医学界新聞

グラフィックレコーディングのはじめかた

連載 岸 智子

2020.09.14

グラフィックレコーディング(Graphic Recording)は「ing」がつくように,その場で起きていることをその場で描くことが基本です。それだけでなく,グラフィックレコーディングの要素を取り入れ,プレゼンテーションに応用することもできます。

私が行うグラフィックレコーディングの講座では,KP法というプレゼンテーションの手法を用いて進行しています。KP法とは「紙芝居プレゼンテーション=Kamishibai Presentation」の頭文字を取った略称で,山梨県で自然観察のファシリテーターをなさる川嶋直さんが考案したものです。キーワードや短い文章,イラストなどを記した何枚かの紙(KPシート)を大きな面に貼りながら,プレゼンテーションを行う手法を指します。

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KPシートには通常A4サイズの用紙を使用します。プロジェクターなどの投影ツールは使わずに,ホワイトボードや壁面にKPシートを貼っていきます。そのため,会場内の人が読める/見える大きさの文字や絵であることが重要です。1枚あたりの情報は端的なものとし,絵や図なども用いて1行あたり10文字程度,最大でも3行にまとめて必要な情報を伝えていくとよいでしょう。手描きのKPシートを使用した場合には参加者は30人程度までが適当です。それ以上になる場合は,書画カメラなどを使うことで対応が可能です。

要点のみが抜き出されている状態なので,聞き手は話に集中できます。また,投影されたスライドは遷移が行われますが,KP法ではKPシートが貼られて一覧化できるため,話の軌跡が見え,理解が容易になります。このこともまた,聞き手の集中力を高める要因の1つかもしれません。

さらには難しい内容でもイラストを用いることで,興味を持ちやすくなる等の効果も期待できるでしょう。

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KP法はプレゼンテーションの手法ではありますが,思考の整理法でもあります。「伝えたいことは何か」「テーマは何か」「結論は何か」「どういったストーリーだと納得できるのか」などを明らかにし,構造化していく作業が思考の整理になるからです。一見難しそうな作業に感じますが,まずは手を動かしてみることが構造化への近道です。プレゼンテーション資料を作る際に,手書きで構成やレイアウトをラフで描いてから作成,清書をする人も少なくないと思います。まさにこの作業が構造化です。頭の中を整理する上でも,KPシートを作成してみてはいかがでしょうか?

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アクティブ・ブック・ダイアローグ®(以下,ABD)という読書法があります。ABDは,本が苦手な人でも短時間で1冊の本を読むことができる新しい読書法です。進め方は大まかに次の通りです。①1冊の本を1人あたり10ページ程度に分担,②担当ページをその場で読んで3~4枚に要約し,プレゼンテーション資料の準備,③要約を順番に発表,④担当以外のパートのプレゼンテーションの聴講,⑤参加者同士で対話をし,理解や気付きを深める。この一連のプロセスを通して本の内容を理解するのがABDです。

この中で,②の工程でグラフィックレコーディングや先ほど紹介したKP法が大いに活用できます。ABDはその場で本を読み,要約した資料をその場で作成しますので,基本的には手描きの作業になります。つまりKPシートをその場で作成していくのです。ポイントを押さえたキーワードや,補足となる絵や図を添えることで,イメージしやすく理解しやすいプレゼンテーションとなります。

本連載の Lesson 3 で,「グラフィックレコーディングを用いると,記録,共有,振り返り,思考の整理,の4つのことが可能になります」とお伝えしました。それだけではなく,絵や図を用いて構造化するグラフィックレコーディングの手法や要素は,プレゼンテーションをはじめとする「伝える」ことにも力を発揮してくれます。ぜひ応用する1つの選択肢として使ってみてください。

 

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グラフィックレコーディングは優劣を競うものではありませんし,ルールや正解もありません。記録,メモとしての活用だけではなく,思考の整理,情報共有の手段など,さまざまな場面で思い思いの使い方ができます。本連載は今回が最後になります。これまで10回にわたりお読みいただき,本当にありがとうございました。

ぜひ,描くことを楽しみながら実践を重ねていってください。

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写真 KP法を使ってグラレコの講義をする筆者

(了)


参考文献

  • 川嶋直.KP法――シンプルに伝える紙芝居プレゼンテーション.みくに出版;2013.

福岡女子大学社会人学び直しプログラム コーディネーター

小売業,情報サービス企業で会社員として店舗企画,人材開発などの業務に従事する傍ら、産業能率大大学院総合マネジメント研究科を修了。2014年より現職。現在は、グラレコの普及活動や多様な働き方を応援するコミュニティ「キャリアバラエティ」の運営を手掛ける。

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