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第2850号 2009年10月12日


レジデントのための
Evidence Based Clinical Practice

【10回】 肺塞栓症へのアプローチ

谷口俊文
(ワシントン大学感染症フェロー)


前回よりつづく

 今回は内科の中でも重要な,肺塞栓症(Pulmonary Embolism;PE)に焦点を当てます。以前は日本人における頻度は低いとされてきましたが,診断技術と認知度が上がったためか,多くみかけるようになりました。確実なアプローチを身につけましょう。

■Case

 45歳女性。既往歴は気管支喘息。呼吸苦,胸部が重い感じを訴え救急外来を受診。体温36.6℃,血圧128/68mmHg,心拍数123/分,呼吸数26/分,SpO2 88%(RA)。鼻カニュラ(酸素流量3L/分),ベネトリンによる吸入,静注ステロイド投与にもかかわらず,SpO2は改善しない。胸部X線写真はほぼ異常なし。心電図は洞性頻脈であった。

Clinical Discussion

 この女性は複数の吸入器による治療にもかかわらず呼吸苦が改善せず,胸部に重い感じがあり,酸素飽和度は低く,頻脈であったため,喘息発作以外にも急性冠動脈疾患もしくは肺塞栓症を疑う必要がある。ほかにも問診次第でさまざまな鑑別が挙がるかもしれないが,この2つは特に致命的な疾患になりうるので除外が必要だと考える(ほかに胸痛で来院した患者で致命的になりうる疾患は,大動脈解離や緊張性気胸など)。心筋梗塞のリスクファクターを聞き出し,トロポニンを確認する。胸部苦悶感(胸痛),酸素飽和度の低下,過呼吸,頻脈を診た場合には積極的に肺塞栓症を疑う必要がある。

マネジメントの基本

 診断に関しては,何よりもまず肺塞栓症を疑うことである。心電図は非特異的な変化が多いが,洞性頻脈,非特異的ST-T変化(Chest. 1991;100(3):598-603.[PMID:1909617])があるとされる。塞栓が大きい場合には右心負荷の所見がみられるが,このような場合は診断が明白であることが多い。胸部X線写真も,大きな塞栓の場合には古典的なWestermark signやHampton’s humpがみられることがあるかもしれないが,非常にまれである。しかし何かしらの異常は84%の患者にみられるという研究があり,無気肺が68%といちばん多い所見だった(Chest. 1991;100:598-603.[PMID:1909617])。

 診断の核を成すのはMultidetectorによる造影CTである。これをサポートする重要なスタディはPIOPEDⅡ(N Engl J Med. 2006;354(22):2317-27[PMID:16738268])で,PEの診断において重要な臨床研究として位置づけられている。PIOPEDⅡでは,下肢静脈までスキャンする範囲を広げて下肢における深部静脈血栓症(DVT)の検索も行うことにより,診断の感度が上がることを示した。腎不全などで造影剤が使えない場合は核医学検査のV/Qスキャンを用いたいところだが,検査をできる施設が限られている。Wells Scoreを利用した診断アルゴリズム(図)を参照していただきたい。Wells Scoreが低いときにDダイマーは有用である。Dダイマーが陰性ならばPEはほぼ否定的であるからだ。

 PEが疑われた患者で低血圧もしくはショック状態にない場合の診断アルゴリズム(文献(1)より)

 治療に関しては,すぐに抗凝固を行う。へパリン点滴によりaPTTをコントロールの1.5-2.0倍に調節する(表)。その後にワルファリンによる抗凝固を開始。ヘパリンを先に投与していればワルファリンの開始は同日でも構わない。PT/INRにて用量を調節することになるが,初期投与量は1日5-6mgがよい。INR値が目標の2-3に落ち着くまで5日前後かかるので,それまではヘパリンにより抗凝固を利かせる。

 未分画ヘパリン投与プロトコールの一例
初期投与(bolus) 80単位/kg(もしくは5,000単位)bolus,そして18単位/kg/時
aPTT<35秒
(<1.2×コントロール)
80単位/kg bolus,投与速度を4単位/kg/時上げる
aPTT 35-45秒
(1.2-1.5×コントロール)
40単位/kg bolus,投与速度を2単位/kg/時上げる
aPTT 46-70秒
(1.5-2.3×コントロール)
変更の必要なし
aPTT 71-90秒
(2.3-3.0×コントロール)
投与速度を2単位/kg/時下げる
aPTT>90秒
(>3.0×コントロール)
1時間投与を中止,そして投与速度を3単位/kg/時下げる
*6時間ごとにaPTTを確認のこと

