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[第3回]即実践! 胸腹部100 150の法則
読むだけで自信がつく! 救急画像診断のスキルアップ講座
連載 放射線科医アレキ(渡邊義也)
2025.08.20
こんにちは,放射線科医のアレキです。
今回は教科書やガイドラインには詳しく載っていない,日常診療で実践的に活用できるCTウィンドウ設定のテクニックをご紹介します。
前回紹介した「頭蓋内出血を見つける50 50法」のように,微細な病変の検出を容易にするウィンドウ調整法です。
▼ 目次
「胸腹部100 150の法則」とは?
今回ご紹介する「胸腹部100 150の法則」とは,CTの階調設定において,Window Level(WL)とWindow Width(WW)の値を「WL:WW = 100:150」に設定する手法です。
画像診断の現場では「ウィンドウを絞る」という表現をよく耳にしますが,具体的にどの数値に設定するかは語られることがあまりありません。この「100:150」という設定は,料理のレシピで「塩少々」という曖昧な表現を「小さじ1/4」と具体的に示すのと似ています。
階調設定の具体的な手順
前回紹介した「50 50法」と基本的に同様の手順です。
1.ビューワー上で右クリックしながらマウスを操作
・上下動:WLの調整
・左右動:WWの調整
2.画面のパラメータ表示で「WL=100,WW=150」を確認
この階調設定を行うと,画像全体が通常よりもかなり暗く表示されます。一見すると「見にくくなった」と感じるかもしれません。しかし,その暗さが重要なポイントです。通常のウィンドウ設定では周囲の組織に紛れて見落としがちな微細な高吸収域が,この設定では「暗闇に浮かぶ星」のように鮮明に際立って見えます。「意図的に暗くした画像」の中で,高濃度の病変(結石,石灰化,出血など)だけが明るく光って見えるようになるのです。
「胸腹部100 150の法則」が特に有用な臨床場面
対象となる病態のキーワードは下記です。
・血栓(肺血栓塞栓症)
・血腫(腹腔内出血,外傷)
・結石(総胆管結石)
これらの病態が気になった時に,「100:150」を試してみてください。
1.偽腔閉塞型大動脈解離
急性期大動脈解離において,血栓化した偽腔は単純CTで微細な高吸収域を呈しますが,通常のウィンドウ設定では同定が困難なことがあります(図1a)。「WL:WW=100:150」の設定により,特徴的な三日月状の高吸収域が明瞭に描出されます(図1b)。

a:標準的なウィンドウ設定(WL:40,WW:350)では,上行大動脈の三日月状の淡い高吸収域(矢印)の検出が困難である。
b:ウィンドウ設定の最適化(WL:100,WW:150)により,上行大動脈の三日月状の淡い高吸収域(矢印)の視認性が向上し,偽腔閉塞型大動脈解離の診断が容易となる。
【重要な注意点】
単純CTのみでは大動脈解離の除外診断はできません。偽腔閉塞型では血栓化偽腔が高吸収を示しますが,偽腔開存型については単純CTでの診断は極めて困難であり,造影CTの実施が不可欠です。
大動脈解離を疑う場合は,必ず胸部から骨盤までの範囲で「単純+early相+delay相」の造影CTプロトコルを実施する必要があります。
2.肺血栓塞栓症
肺血栓塞栓症は一般的に造影CTでの肺動脈内の造影欠損として診断されますが,中枢型の血栓は単純CTでも淡い高吸収域として描出される場合があります。「胸腹部100 150の法則」を用いることで,血栓と周囲血管腔とのコントラストが向上し,病変の検出が容易になります(図2)。

a:標準的なウィンドウ設定(WL:40,WW:350)では,左肺動脈本幹の淡い高吸収域(矢印)の検出が困難である。
b:ウィンドウ設定の最適化(WL:100,WW:150)により,左肺動脈本幹の淡い高吸収域(矢印)の視認性が向上し,肺血栓塞栓症の診断が容易となる。
【臨床的意義】
実臨床では「胸痛で来院→とりあえず胸部CT」や「悪性腫瘍の経過観察で定期CT」など,最初から肺血栓塞栓症を疑っていない状況が多々あります。こうした場合,造影剤を使わない単純CTのみで終わることがほとんどです。
しかし,「100 150の法則...
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