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がんゲノム医療遺伝子パネル検査実践ガイド

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がんゲノム医療を牽引してきたフロントランナーたちによる決定版。関連用語を網羅したキーワード集、がんゲノム医療の成り立ち、基本知識とその解説、「治験の探し方」「調査結果の読み方」「各種検査のスペック」「二次的所見とは?」などなど、はじめての医療者が必要とする情報を整理。がんゲノム医療に必要な実践知を余すところなく網羅!
編著 角南 久仁子 / 畑中 豊 / 小山 隆文
発行 2020年05月判型:B5頁:252
ISBN 978-4-260-04246-8
定価 4,620円 (本体4,200円+税)

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まえがき――がんゲノム医療の普及と発展に向けて

 2019年6月にがんゲノムプロファイリング検査が保険収載となり、ついにわが国でも、これまで「研究」として行なわれていた、次世代シークエンサーによるがんのゲノム解析を「検査」として診療に活用することが可能になりました。
 近年のがん研究の成果により、がんのドライバー遺伝子異常が多く同定され、それに対する分子標的治療薬の高い治療効果が示されるとともに、がん種横断的(tumor-agnostic)な遺伝子異常が数多く報告され、がん種毎から遺伝子異常といったバイオマーカー毎の治療選択・治療開発が進んでいます。

 こうした背景の下、国立がん研究センター中央病院では効率的に複数の遺伝子異常の有無を解析できる次世代シークエンサーを用いたゲノム解析の臨床実装に向けた取り組みを、「TOP-GEAR(Trial of Onco-Panel for Gene-profiling to Estimate both Adverse events and Response)プロジェクト」と題して実施してきました。2012年よりNCCオンコパネルの開発を開始し、臨床試験における実行可能性や臨床的有用性の検証を経て、2018年4月より先進医療に導出し、保険収載につなげています。その過程では、当センターのみならず、多くの医療機関および検査企業による多大な尽力がありました。2019年6月の保険収載はそのひとつの集大成ではありますが、まだわが国のがんゲノム医療はスタート地点に立ったばかりです。

 患者さんからのがんゲノム医療に対する期待度に比して、これまでの報告では検査を受けても遺伝子異常に合った治療に結び付く割合は10~20%と決して高くないという実情があります。こうした課題を皆が正しく認識し、この割合を高める努力をしていくことが、わが国のがんゲノム医療の発展には不可欠です。
 また、まだ検査実施ががんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院といった指定医療機関に限られていることもあり、がんゲノム医療に対する正しい理解が十分に浸透していない現状もあります。正しいがんゲノム医療の普及に向けて、関わる人たちが広く正しい知識をもつことも重要です。

 本書では、がんゲノムプロファイリング検査結果を理解するために役立つ基礎知識や、レポートの読み方および、「臨床試験」や「二次的所見」といったがんゲノム医療に関連する重要な事項について各方面の専門家がわかりやすく解説しています。いずれの著者も、がんゲノムプロファイリング検査の保険収載に大きく貢献され、またこれからのがんゲノム医療の発展に対しても中心的な役割を担っていく先生方です。「がんゲノム医療の正しい知識を普及させたい」という共通の思いの下、お忙しいなか、時間を割いて、初学者にもわかりやすく、かつ、専門家にもためになる解説を書いてくださった著者の先生方に、この場をお借りして心からお礼申し上げます。また、一緒に編集に携わってくださった、畑中豊先生、小山隆文先生にも感謝の気持ちでいっぱいです。
 本書がより多くの方のがんゲノム医療に対する理解を深め、わが国のがんゲノム医療の発展の一助になれば幸いです。

 最後に重要な用語について、この場を借りて断り書きをさせていただきます。次世代シークエンサーを用いて多数の遺伝子を一度に解析する検査はその機能によって2つに大別されます。一つは「マルチプレックスコンパニオン診断」、もう一つは「がんゲノムプロファイリング検査」です。現状ではまだ用語の定義が明確に定められておらず、「がんゲノムプロファイリング検査」と「がん遺伝子パネル検査」が同義で使われることもありますが、本書においては「マルチプレックスコンパニオン診断」と「がんゲノムプロファイリング検査」を合わせた、次世代シークエンサーを用いて多数の遺伝子を解析する検査の総称として「がん遺伝子パネル検査」という用語を用いています。

 2020年4月
 編者を代表して
 角南久仁子

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まえがき

introduction がんゲノム医療の成果とこれから

第1章 基礎知識
 がんゲノム医療の提供体制
 がん遺伝子パネル検査の基礎知識
 臨床のためのがん遺伝子パネル検査のABC
 臨床試験の基礎知識
 [NOTE]ゲノムプロファイリング検査とコンパニオン診断の違いって?

