとミダゾラムは遷延
(2) プロポフォールは36-48時間程度使用しても数分以内に覚醒 (3) 呼吸抑制が強い/呼吸抑制がある鎮静薬は原則中止 (4) 呼吸抑制がないデクスメデトミジンはウィーニング,抜管時も使用可能 (5) 高齢者,肝・腎疾患の患者では早めに鎮静薬を中止するよう意識する |
人工呼吸器管理中の鎮静でよく使われるものに,ミダゾラム,プロポフォールとデクスメデトミジンの3つがあります。それぞれの鎮静薬の特徴(連載第2回,2878号参照)を踏まえて,ウィーニング・抜管時の鎮静薬を中止するタイミングを考慮します。
一般的なウィーニング・抜管の流れ
以上を踏まえ,筆者の施設でのウィーニング・抜管の流れを紹介します。
抜管までの呼吸器モードの流れ
1.A/C : IPPVかBiPAP(FIO2を下げる) 2.SIMV : SIMV+PSかBiPAP(fを下げる) 3.CPAP+PS(PS/PEEPを下げる。最終的にPS5前後,PEEP 3-5) 4.インスピロンTピースでSBTを30分施行 5.抜管 ※特に自発呼吸を確認するSBTでは,(1)SIMV+PS,(2)CPAP+PS,(3)Tピース吹流,の抜管方法で比べると,(3)が最も短時間で抜管可能ということがわかっている。 |
抜管時のポイント
いざ抜管という際に考慮するポイントは次の2点です。1つ目は,気道が確保でき気道分泌物は排出可能か,です。咳・咽頭反射,咳で確かめます。
2つ目は,上気道閉塞を起こす喉頭浮腫がないかの確認です。抜管前に確認するためカフリークテストなどが考慮されていますが,まだ事前予測可能な確実なパラメータはありません。そのため,長時間の気管内挿管,挿管時に頻回の喉頭展開,再挿管,太いチューブでの挿管,といった抜管後喉頭浮腫のリスクがあるケースや,36時間以上の人工呼吸器管理を行っているケースでは,ステロイドを投与する予防方法があります。これは,抜管12時間前からメチルプレドニゾロン20 mgを4時間ごとに静注することで,喉頭浮腫軽減,再挿管率減少したという報告があることから頻繁に行っています。
抜管はスムーズに行う必要があります。特に心肺機能に予備能がないケースでは,抜管操作に時間がかかると,
(1)急激な陽圧換気→陰圧換気への変更による前負荷↑
(2)意識改善に伴い交感神経の過緊張による後負荷↑
(3)肺うっ血および心機能の急激な低下
というメカニズムで抜管処置前後でのうっ血性心不全惹起,循環破綻につながるリスクがあります。
抜管後のポイント
抜管後は,自発呼吸パターンと上気道閉塞徴候に注意を払って観察します。
特に自発呼吸パターンでは,(1)穏やかな呼吸をしているか,(2)呼吸時の姿勢,吸気呼気比,酸素投与量,呼吸数とSpO2に注目します。その上で呼吸が不安定な場合,原疾患が十分に治っていない,輸液過多,抜管中のトラブル,痛み,不安,せん妄などを考えて原因を探ります。
また上気道閉塞徴候の認識として,喘鳴があるか,吸気や呼気に雑音があるかを確認するとともに,頸部,肺野(上・中・下・背側)を十分聴診します。シーソー呼吸など上気道閉塞の呼吸パターンの認識も必要になります。
特に呼吸不全を疑わせる,(1)ガス交換ができない:呼吸数上昇(>20/分),呼吸補助筋(特に胸鎖乳突筋)の使用・起坐呼吸,(2)換気ができない:呼吸数低下・呼吸停止・シーソー呼吸,などに注意します。
ケースを振り返って
Case1は肺炎,呼吸不全で人工呼吸器管理を要し,治療への反応とともに呼吸器をウィーニングし抜管しました。
Case2はミダゾラムを鎮静に長時間使用したため蓄積効果を考え,ウィーニング,抜管前日から蓄積効果の少ないプロポフォールに切り替え,またテオフィリン製剤でミダゾラムの代謝を促進させて抜管となったケースです。
Case3は自発呼吸を残した人工呼吸器管理が可能となるようデクスメデトミジンで鎮静をかけ,ウィーニング,抜管後もせん妄への対応として継続使用しています。
Take Home Message (1)抜管前のポイント(原疾患の改善,呼吸・循環の安定,RSBI)を理解する。
|
(つづく)
参考文献
1)MacIntyre NR, et al. Evidence-based guidelines for weaning and discontinuing ventilatory support : a collective task force facilitated by the American College of Chest Physicians ; the American Association for Respiratory Care ; and the American College of Critical Care Medicine. Chest. 2001 ; 120(6 Suppl) : 375S-95S.
2)Francois B, et al. 12-h pretreatment with methylprednisolone versus placebo for prevention of postextubation laryngeal oedema : a randomised double-blind trial. Lancet. 2007 ; 369(9567) : 1083-9.
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