医学界新聞プラス
[第2回]ROM測定
『[動画で学ぼう]PT・OTのためのハンドセラピィ [Web付録付] 』より
連載 飯塚照史
2022.03.25
[動画で学ぼう]PT・OTのためのハンドセラピィ [Web付録付]
ハンドセラピストには手の機能解剖の知識を身に付けた上で適切な評価を行い,治療につなげることが求められます。このたび上梓された『[動画で学ぼう]PT・OTのためのハンドセラピィ [Web付録付]』では,ハンドセラピィ実践の上で必要な知識を網羅的に学習できるように,第一線で活躍するハンドセラピストたちが筆を執りました。また100本を超える動画を収載しており,繰り返しの学習に最適です。
「医学界新聞プラス」では,本書が伝授するハンドセラピィのエッセンスを4回にわたってご紹介します。本書付録の動画も各回でご覧いただけます。
学習のポイント
ハンドセラピィにおいては拘縮の治療が主となることが多い.この際,ROM の測定は頻繁に行われ重要な指標となる.臨床実践では,誤差を最小限にする測定方法を習得することが必須である.
1) 目的
・ROM 制限の有無および程度を把握する.
・ROM 制限の原因を推測し,治療方針の策定につなげる.
・治療効果判定や予後予測の根拠とする.
・作業遂行障害との関連性を検討する.
2) 方法
・日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会が推奨する測定法に準じる.
・前腕以遠については,American Society of Hand Therapists(ASHT)のガイドラインおよび日本ハンドセラピィ学会のROM 測定マニュアルを参照する.
・ハンドセラピィ領域では,手の随意性を重視するために原則として自動関節可動域(active ROM;AROM)の測定を行う. 他動関節可動域(passive ROM;PROM)の測定については,腱滑走(tendon excursion)の障害や関節を構成する軟部組織の状況を把握する際に行う.
・ゴニオメーターは,肩・肘関節用,手関節用,手指用を準備する(図1).
図1 ゴニオメーターの種類
① 肩・肘関節用,② 手関節用(プラスチック製),③ 手関節用(金属製),④ 手指用(透明プラスチック製),⑤ 手指用(白プラスチック製)
a.肩関節(動画2-4)
・屈曲・伸展・外転の測定を図2 に示す.基本軸は肩峰を通る床への垂直線(患者が体幹を伸展する場合があるので注意する),移動軸は上腕骨とする.
・外旋・内旋の測定を図3 に示す.
基本軸
1st ポジション:肩峰を通る床への垂直線
2nd ポジション:肩峰を通る矢状面への垂直線
3rd ポジション:肩峰を通る水平面への垂直線
移動軸
移動軸は尺骨を通る前腕の延長線.
図2 肩ROM の測定
肩腱板損傷(肩甲下筋部分断裂)患者.体幹による代償に注意して測定する.a:屈曲,b:伸展,c:外転.
図3 各ポジションにおける肩関節外旋・内旋の測定
肩腱板損傷(肩甲下筋部分断裂)患者.体幹の回旋による代償を防ぐため仰臥位で測定している.
上段:1 st ポジションの内旋(a),外旋(b).誤差の生じやすい肢位(c:肩関節外転位となっている).
中段:2 nd ポジションの外旋(d),内旋(e).誤差の生じやすい肢位(f:肩関節が前方突出している).
下段:3 rd ポジションの外旋(g),内旋(h).誤差の生じやすい肢位(i:肩甲帯が挙上している).
b.肘関節(動画2-5)
・基本軸は上腕骨,移動軸は橈骨であり,前腕は回外位にて計測する.
c.前腕(動画2-6)
・回内・回外の測定を図4 に示す.基本軸は上腕骨長軸,移動軸は遠位橈尺関節掌側面(回外),遠位橈尺関節掌側面(回内)とする.肩関節下垂位・肘関節90°屈曲位にて測定する.
図4 前腕回内・回外の測定
誤差を最小にするためには,軸心の尺骨茎状突起(赤丸),基本軸の上腕骨(青点線),移動軸の遠位橈尺関節(白点線)を確実に捉える.なお,回内時は背側,回外時は掌側にゴニオメーターを当てたほうが測定しやすい.
d.手関節(動画2-7)
・基本軸は橈骨長軸,移動軸は第2 中手骨長軸とし,肘関節90°屈曲位,前腕中間位にて計測する.
e.手指関節(図5,動画2-8 )
・別法として,手指の屈曲は指尖手掌距離(tip palm distance;TPD)として,手掌面の皮線からの距離にて示す方法もある(図6).
図5 手指MP・PIP・DIP 関節屈曲・伸展の測定
原則的にゴニオメーターは背側から当てて測定する.拘縮関節に対するAROM 測定にあっては,測定時にゴニオメーターで関節を押してPROM とならないよう若干浮かして測定するほうがよい.
