協奏する看護組織をつくる
地域と病院と現場が自律して響き合うために

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医療・介護を取り巻く環境が大きく変化する今、一人ひとりが専門性を発揮し自律しながら協働する「協奏する看護組織」づくりが求められています。本書では、急性期病院でトップマネジャーを務めてきた筆者が、「協奏」を軸として目指してきた地域に根差した組織づくりの実践と、その考え方を紹介。実際のプロジェクトとプロセスを言語化し、しなやかで自律した組織の育て方を示します。自組織を振り返り、次の一歩を考えるために。

シリーズ 看護管理まなびラボBOOKS
編著 田中 いずみ
発行 2025年08月判型:A5頁:216
ISBN 978-4-260-06246-6
定価 2,750円 (本体2,500円+税)

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はじめに

 今,医療・介護を取り巻く環境が大きく変化しています。
 変化の激しい時代に身を置いている看護管理者は,「今までこうしていたから」「昨年はこうだった」と漫然と行動していると,医療提供システムの動きから取り残されてしまいます。あるいは,「人が少ないから」「医師の協力が得られないから」とできない理由ばかり考えていては,何も始まりません。
 やらなければならないことは山積みで,どうしても目の前のことに追われがちです。しかし,今求められているのは,地域全体が一つとなって医療・介護を提供する体制です。自施設の中だけにとどまらず,地域の状況を分析し,未来を見据えて戦略・戦術を持って事に当たることが,ますます重要になっています。
 とはいえ,どれほど綿密な戦略・戦術を立てたとしても,あるいは他施設の優れた取り組み方法を真似てみたとしても,それを実行する組織・チームが動かなければ,これまた何も始まりません。

 そのため本書では,「組織づくり」に焦点を当てています。地域とともに変化に対応できる柔軟でしなやかな組織,変化に対応して自分で考え,判断し,行動できる看護管理者,新しい変化に臆せず前向きに取り組む看護師──そうしたメンバーで構成された足腰のしっかりとした組織こそが,この不確実な時代を乗り越えていけるのだと,私は考えています。
 私が看護部長に就任するにあたり,目指す組織の姿を模索する中で出会ったのが,「協奏」という概念でした。以来,私は「協奏する看護組織」を目指して歩んできました。本書では,この「協奏」を軸として,これまで看護組織をどのようにつくり育ててきたか,そしてその組織がどのような実践を重ねてきたかを記しています。
 第1部では,看護部でどのような考えを持って組織づくりをしているか,看護管理者の姿勢や組織風土を醸成するための具体的な仕掛けについて述べています。
 第2部では,当院の副看護部長たちが,戦略に基づいてどのように粘り強く事業を展開してきたかをお伝えします。また,看護師長たちがスタッフとともに進めている部署の運営と目標達成のプロセスを言語化してもらい,「協奏する看護組織」が現実にどう動いているかを具体的に紹介しています。
 そして第3部では,「協奏する看護組織」としてこれから取り組むべき課題と捉えているものについて述べています。

 本書では,当院の看護部の取り組みを通して組織づくりについて紹介していますが,もちろん,他にもっと素敵な組織があることは,私自身よく知っています。私の想像を超える方法で素晴らしい取り組みをし,実績を積んでいる組織もたくさんあります。置かれている状況は,組織の機能や地域性によって違うのですから,どのような組織が“良い”“悪い”と一律に言えるものではありません。
 それでも,本書に記した当院の組織づくりとさまざまな取り組みを知っていただくことで,読者の皆様が,ご自身の組織と対比しながら自分たちを振り返る機会となることを願っています。そして,混迷を極める中で日々奮闘している,看護管理者の仲間の,明日への一歩につながれば幸いです。

 2025年7月
 田中いずみ

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はじめに

序 看護管理者としての礎となっているもの

第1部 協奏する看護組織をつくる
 第1章 協奏する組織とは
 第2章 協奏する組織風土
 第3章 自律的な組織を育む仕掛け

第2部 協奏する看護組織の歩み
 第1章 地域で暮らすその人を地域で支える仕組みづくり
 第2章 外来を軸とする地域療養支援の確立
 第3章 看護力向上による身体拘束ゼロ化への取り組み
 第4章 根拠を持った看護実践のためのデータマネジメント力強化
 第5章 看護師一人ひとりがチャレンジできる教育環境の整備
 第6章 挑戦し,振り返り,楽しみながら成長する看護主任育成支援
 第7章 看護師長によるバランス・スコアカードの部署展開
 第8章 現場の困りごとにすばやく対応する倫理コンサルテーション

第3部 協奏する看護組織のこれから
 第1章 自ら考え,発言できる看護師へ
 第2章 患者の生活機能に着目し,院内・院外のチーム医療を推進する

おわりに
引用・参考文献

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看護管理者が一歩踏み出す勇気とヒントに満ちた一冊
書評者:川﨑 つま子(大坪会グループ看護局長)

 著者の田中いずみさんが大会長を務めた第29回日本看護管理学会学術集会のテーマは,「暮らしの中の協奏」でした。私は「協奏」という言葉を,主に音楽の文脈で使われるものと理解していたため,「暮らし」と一体どのように結び付くのか,強く興味を引かれました。田中さんとは以前,医学書院の座談会でご一緒したこともあり,このテーマに込められた意味を知りたいと,特別の思いで学術集会に臨みました。

 学術集会に参加し,そして,時を同じくして出版された本書『協奏する看護組織をつくる』を読み,田中さんが大切にしている「協奏」の概念についてより深く理解できたように思います。本書には,田中さんが「協奏する看護組織」をめざしてこれまで行ってきた組織づくりの実践が,余すことなくつづられています。読み進めるうちに,私自身の看護管理者人生とも重なり,何度もうなずき,胸の高鳴りを感じました。

 田中さんは,10年前の看護部長就任直前に,小森谷浩志氏の著書『協奏する組織』(学文社,2012)で「協奏」の概念に出合い感銘を受け,「人と人で支え合い,学び合い,奏でる組織」,すなわち「協奏する組織」をめざしたいと思うようになったと述べています。それ以来,ぶれることなくこの概念を軸に,着実に組織づくりに取り組んでこられました。

 その協奏の範囲は,院内などの組織の中だけにとどまらず,地域にまで広がり,組織と組織,人と人がつながり,それぞれが自律して活動が続けられています。そこには,リーダーのトップダウンの命令ではなく,患者のため,地域のためという共通の目的の下一人ひとりが自律的に考え,行動し,そのプロセスを楽しめる組織という,まさに田中さんがめざした組織の姿が展開されています。

 本書は3部構成となっており,第1部「協奏する看護組織をつくる」では,「協奏する看護組織」に対する田中さんの思いや自律的な組織を育む仕掛けが語られます。第2部「協奏する看護組織の歩み」では,副看護部長や看護師長が,それぞれかかわっている具体的な取り組みについて執筆しています。そして,第3部「協奏する看護組織のこれから」では,未来を見据えた専門職としての看護師の在り方や,患者の生活機能に焦点を当てた院内外のチーム医療の推進が展望されています。

 本書は,組織の規模を問わず「自分の組織を発展させたい」「職員同士が同じ目的をめざせるようにしたい」「地域ともっとつながりたい」「自律した看護師を育てたい」といった願いを持つ全ての看護管理者に勇気とヒントを与えてくれるでしょう。本書を読み終えたとき,自分の中に一歩踏み出す力が芽生えることを実感できるはずです。この本に出合えたことに,心から感謝します。

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