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SNSで差をつけろ! 医療機関のための「新」広報戦略

連載 町田詩織

2024.11.29

これまで第2回第3回では各施設に合ったSNSの選び方を,第4回第5回では実際にアカウントを開設し,投稿を開始するまでのステップを解説しました。次はいよいよ運用開始後の重要ポイントを解説する段階です。

しかしその前に,今回から2回にわたり,SNS担当者の大半がいつかはぶつかるであろう「壁」についてお話ししたいと思います。
筆者はこれまでSNSを運用してきた経験とさまざまな広報(SNS)担当者との会話を通じ,SNS運用に共通する2つの “困りごと” があると感じています。これらが何を指すか,皆さんはわかりますか?
それは,「協力してもらえない」,そして「ネタがない」です。広報担当者としてSNSを運用する以上,この2つはなかなか避けがたい課題であると考えています。今回はまず「協力してもらえない」に焦点を当てて,考察していきます。

協力を阻む固定観念

SNSに対して「担当者が遊び感覚でやっている不謹慎なもの」「個人情報漏洩の危険があるもの」「炎上を引き起こす悪いもの」などの固定観念を持つ医療関係者は多いと思います。また,医療は高尚なものであるのに対し,SNSは低俗なもの,というイメージを持っている医療従事者も少なからずいるのが現実です。

当院においてもこれらのイメージを払拭し現場の理解を得ることは,とても大変でした。当初は大きな反発を受けながら始めたSNSでしたが,何度も説明の機会を設け,小さなことへの協力から少しずつ協力者を増やしていきました。現在でこそ多くの方から積極的に協力してもらえるようになりましたが,協力を得るカギはどこにあったのでしょうか。

カギは “Win-Win”

結論から言うと,人はメリットがあれば協力してくれます。協力が得られていない組織では,相手に負荷がかかるばかりでメリットを感じてもらえていない可能性があります。SNS運用の目的(ゴール)と相手にとってのメリットをしっかり説明して,「自分にとって協力する価値がある」と思ってもらう必要があるのです。
もし相手にとってのメリットが浮かばないのであれば,逆にどのようなメリットがあればうれしいのかを直接聞いてみることも一手です。自身の都合だけでなく相手にとってのメリットも踏まえたWin-Winの関係を構築する姿勢が重要となります。

また協力の要請を粘り強く継続していくことも重要です。行動や説得を継続していけば「少しだけなら」と協力してくれる人や理解者が現れるので,そこを突破口として徐々に味方を増やしていきます。最初から全員の理解を得ること,全てに協力してもらうことは困難であるため,小さなところから積み上げていきましょう。当院SNSはコロナ禍の最中,人員不足を解消するために開始しました。最も人員不足が深刻だった職種は看護師で,中でも当時は手術室の看護師が特に不足しており,手術数を制限せざるを得ない状況でした。そんな状況を打破するため,私は手術室の看護師長にSNS投稿に協力してくれるよう説得しました。看護師長が快諾してくれたので,その後私は何度も手術室まで撮影に伺い投稿を続けました。

余談ですが,ある日手術室に撮影に伺った際,前出の看護師長が「病院のためにいつもありがとうございます」と私を迎えてくれました。SNS担当者として初めて感謝の言葉をもらい,感激し,思わず涙してしまったことを覚えています。この日に撮影した動画は50万回以上再生され,いわゆる「バズった」動画となりました。

SNS第6回仮.png
  •  湘南藤沢徳洲会病院のInstagramより
  • 何をしたら面白くなるか,手術室看護師と話し合いながら撮影しました。当時は現在ほど病院アカウントが多くなかったため,手術室というだけで珍しさがありました。曲と動作がマッチしていたのがバズのきっかけになったのだと思います。

    組織ピラミッドの上から説得する

    協力を得るためのもう1つのカギとして「業務上の権限」があります。医療機関に限らず,組織はピラミッド型の構造をしています。多くの人を巻き込みたいときほど,ピラミッドの上の人を味方につけることが重要です。

    当院の場合,最初に説得したのが病院三役(院長,看護部長,事務長)でした。院長には運営会議や医局会で,看護部長からは全看護師長に向けて,そして事務長には全体朝礼にて,それぞれ協力を呼び掛けてもらいました。日頃の投稿の協力依頼も,各部門の役職者から話を進めるようにしました。こうすることでSNSへの協力はボランティア感覚のものでなく「業務の一環」であると認識されるようになります。

    院“内”広報も大事

    医療従事者は多忙なため,彼らへの協力の要請には申し...

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