第2章 がん遺伝子パネル検査のキーワード
 [NOTE]遺伝子異常(バリアント)の表記方法は?

第3章 運用のための基本
 臨床医に知っておいてほしい検体取扱いの基本
 がん遺伝子パネル検査に使用する次世代シークエンサー
 がん遺伝子パネル検査で取り扱う解析ファイル―FASTQ,BAM,VCF
 OncoGuide NCCオンコパネルシステムのスペック
 FoundationOne® CDxがんゲノムプロファイルのスペック
 [NOTE]変異データファイル「XMLファイル」って?

第4章 実際の使用に際して
 がんゲノムプロファイリング検査レポートを読むための6項目―NCCオンコパネルとF1CDx
 C-CAT調査結果の読み方
 エキスパートパネル
 エビデンスレベルの考え方
 二次的所見への対応
 適切な治療の探し方

第5章 がん遺伝子パネル検査の最新情報
 先進医療が実施されているがん遺伝子パネル検査
  ●Todai OncoPanel
  ●Oncomine Target Test
 企業主導で開発されているがん遺伝子パネル検査
  ●Guardant360®
  ●FoundationOne® Liquid(海外製品名)
  ●TruSight Oncology 500

がんゲノム医療関連webリンク
索引

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第一線の医療者チームによるがんゲノム診療の最適の解説書
書評者: 土原 一哉 (国立がん研究センター・トランスレーショナルインフォマティクス分野・分野長)
 本書を手にして,まずはその厚さに軽く驚いた。実践ガイドということでポケットにも入るサイズを勝手に想像していたが,252ページのしっかりとした装丁である。もっとも本書がこれだけのボリュームになった経緯には心当たりがある。先日「次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス 第2版」が発出されたが,その分量は初版(2017年)の5ページから105ページへと一気に膨れ上がった。とりもなおさず,遺伝子パネル検査の償還や,検査システム・実施医療機関の質の担保,データセンターへの情報集積など,他国およびこれまでのわが国の医療システムでは経験しなかった体制整備が数年の間に急速かつ包括的に進んだことの反映だろう。本書の編者,執筆者の顔ぶれを見れば,上記や日本病理学会などのガイダンス作成に中心的に関与された第一線の医師・研究者,おそらくは相当にタフであったであろう検査システムの申請作業に尽力された診断薬・検査企業の面々である。がんゲノム医療,遺伝子パネル検査を取り巻く諸事情を解説するには最適のチームである。

 あらためて内容を拝見すると,予想に違わず体制整備から遺伝子パネル検査の結果解釈に必要な解析学的および臨床的な情報,一般の臨床検査ではなじみが薄いゲノム科学の用語解説,実地で運用中,さらには今後登場する検査システムの紹介と網羅されている。カラフルな図や表も多く,検査レポートの雛形もそのまま掲載されておりわかりやすい。各ページの注釈欄や,ところどころに挿入されるノートも親切である。がんゲノム医療中核拠点病院などでゲノム診療に携わっている方にとって,これだけの情報を手軽に参照できるメリットは大きいだろう。

 あえて注文をつけるとすれば,拠点病院などに患者を紹介しようとする医師や,将来がんゲノム医療に従事したいと考える研修医や医学生が,がんゲノム医療の現場を体感したいと思ったときに,少々とっつきが悪いかもしれない。エキスパートパネルではどのような議論が行われているのかなど,模擬症例の紹介などがあればより臨場感が増すのではと思ったが,そうなればボリュームがさらに増すだろうか。

 いずれにしても,この領域の進歩はさらに加速が予想される。早晩本書も改訂が検討されるだろうが,いま現在,必要な情報を短期間でまとめ上げた編者らのお仕事に感謝したい。
まず手にとってほしいと素直に思えた一冊
書評者: 藤原 康弘 (独立行政法人医薬品医療機器総合機構理事長)
 がんパネル遺伝子検査が保険適用となり,既に活用されておられる方も多いと思う。ただ,活用したくとも,「ゲノム」という言葉を目にしたり,耳にしたりすると,とっつきにくいと感じられるベテランの方も多いだろう。そんな時,がん診療の一線に立っている医療者の方たちに,まず手に取ってもらいたいと素直に思えたのが本書である。がん遺伝子パネル検査の基本と実際を,基礎科学者,臨床検査や病理の専門家,腫瘍内科医,さらには企業人まで,がんパネル遺伝子検査を開発し,さらには一線で診療に活用されている日本全国からえりすぐりの新進気鋭の執筆陣が解説してくれている。

