腹腔鏡手術トレーニング:神の手チャレンジからの挑戦状!
寄稿 市川 雅男
2022.07.11 週刊医学界新聞(レジデント号):第3477号より
腹腔鏡手術を行う読者の中には,若手をはじめとして思うように鉗子操作ができないという方も多いだろう。そこで本稿では,トレーニングとして筆者らが行う「神の手チャレンジ」(以下,神チャレ)を紹介したい(写真1)。
神チャレは,腹腔鏡手術の道具を用いて折り鶴を作るスピードを競う競技であり,1000羽折る挑戦でもある。参加者には,折り鶴完成までの最速タイムによって称号が与えられる(超超超神:2分未満,超超神:3分未満,超神:4分未満,医神:5分未満,神の手:6分未満,救世主:7分未満,伝説:8分未満,師匠:10分未満,上級者:15分未満)。YouTube上で2015年6月に開始し徐々に参加者が増え,現在はFacebook上にコミュニティを作る。目的は,折り鶴トレーニングを通して多くの医師が楽しみながら技術を磨き,日本,さらには世界の腹腔鏡手術のレベルを飛躍させることにある。
◆鉗子操作修練への有用性
広くトレーニングが行われる結紮操作は手術の重要な要素であるが,手術時間の10%を占めるかどうかに過ぎない。その他90%の時間は,組織をつかむ,引っ張る,剥離する,切るといった単純動作である。これらの動作を腹腔鏡下という特殊環境で,俊敏かつ的確に実行するには長時間の訓練が必要な一方,ビーズ運び,輪ゴムかけなどの従来の練習方法は簡単ですぐ飽きてしまう上に孤独でつまらない。比べて神チャレは,難しくてイライラするが,達成感があってクセになる。自己ベストを更新した際は天にも登る気分だ。かつ,周りに情熱的なライバル(仲間)がいて楽しい(写真1)。
特に,手先が器用でない,手術する機会に恵まれない,非利き手がうまく使えない方にトライしてほしい。腹腔鏡手術が上手な人と上手でない人の違いは,頭でイメージした鉗子動作を2次元のモニターを通し,腹腔内で忠実に再現できるかどうかだ。初学者はこれがなかなかできず,利き手だけで操作しようとして非利き手が止まる。この習熟までの期間をラーニングカーブと称し,患者を付き合わせるのは勘弁してほしい。代わりに神チャレに挑戦し,まずは1000羽の作成を完遂しよう。折り鶴は,片方の鉗子で折ったり広げたりする際に,対側の鉗子で折り紙を押さえ込まないと紙が暴れる。つまり,折り鶴作成を積み重ねる過程で,強制的に左右の鉗子動作が連動する。さらに,タイムを意識することにより,あらゆる動作を一回でやり切る習慣がつく。気付けば自分の手のように,無意識に左右の鉗子を操れるはずだ。
◆折り紙と思うな,患者と思え!
一度折り始めたら,必ず最後まで折り切ってほしい。なぜなら,実際の手術は一度始めたら途中でやめることができないからだ。どんなに折り紙がグチャグチャになっても,そこからリカバーし,鶴を完成させる(患者を救う)。そうして真摯に取り組めば,折り鶴を一羽折ることは腹腔鏡手術一件を完遂するのと同等の修練になる。継続すれば,仮に手術機会に恵まれない医師であってもハイボリュームセンター以上の腹腔鏡手術の経験値を積めるはずだ。そして,1000羽の作成を完遂した暁には,神頼みではなく,自らの手で患者を救うことができるだろう。
本年12月には,初の全国(世界)大会の開催も予定している(写真2)。 “神の手”を手に入れたい若者は,ぜひ一緒に神チャレに参加してほしい!
市川 雅男(いちかわ・まさお)氏 日本医科大学産婦人科 准教授
1996年日医大卒。2003年同大大学院医学系研究科博士課程修了。08年同大産婦人科助教,12年講師を経て,22年より現職。腹腔鏡下仙骨腟固定術を先進医療として国内に導入。専門は骨盤臓器脱手術,子宮内膜症手術。「最高の治療をより多くの人に!」を信条に臨床に尽力する。
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