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[第7回]論文精読のためのGen AI活用法――ChatGPTとClaudeの特徴と使い分け
面倒なタスクは任せてしまえ! Gen AI時代のタイパ・コスパ論文執筆術
連載 中島誉也
2024.12.06
前回は,論文読解支援ツールNotebookLMについて紹介しました。今回は,Gen AI(Gen AI),特にChatGPTとClaudeを用いた論文精読の方法について解説します。
Gen AIを用いた論文精読のメリット
前回でも触れたように,ChatGPTやClaudeといった Gen AIの最大の強みは,単なる要約や情報抽出を超えた「推論能力」です。臨床研究に関する論文を読む際,研究デザインの妥当性や結果の解釈について,背景知識を踏まえた考察を提供してくれます。
実際の活用例として,最近New England Journal of Medicine誌に掲載された糖尿病患者に対する血圧管理の目標値に関する研究(N Engl J Med.2024.[PMID:39555827])を見てみましょう。Gen AIは論文の内容を理解するだけでなく,本文には具体的に記載されていないであろう「なぜこの研究デザインが選ばれたのか」「結果は既存の国内の治療ガイドラインにどのような影響を与え得るか」といった,より広い文脈での考察も提供してくれます。一方で,再三述べていますが,これらの考察の中には,ハルシネーションと呼ばれる,嘘の回答が含まれているリスクもあります。本章ではそのリスクを軽減させるための工夫を紹介していきます。
ハルシネーションを防ぐためのプロンプト活用
Gen AIの活用において最も注意すべき点は,ハルシネーション(誤った情報の生成)です。これを防ぐには,プロンプトエンジニアリングと呼ばれる,適切なAIへの指示の設計が重要になります。これによって,より正確で信頼性の高い回答を得ることができます。
Web上で検索するだけでも,多くの研究者が有益なプロンプトを公開しています。その中でも,「臨床研究論文作成マニュアル」を運営されている後藤匡啓先生は,医学論文の読解に特化した以下のような基本プロンプトを提案されています。
後藤先生の基本プロンプト
① ジャーナルクラブ用に整理して詳細に解説して
② 臨床現場で用いていいかどうかを教えて
③ この研究の研究手法を教えて,そして批判的に吟味して
このプロンプトの特徴は,段階的な理解を促す構造にあります。まず①によって全体像を把握し,次に②実践的価値を評価し,最後に③研究の質を吟味します。
論文読解についてのプロンプトは多くの研究者によって開発されており,目的に応じたさまざまな手法が提案されています。読者の皆さまも,ぜひ自分の論文読解のスタイルに合った独自のプロンプトを開発してみてください。
ただし,プロンプトが長すぎたり細かすぎたりする場合,指示の一部が反映されないことがあります。指示内容を都度確認し,必要に応じてプロンプトを改良していくことが望ましいでしょう。またプロンプトの設計においては,制約と自由度のバランスが重要です。厳密な制約を設けることでハルシネーションのリスクを低減できる一方,AIによる推論の余地が狭くなってしまいます。この相反する要素を研究目的や求める回答の性質に応じて適切に調整することが,効果的なプロンプト設計の鍵となります。
ChatGPT:Paper Interpreterの実践的活用
Gen AIの中でもChatGPTを使うことのメリットとして,ChatGPTをカスタマイズできる「GPTs」を使えることが挙げられます。質問に対して自動で会話をし,返答してくれるオリジナルのプログラム(チャットボット)を開発してくれます。また,他者によってカスタマイズされたGPTは,無料で誰でも利用することができます。
今回ご紹介するPaper Interpreterは,紺野大地先生開発の医学論文の解析に特化した論文解説専用のGPTsです。 論文PDFをアップロードすると,プロンプトをいちいち書かなくとも,要旨,方法,結果などを体系的に自動で整理し,必要に応じて追加質問も可能です。論文の全体像を把握し,不明点を追加質問で深堀りしていく活用の仕方がよいでしょう。
Paper Interpreterを用いると長い論文であっても概要を抽出し説明してくれるので,気になった論文の内容を簡単に知ることができます。わからない専門用語や表現があってもChatGPTならすぐに聞くことができるのもNotebookLMにはない優れたポイントです。
Claude:図表解析の革新的機能
Claude 3シリーズ,特にOpusは医学論文の図表解析において,他のGen AIにはない卓越した能力を発揮します。ChatGPTなどの一般的なGen AIでは困難なPDFファイル内の図表の視覚的な内容理解と,それに基づく詳細な解析が可能です。
具体的には,図表内の細かい注釈や凡例の読み取りと解釈,グラフの軸ラベルや目盛りの正確な認識,エラーバーや統計的指標の詳細な理解,複数の図表間の関連性の把握などを得意とします。さらにClaudeは,他のGen AIと比べて文章を生成する能力が比較的高いとされており,こうした点でもClaudeに文章翻訳を依頼することが私は多いです。
ただし,解析結果は必ず原論文と照らし合わせ,その正確性を確認することが重要です。また,複雑な統計手法を用いた図表については,専門家による確認も推奨されます。
NotebookLMとChatGPT/Claudeの効果的な使い分け
それぞれのツールの特性を理解し,目的に応じて適切に使い分けることが重要です。以下に,私が実際に行っている使い分けの目的を紹介します。
複数論文の横断的分析が必要な場合:NotebookLM推奨
• 系統的レビューの準備
• 研究テーマの最新動向把握
• 不慣れな分野の文献調査
• ハルシネーションのリスクを最小限に抑えたい
重要論文の詳細理解が必要な場合:ChatGPT/Claude推奨
• 抄読会での発表準備
• 自身が進める研究の重要参考文献の精読
• 統計手法や図表の精読
以上をまとめると,以下のようになります。
①まず研究分野の概観をつかむ
→ NotebookLMで複数論文を横断的に分析
②重要論文を特定したら詳細分析
→Paper InterpreterまたはClaudeで精読
③図表の深い理解が必要な場合
→Claudeで詳細分析
※ただし,分野への精通度が低い場合は,ハルシネーションを避けるためにNotebookLMの使用を優先
*
Gen AIを活用した論文精読は,従来の方法と比べてより効率的で深い理解を可能にします。しかしながら,これはあくまでも補助ツールであり,研究者としての批判的思考は常に必要です。利活用に当たっては,以下の点を忘れないようにしましょう。
・AIの出力は必ず原論文と照合する。
・統計解析の結果は慎重に確認する。
・臨床的意義の判断は人間が行う。
中島 誉也(なかしま・たかや)氏 長崎大学病院麻酔科 修練医1年目
長崎大医学部医学科在籍時代から医療AIや臨床研究に興味を持ち,ベンチャー企業でのインターンや複数の臨床研究を手掛けてきた。2022年に同大を卒業。現在は麻酔・集中治療分野の大学院や国内外のデータベースを用いた臨床研究を行いつつ,麻酔科医として臨床業務にも携わっている。
X ID:@naka_takaya
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