 がんゲノム医療の初学者である臨床家には,第1章 基礎知識 臨床のためのがん遺伝子パネル検査のABC第2章 がん遺伝子パネル検査のキーワードは,がんゲノム医療の背景になっている事項の理解に非常に役立つ。がんパネル遺伝子検査結果レポートの遺伝子異常の欄に出ている英語と数字の並ぶバリアントの表記に二の足を踏まれた方もベテランには多いのではないかと思うが,74ページから始まる「遺伝子異常(バリアント)の表記方法は?」を一度ご覧いただくと安心して次回から結果レポートに目を通せるのではないだろうか。また,巻末付録のがんゲノム医療関連webリンクはQRコード付きで非常に参考になる。

 がんゲノム医療をしっかり行うために重要なのは,どんな臨床検査でも同様なことではあるが,きっちりとした検体採取である。第3章 運用のための基本の80ページから始まる「臨床医に知っておいてほしい検体取扱いの基本」は,まさにそこをかゆいところに手が届くように解説してくれている。

 そして,いよいよがんゲノム医療のうち最も難関といえる患者さんへの結果フィードバックと治療方針選択の場面で活用したいのが第4章 実際の使用に際してである。特に,184ページからの適切な治療の探し方のところは実践で役立つこと請け合いである。がんパネル遺伝子検査結果に基づいて診療を行う際に,臨床家を悩ませるのは抗がん剤の適応外使用であるが,2019年10月より始まり,全国のがんゲノム医療中核拠点病院で受けられる「遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく複数の分子標的治療に関する患者申出療養」(通称:受け皿試験)が適応外使用問題の一つの大きな解決策になるので,ぜひ,詳細部分を読み込んでもらいたい。また,がんパネル遺伝子検査の結果で緊張するのは,遺伝性腫瘍に関する遺伝子異常の存在が返却されてきたときだと思うが,173ページからの二次的所見への対応を読んでおけば,安心して対応できると思う。

 最後に,本書を読まれた方にお願いがある。分子標的薬の治験や前述の患者申出療養に参加するだけでは,全ての患者さんへの治療提供機会の確保にはつながらない。ぜひ,次のステップとしてご自身たちで医師主導治験や先進医療B,患者申出療養を計画し実施してほしい。
背景から最新の情報までわかりやすくまとめられたがんゲノム医療のマニュアル
書評者: 織田 克利 (東大大学院教授・統合ゲノム学)
 この度,『がんゲノム医療遺伝子パネル検査実践ガイド』が発刊された。2種類のがん遺伝子パネル検査(OncoGuideTM NCCオンコパネルとFoundationOne® CDxがんゲノムプロファイル)が2019年6月に保険収載され,専門性の高いがんゲノムの検査結果が実際の診療として提供されるようになった。しかしながら,必要な知識をあまねく理解することは容易でなく,身近な指南書が求められている。本書はがん遺伝子パネル検査の基礎知識がわかりやすく解説され,わが国におけるがんゲノム医療の運用の流れや検査結果の読み方についてもコンパクトに要領よくまとめられており,指南書としてふさわしい内容となっている。さらに,現在保険診療として行われているDNAパネルに加え,近未来の導入が期待されるものとして,RNAパネルを含むがん遺伝子パネル検査(Todai OncoPanel)やリキッドバイオプシー(血中循環腫瘍由来DNAを解析する検査技術)の解説までカバーされており,日進月歩の変化にも対応できるような構成になっている。

 専門家会議(エキスパートパネル)の構成員の要件からもわかるように,がんゲノム医療は,医師(各診療科の主治医のみならず,腫瘍内科,遺伝診療科,病理部,検査部など),基礎研究者,遺伝カウンセラー,看護師,薬剤師,検査技師などのメディカルスタッフ,事務系職員をはじめ,多職種が知識を共有して力を合わせて実施していく必要があり,がん種横断的であるのみでなく職種横断的な側面も大きい。これまで「がんゲノム」は難解というイメージが強く,知識,経験,専門性が異なる医療スタッフ間であまねくバックグラウンドを共有することは至難であった。本書に目を通してもらうことで,さまざまな関係者間で,基礎知識や必要な情報を格段に共有しやすくなると期待される。またシークエンス解析にかかわる細かな専門用語についても広くカバーされており,入門書としての位置付けのみでなく,がんゲノム医療の第一線で働く専門家にとっても知識の整理に有用であろう。初学者から専門家まで役立つ解説書となっており,ぜひ手に取って,日々のマニュアルとして活用いただければ幸いである。今後,他の疾患でもゲノム医療が普及していくと予想されることから,がん以外の領域で遺伝医療に携わっている方々にもお薦めしておきたい。

 がんゲノム医療にかかわる書籍は多数発行されているが,誰にとってもわかりやすく,すぐに役立つ解説書は少ない。学生教育や患者さんへの説明を含め,本書が広く活用され,わが国におけるがんゲノム医療の普及,発展に貢献することを願って止まない。

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