医学界新聞

2020.07.06



Medical Library 書評・新刊案内


緩和ケアレジデントの鉄則

西 智弘,松本 禎久,森 雅紀,山口 崇,柏木 秀行 編

《評者》佐々木 淳(医療法人社団悠翔会理事長)

「がんだから,で片付けない」という強いメッセージ

 僕が在宅医療の世界に足を踏み入れたのは2006年のこと。

 医師として9年目。急性期医療に携わりながら,自分の仕事が患者さんを幸せにしているのか悩んでいた大学院生時代,偶然に在宅医療のアルバイトに出合った。人工呼吸器と共に日々をポジティブに生きる人,残された時間が長くないことを知りながらも自分の人生を振り返りながら家族との時間をいとおしむように過ごす人,病院で診てきた「患者」とは違う,「生活者」としてのその人たちの表情を見ることができた。治らない病気や障害があっても,人生の最終段階にあっても,人は最期まで幸せに生き切ることができる。医師としての価値観を揺るがされるような衝撃だった。その半年後,大学院を退学した僕は,最初の在宅療養支援診療所を開設する。

 「安心して生活が継続できる,納得して人生を生き切れる」

 在宅医療の存在意義をこのように定義した僕は,開業後すぐに打ちのめされた。在宅医療は,実は緩和ケアだった。人が穏やかさを取り戻すためには,情熱だけではダメ,「苦痛」を緩和するための知識とスキルが必要なのだ。

 急性期病院でも病棟主治医として終末期の患者さんたちを診ていた。できると思っていた。しかし,それは病院のチーム医療が機能しているという前提で,実は指示書にサインをしていただけだったということに気が付いた。

 在宅を選択した人に,その覚悟に見合った幸せな時間を提供したい。緩和ケアの臨床研修を受けたことのない僕は,在宅医になって初めて緩和医療の成書を読み,マニュアルを片手に試行錯誤をすることになった。それから15年。緩和ケアの何たるかがようやくわかってきたような気がする。

 本書は緩和ケアに関する最新の知見が包括的に網羅されている。

 項目はプロブレム・オリエンテッドにまとめられている。現場で困ったときに,そのシチュエーションから必要な情報にスムースにつながる。日々の診療で悩んだときに「これでいいのかな?」と思ったら,すぐに確認できる。人生の最終段階の支援には才能と適性が必要だと思っている人も多いと思う。本書では,終末期とコミュニケーションについて,十分なエビデンスと共にナラティブを含む臨床倫理について丁寧に説明され,スピリチュアルケアや意思決定支援をフレームワークで理解できる。緩和ケアマニュアルとしてはファーストチョイスの一冊と言えると思う。15年前にこの本があれば,もう少し早くひとり立ちできていたかもしれない。

 緩和ケアレジデント向けということになっているが,在宅医療のマニュアルとしてそのまま使える。僕のように,緩和ケアの十分な経験のないまま,在宅医療の世界に入る人は少なくないと思う。在宅医療や訪問看護にかかわる人にも手に取ってもらいたい。

 本書を最初に読み終えたとき,僕の中に残った一番強いメッセージは「がんだから,で片付けない」。在宅医療の世界でも,「老衰だから」「認知症だから」で片付けられている人がたくさんいる。丁寧に臨床推論を重ね,その人が本当に必要な支援に最短距離でつなぐこと。これは全ての対人援助に共通するメッセージであるはずだ。

 緩和ケアが必要な人に確実に届くこと。そして,誰もが穏やかに人生を生き切れること。そのためには人生の最終段階の支援にかかわる全ての医療者が,必要な知識とスキル,そしてコンセプトを学び,習得する必要がある。

 一人でも多くの医療者が本書を手に取ってくれることを願ってやまない。

B5・頁250 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04128-7


がんゲノム医療遺伝子パネル検査
実践ガイド

角南 久仁子,畑中 豊,小山 隆文 編著

《評者》織田 克利(東京大学大学院教授・統合ゲノム学)

背景から最新の情報までわかりやすくまとめられています

 この度,『がんゲノム医療遺伝子パネル検査実践ガイド』が発刊された。2種類のがん遺伝子パネル検査(OncoGuide™ NCCオンコパネルとFoundationOne® CDxがんゲノムプロファイル)が2019年6月に保険収載され,専門性の高いがんゲノムの検査結果が実際の診療として提供されるようになった。しかしながら,必要な知識をあまねく理解することは容易でなく,身近な指南書が求められている。本書はがん遺伝子パネル検査の基礎知識がわかりやすく解説され,わが国におけるがんゲノム医療の運用の流れや検査結果の読み方についてもコンパクトに要領よくまとめられており,指南書としてふさわしい内容となっている。さらに,現在保険診療として行われているDNAパネルに加え,近未来の導入が期待されるものとして,RNAパネルを含むがん遺伝子パネル検査(Todai OncoPanel)やリキッドバイオプシー(血中循環腫瘍由来DNAを解析する検査技術)の解説までカバーされており,日進月歩の変化にも対応できるような構成になっている。

 専門家会議(エキスパートパネル)の構成員の要件からもわかるように,がんゲノム医療は,医師(各診療科の主治医のみならず,腫瘍内科,遺伝診療科,病理部,検査部など),基礎研究者,遺伝カウンセラー,看護師,薬剤師,臨床検査技師などのメディカルスタッフ,事務系職員をはじめ,多職種が知識を共有して力を合わせて実施していく必要があり,がん種横断的であるのみでなく職種横断的な側面も大きい。これまで「がんゲノム」は難解というイメージが強く,知識,経験,専門性が異なる医療スタッフ間であまねくバックグラウンドを共有することは至難であった。本書に目を通してもらうことで,さまざまな関係者間で,基礎知識や必要な情報を格段に共有しやすくなると期待される。またシークエンス解析にかかわる細かな専門用語についても広くカバーされており,入門書としての位置付けのみでなく,がんゲノム医療の第一線で働く専門家にとっても知識の整理に有用であろう。初学者から専門家まで役立つ解説書となっており,ぜひ手に取って,日々のマニュアルとして活用いただければ幸いである。今後他の疾患でもゲノム医療が普及していくと予想されることから,がん以外の領域で遺伝医療に携わっている方々にもお薦めしておきたい。

 がんゲノム医療にかかわる書籍は多数発行されているが,誰にとってもわかりやすく,すぐに役立つ解説書は少ない。学生教育や患者さんへの説明を含め,本書が広く活用され,わが国におけるがんゲノム医療の普及,発展に貢献することを願ってやまない。

B5・頁252 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04246-8


がん薬物療法のひきだし
腫瘍薬学の基本から応用まで

松尾 宏一,緒方 憲太郎,林 稔展 編

《評者》奥田 真弘(阪大病院教授・薬剤部長)

適切に実施するために必要な情報をワンストップで

 がん薬物療法は日進月歩であり,年々新薬が投入されるとともに新たなケアが導入されるなど,多様化している。2010年に発出された厚労省医政局長通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」では,医師・薬剤師が事前に作成・合意したプロトコールに基づき,専門的知見の活用を通じ...

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