図6 TPD(tip-palm distance)法
〔指尖部(tip:★)から,近位手掌皮線(〇)までの距離を測定する.
3) 臨床上のポイント
a.肩関節の拘縮と制限因子
・1 st, 2 nd, 3 rd ポジションそれぞれで拘縮を認める場合,軟部組織の責任病巣が異なる.
・凍結肩(frozen shoulder)の患者では,1 st ポジションでの外旋PROMが健側比50%以上の低下,あるいはAROM において30°未満になるとの報告がある 1).
b.ROM の表記方法と拘縮の推測
・手指におけるROM については,指尖部を矢印として五角形で表記する方法がある.癒着などによる腱滑走障害により動的腱固定効果(dynamic tenodesis effect) を認める場合は,筋腱の緊張を除した状態で単関節のPROM を測定する(図7).
動的腱固定効果
近位の関節の肢位によって,遠位の関節角度が変化する状態である(例:手関節の掌背屈により,手指関節の角度が変化する).これが認められる場合は,腱性拘縮,筋性拘縮などが考えられる.
・患側においてPROM よりAROM が小さい場合は,筋力の低下や腱の滑走障害が想定される.
・健側のAROM より患側のPROM が小さい場合は,関節を構成する軟部組織の伸張性低下や,不良な骨性アライメントによる拘縮が推測される.
・手指ROM による拘縮の推測例を図8 に示す.
図7 手指ROM の表示方法
a:記載例,b:表示例.( )内の数字はPROM,〈 〉内の数字は単関節可動域を表す.前回分との差異について,改善している場合は青,悪化している場合は赤で表すとよい.同様に,測定肢位も併記,確認することで経時的評価における条件を一定にすることができる.電子カルテでの記載については,色分けや( )や〈 〉の使い分け,TAM の追記に加えて,前回評価時からの改善を青,悪化を赤で示すなどの対応をする.TAM の算出:MP・PIP・DIP 関節の屈曲角度の総和から伸展制限角度の総和を引いた値.
図8 手指ROM による拘縮の推測(例)
上段: 一定期間経過後の測定にて60°の改善が認められる.この際,PIP・DIP 関節屈曲角度が同時に改善していることに着目すると,側索部での癒着剝離が推測できる.
下段:MP 関節の過屈曲が認められることから,基節部での腱滑走障害が疑われる.
c.手指における過伸展可動域の測定(図9)
・TAM には影響しないが,手指変形(鷲手,中央索断裂など)の状態を評価するためにもMP 関節過伸展可動域は計測すべきである.この際,手指用ゴニオメーターの計測可能範囲を超える場合は,手関節用のゴニオメーターを用いて側面から行う.
図9 手指ROM の測定(過伸展がある場合)
鉤爪指などにあっては,変形の進行を把握するためにも過伸展角度の情報は有用である.手指用のゴニオメーターで測定するが,困難な場合は,手関節用のゴニオメーターを使って測定する.
d.特殊な状況におけるROM 測定
・包帯などの被覆材がある場合の測定方法を図10 に,浮腫がある場合の測定方法を図11 に示す.
図10 創傷被覆材上でのROM 測定
包帯などがあたっている場合にあっても,触診を用いてROM 測定を行う.被覆材が厚い場合(bulky dressing;バルキードレッシング)には,ゴニオメーターを側面から当てるなどの対応を行う.
図11 手指ROM の測定(腫れているとき)
a:浮腫を伴う示指に伸展制限を認める.b の背側から測定すると−36°であり,c の骨軸に合わせて側面から測定すると−30°と誤差が生じる.以降は浮腫が減退することを踏まえれば,側面からの測定が望ましい.
e.作業遂行障害との関係
・例として,調理動作の際に,手指の伸展拘縮(手指屈曲可動域制限)により包丁の把持が困難になる.あるいは,日本舞踊師範の職業復帰に際して手指の屈曲拘縮(手指伸展可動域制限)に加えて,日本舞踊では手指を反らせる振りが多いため,手指の過伸展ができないと生徒に教えられないなどといった愁訴が聞かれることもある.以上のように,ROM 制限と作業遂行障害について念頭に置いておくことが肝要である.
引用文献
1) Hayes K, et al:Reliability of five methods for assessing shoulder range of motion. Aust J Physiother 47:289-294, 2001
参考文献
2) 日本整形外科学会,他:関節可動域表示ならびに測定法.リハ医 32:207-217,1995
3) American Society of Hand Therapists:Clinical Assessment Recommendations. 3 rd ed, ASHT,2015
4) 日本ハンドセラピィ学会:関節可動域測定マニュアル.2021
https://jhts.or.jp/modules/information/evaluation_manual.html
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