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[第23回]日本で会社名と主要サービスに関連した商標権を取得しました。これで安心して上場準備や海外展開に進めますよね?
研究者・医療者としてのマナーを身につけよう 知的財産Q&A
連載 小林只
2026.09.04
Q.日本で会社名と主要サービスに関連した商標権を取得しました。これで安心して上場準備や海外展開に進めますよね?
A.商標権は国ごとに独立した権利であり,日本での登録は他国では無効です。また,事業が成長し新たな分野に進出している場合,日本国内においても商標の区分を追加出願しなければ,足元をすくわれる危険性があります。
商標権編の最終回となる今回は,大学発ベンチャーや新規事業を立ち上げる組織が直面しやすい事業成長と商標管理のリアルな落とし穴について解説します。
ベンチャー企業に潜む商標の「罠」
経済産業省の調査によれば,大学発ベンチャーの企業数は右肩上がりで増加しています(図)1)。
しかし,「数は増えても質に課題がある」との指摘も少なくありません。その典型的なつまずきポイントの1つに商標管理のミスが挙げられます。技術特許には熱心な研究者も,会社名やサービス名の商標登録を後回しにしがちです。
ベンチャーキャピタル(VC)から大規模な資金調達を受ける際や,株式上場(IPO)の準備に入る際,厳しい監査が行われます。ここで「会社名の商標を取得していなかった」「すでに競合他社が同じ名前で商標を取得していた」という事実が発覚すれば,名称変更に伴う数千万円規模のコストや信用の喪失など,企業にとって致命傷になりかねず,出資や上場はストップする可能性もあります。これは特許のミスよりも高頻度で発生する恐ろしいトラブルです。
また,事業が成長して提供するサービスの種類が広がった場合も要注意です。創業時はソフトウェアの開発(第9類)だけで商標を取っていた企業が,その後セミナーの開催(第41類)やグッズの販売(第25類など)に事業を拡大した場合,元の商標権ではカバーできません。事業の広がりに合わせて,区分の追加出願を都度行う(商標をアップデートする)マネジメントが不可欠なのです。
各国独立の原則とネーミングの悲劇
冒頭のQuestionで触れたように,日本の特許庁で商標登録すれば世界中で独占できるわけではありません。知的財産権には各国独立の原則(属地主義)があり,権利を主張したい国ごとに,その国の特許庁へ出願・登録する必要があります。これを怠ると,海外の展示会に出展した直後に,現地の悪意ある業者に商標を先取り(冒認出願)され,莫大な買い取り要求を突きつけられるケースもあります。
さらに,海外展開を見据える場合,言語・文化の壁にも注意が必要です。日本では親しみやすい素晴らしいネーミングでも,海外の言語では卑猥な意味や悪口に聞こえてしまうことがあります。アカデミアにおける有名な事例が「近畿大学」です。以前の英語表記は「Kinki University」でしたが,英語圏の人には「kinky(変態的な,異常な)」と発音されてしまい,留学生の獲得や国際的な学会活動で思わぬ誤解を招くことがありました。そのため現在では「Kindai University」へと英語名称を変更しています。また企業の事例でも,日本の国民的飲料「カルピス(CALPIS)」は,英語圏では「Cow Piss(牛のおしっこ)」と聞こえてしまうため,米国では「CALPICO(カルピコ)」という名称に変更して販売されています。
グローバルに展開するサービス名や組織名を決める際は,日本国内での商標調査に加えて,ターゲット国の言語的・文化的な意味合いを事前調査することが...
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小林 只(こばやし・ただし)氏 株式会社アカデミア研究開発支援 代表取締役社長/医師・一級知的財産管理技能士
2008年島根大医学部卒。臨床医として研鑽に励み14年より弘前大総合診療部。16年博士(医学)。23年大学認定ベンチャー・株式会社アカデミア研究開発支援を創業。24年より弘前大総合地域医療推進学講座・講師,島根大オープンイノベーション推進本部・准教授を兼任。綜合者・総合医として研究開発×知財法務×安全保障×事業で,多分野の横断支援を担う。資格:1級知的財産管理技能士(特許・コンテンツ),AIPE認定知的財産アナリスト(特許・コンテンツ),Security Trade control Advanced(CISTEC)ほか。2024年度 知的財産アナリスト 奨励賞,2025年度 知的財産管理技能士会表彰 奨励賞 受賞。
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