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[第4回]重症なこどもの入院管理―感染性腸炎・虫垂炎
『こどもの入院管理ゴールデンルール』より
連載 笠井正志
2024.03.15
こどもの入院管理ゴールデンルール
Hibワクチンなどの予防医学の発展によって重症の小児入院患者は減少しており,小児科では軽症例に潜む重篤な疾患をいかに見逃さないかが問われています。少子化もあり経験できる症例数が少なくなる中で,小児科医は重症例の見極めをどう体得していけばよいのでしょうか。
新刊『こどもの入院管理ゴールデンルール』では,喘息といったcommon diseaseから心不全などの重篤な病態まで,さまざまな疾患の病態生理や患者評価,病棟管理時の留意点が簡潔にまとめられています。長年の臨床経験に裏打ちされた小児診療のエキスパートである編者らのゴールデンルールから,小児患者に対する病歴聴取や身体診察のコツと,小児病棟における入院管理の要点を学べます。
「医学界新聞プラス」では,「第1章 小児科診療の基本」「第3章 入院治療・介入」「第4章 重症なこどもの入院管理」の中から内容を一部抜粋し,全4回でご紹介します。
感染性腸炎
嘔吐→下痢というパターン以外は,必ず腸管外の原因から考える
病態生理
- ・ タイプ分類 小腸型,大腸型,混合型,嘔吐型,毒素型 表1 .
- ・小児は小腸型でも発熱する(大人は発熱しない).
- ・ 原因 感染性(ウイルス,細菌,その他),非感染性.
- ・考慮すべき基礎疾患(先天性心疾患,気管支肺異形成症などの慢性肺疾患,神経筋疾患など)がある.
- ・食中毒かそうでないかの判断も,公衆衛生的には重要である.
- ・日本ではほとんどがウイルス性(ノロ,ロタ,アストロ,アデノ).細菌で多いのは圧倒的にカンピロバクター,サルモネラ(非チフス).

患者評価
- ❶原因より脱水(ショック)の評価を優先する
- ❷胃腸炎流行期の「腹痛→嘔吐」はいったん「胃腸炎」から離れ,立ち止まって考える
- ・下痢を伴わない場合は,安易に「感染性腸炎」と名付けない.嘔吐の鑑別は広い.
- ・ must rule out 重症感染症(TSS含む),中枢神経疾患,心筋炎.
- ・病歴で重要なのは,食事歴(特に2日以内は詳細に)とペット飼育.潜伏期が長い原因微生物は通常,培養結果が出てからの再聴取が重要である.
- ・腸管出血性大腸菌(EHEC)は感染後重症化しやすく臨床的に重要であり,また感染力も高いため公衆衛生上も重要である.強い腹痛に加えて(高熱は少ない)all blood, no stoolで疑う.
- ・ 迅速検査 ノロウイルス,ロタウイルスともに感度70%前後,特異度95%以上.rule inしなければならない時だけ適応する.原因微生物にこだわることも重要であるが,重症度・合併症の有無が患者評価としてより重要である.
- ・ 便培養 細菌性腸炎を疑った時に行う.病歴から疑っている菌名を具体的に微生物検査室に伝える.
病棟管理
- ❸便培養が必要な状況は限定的
❹便培養で病原菌が検出されても全例に抗菌薬は不要
- ・ほとんど自然治癒する.便培養の結果が出た頃にはたいてい治っているので,エンピリックな抗菌薬治療は不要である.
- ・ エンピリックな抗菌薬適応 菌血症・敗血症,免疫不全者(無脾症,低栄養状態,免疫抑制者),生後3か月未満のサルモネラ腸炎,腸管外感染が見つかった,症状が強い場合.
- ・ らせん菌 便のグラム染色でカンピロバクターを疑う.
-
処方例アジスロマイシン 10mg/kg/日 分1 3日間
- ・ EHEC 概ね抗菌薬治療しないほうが世界標準だが,結局はケースバイケース.集団感染が明確で抗菌薬を使うなら,下痢発症から2日以内に行う.
-
処方例アジスロマイシン(上記量),またはホスホマイシン 40〜120mg/kg/日 分3
虫垂炎
下痢があっても虫垂炎!膿尿があっても虫垂炎!腹痛がなくても虫垂炎!
病態生理
- ・虫垂の塞栓→虫垂腫大→組織うっ血,血流低下→細菌が虫垂組織へ浸潤→炎症.
- ・腸内の細菌(嫌気性菌を含む)が原因となる.
- ・発症は10代に多いが,低年齢ほど穿孔が多い(4歳未満では80%以上が穿孔している),新生児は死亡率が高い.
患者評価
- ❶虫垂炎は見逃しやすい!初診の約半分で他疾患として誤診されている
- ❷いかなる年齢でも,まず「腹痛=虫垂炎?」と考える 表2
- ・超音波は感度・特異度が高いが,超音波で否定できるのは多数検査している術者のみ.自信がなければ造影CTをする.
- ・ 血液培養 穿孔性虫垂炎で10%陽性.血液培養は採るべき!

病棟管理
- ❸穿孔しているかどうかが重要
- ❹いずれにしても外科医へのコンサルテーションが重要
- ・穿孔の可能性が高い:経過 > 36時間,低年齢(特に3歳未満).
- ・穿孔あり:手術+抗菌薬.
- ・穿孔なし:抗菌薬.
非ショック:セフォタキシム+メトロニダゾール 3〜5日間
ショック :メロペネム 7〜10日間
▶穿孔なし
アンピシリン/スルバクタムまたはセフメタゾール 3〜5日間
*穿孔なしで手術した場合,原則抗菌薬は不要.長くても1日.
こどもの入院管理ゴールデンルール
小児病棟における入院管理の基本とリアル。
こどもたちを全力でサポートするために
<内容紹介>小児病棟の入院管理に必要な知識を簡潔にまとめました。「see(見る)ではなくobserve(観る)。そして、正しさより優しさ」「診療セッティングで正常・異常の判断の閾値は変わる」「No assessment, no test」「下痢があっても虫垂炎! 膿尿があっても虫垂炎! 腹痛がなくても虫垂炎!」「外傷診療はスピードが命、中毒診療は知識が命」など、実践に裏打ちされたゴールデンルールが満載です。
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