どのような場合に血栓溶解療法(t-PA)を用いるか?
 広範性肺塞栓症で循環動態が不安定な場合,すなわちバイタルが著しく変化している場合(血圧の低下が遷延する際,心停止時など)は適応となる。循環動態が安定している際には適応とならない。これはさまざまな臨床研究(J Am Coll Cardiol. 2002;40(9):1660-7[PMID:12427420]もしくはCirculation. 2004;110(6):744-9.[PMID: 15262836])において血栓溶解療法の使用の有無で死亡率の改善の有意差が出ておらず,出血のリスクも高いためである(しかし使用後には右室機能の改善,動脈血圧の改善がみられる)。使用には注意が必要だ。肺動脈にカテーテルを挿入して血栓溶解することは,末梢より全身性に投与するのと効果に差はなく推奨されない(Circulation. 1988;77(2):353-60.[PMID: 3123091])。広範囲肺塞栓症でトロポニンやBNP値が上昇するような場合に血栓溶解療法の適応になるかどうかはいまだ明確なエビデンスは確立していないが,右室負荷の指標になるデータが出ており,これらを治療のアルゴリズムに組み入れる動きはみられる(Cardiol J. 2008;15(12):17-20.[PMID:18651380])。

IVC(下大静脈)フィルターの適応
 抗凝固が禁忌の場合,抗凝固療法にもかかわらず肺塞栓症が再発してしまう症例,出血など抗凝固による合併症により抗凝固が継続できなくなった際はIVCフィルターの適応となる。このほか重症急性肺塞栓症に対しての適応もあるが,そのタイミングは難しい。

凝固性亢進のワークアップ
 まずは悪性疾患を必ず頭に入れなければならない。血液検査は(1)抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント,抗カルジオリピン抗体),(2)プロテインS(PS)欠乏症,(3)プロテインC(PC)欠乏症,(4)アンチトロンビン(AT)欠乏症,などが含まれる。PS,PC,ATに関しては抗原量と活性を測定するが,注意点としては急性血栓症を呈しているときには測定値が低下しているかもしれないこと。またワルファリン投与中はPS,PCは測定できない。ヘパリン投与時はATが低下するが,PS,PCに影響しないとされる。それを踏まえた上で,急性期の後や治療終了後の外来フォロー中など適切な時期に必要なワークアップを行うべきである。

抗凝固期間はどれくらい?
 明確なエビデンスはないが,一過性のメジャー・リスクファクター(大きな手術の後,メジャーな内科疾患,下肢のギブス装着など)の場合3か月,血栓性素因のない場合のマイナー・リスクファクター(経口避妊薬の使用,ホルモン療法中など)では6か月間。PS,PC,AT欠乏症や抗リン脂質抗体の存在など血栓性素因がある場合,活動性の悪性疾患が認められる場合,繰り返し血栓を形成してしまう場合では一生(indefinite)抗凝固剤を服用することが一般的に推奨されている(N Engl J Med. 2004;351(3):268-277.[PMID:15254285])。

診療のポイント

・肺塞栓症を鑑別に入れること。
・診断がついたらすぐヘパリン,その後ワルファリンの順で抗凝固を始める。
・凝固性亢進のワークアップを必ず行う。結果次第で抗凝固期間が変わる。

この症例に対するアプローチ

 喘息発作であまり身動きが取れず,喘息の治療に対する反応もよくなかったので,肺塞栓症の可能性を考え,造影CTを行った。その結果,肺塞栓症(その中でも鞍状塞栓)の診断がついた。トロポニンとBNPがわずかに上昇していた。これは塞栓が直接心臓を圧迫しているからだろうと考える。心エコーではRV Strain(右室の圧迫)がみられた。血圧は安定していたため,血栓溶解はせずにヘパリン静脈投与にて抗凝固を行う。ワルファリンを1日5mgより開始し,INRを2-3に調節する。そして退院後は,これが最初の肺塞栓症なので3か月間の抗凝固を予定して,外来でフォローし,凝固性亢進や悪性疾患のワークアップを行う。

Further Reading

(1)Konstantinides S. Clinical practice. Acute pulmonary embolism. N Eng J Med. 2008;359(26):2804-13.[PMID: 19109575]
(2)Bates SM, Ginsberg JS. Clinical practice. Treatment of deep-vein thrombosis. N Engl J Med. 2004;351(3):268-77.[PMID:15254285]
(3)Goodacre S. In the clinic. Deep venous thrombosis. Ann Intern Med. 2008;149(5):ITC3-1.[PMID:18765697]
(4)Fengler BT, Brady WJ. Fibrinolytic therapy in pulmonary embolism:an evidence-based treatment algorithm. Am J Emerg Med. 2009;27(1):84-95.[PMID:19041539]

つづく

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