医学界新聞

寄稿 岡本 宗一郎,廣橋 猛

2020.06.29



【寄稿】

Withコロナ時代にオンライン面会の推進を

岡本 宗一郎(聖隷三方原病院 ホスピス科)
廣橋 猛(永寿総合病院 がん診療支援・緩和ケアセンター長)


 新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い,入院患者や医療者への感染,医療崩壊を防止するため,多くの病院で家族の付き添いや面会が制限されました。ホスピス・緩和ケア病棟も例外ではなく,直接会うことが叶わない患者や家族のために,テレビ電話を用いたオンライン面会の取り組みが始まっています。さらには,筆者(廣橋)を中心に,この取り組みを全国に広めるためのクラウドファンディングを立ち上げました。本稿では,その経緯や今後の課題について報告します。

終末期医療の現場の変容

 新型コロナウイルスの感染拡大による面会制限は患者と家族,医療者・医療現場のそれぞれに影響を及ぼしました。特に予後が限られた終末期患者への影響は計り知れず,「人生の最期の時期に大切な人と過ごせない」という厳しい状況がもたらされました。日本緩和医療学会と日本ホスピス緩和ケア協会,国立がん研究センターが共同で実施した「新型コロナウイルス感染症に対する対応に関するアンケート」によると,598施設(がん診療連携拠点病院が56%)のうち,緩和ケア病棟の98%近くで面会制限が行われました1)。予測される予後が48時間以内,看取り直前といった場合でも面会を禁止せざるを得ない施設も報告されています。

 がん患者の望む終末期のQOL(望ましい死)の在り方を調べた本邦の研究では,「家族や友人と十分に時間を過ごせたこと」や「大切な人に伝えたいことを伝えられたこと」が望ましい死の要因として挙げられています2)。新型コロナウイルス感染症の感染が拡大したこの数か月間に亡くなられた患者の中には,面会制限がなければ,会いたい人に会い,満足するまで一緒に過ごせた方もいたと思うと残念でなりません。

 また,「患者のつらさを和らげる」という,緩和ケアが本来大切にしてきた部分においても,影響は少なからず出ています。患者が抱える苦痛はさまざまありますが,例えば痛みなどの身体的な苦痛であれば,適切な薬物療法によってその苦痛から解放する方法があります。しかし,例えば気持ちのつらさなどは薬の力だけではどうにもならないことも少なくありません。そんなとき,これまでは患者にとって大切な人の支えが頼りでした。どうにもならずつらいとき,大切な家族にそばに寄り添ってもらうことができました。しかし面会ができなくなってしまったことで,このつらさを和らげる方法がなくなってしまいました。

 また終末期患者と同様に,その家族への影響も少なくありませんでした。患者は“第一の患者”で家族は“第二の患者”という言葉に聞き覚えがあるかもしれませんが,ホスピス・緩和ケアでは患者だけでなく,家族もまたケア対象者とみなしてきました。これまでホスピス・緩和ケア病棟の医療者は訪れた家族に話し掛け,家族の病状理解を確認し,家族が抱いているつらさや不安に寄り添う家族ケアを行ってきました。しかし,面会制限で家族が来院できなくなり,家族ケアを行う機会は以前より減ってしまったのです。

 そして医療者も,面会制限にさまざまな苦悩を抱きました。「患者と家族の時間を大切にしてほしい」と願っている医療者が,面会制限を課さなければならないのです。つらさや怒りを表出される患者や家族の対応に,もどかしさや不全感を抱く医療者もいました。さらに前述の調査では,回答のあった緩和ケア病棟295施設のうち22施設(7.5%)が新型コロナウイルス感染患者専用病棟に変更され,緩和ケア病棟スタッフが感染患者の対応に当たったと報告されています。がん終末期患者にホスピス・緩和ケアを提供できなくなってしまった医療現場もありました。

「つながり」を再び

 筆者(岡本)が所属する聖隷三方原病院ホスピス病棟でも面会制限が課され,患者と家族のために何かできないかと模索を始めました。

 日本ホスピス緩和ケア協会は,対面による面会の代替方法として,患者と家族がタブレットやスマートフォンによってコミュニケーションを行うことができるように,病棟でこれらの機器が使用できる環境を整えることが望ましい,と言及しました。症状緩和だけではなく,さまざまなアプローチで患者や家族のQOLを向上する試みこそ,めざすべき緩和ケアなのでしょう。

 そこで病棟用タブレットを準備し,テレビ電話でのオンライン面会支援を開始しました。タブレット画面に映る家族の顔を見て,うれしそうに語り掛ける患者。「もう顔を見て話せないと思っていた」と涙をうっすら浮かべていました。元気そうな患者に安堵され,「画面越しでも顔を見て話せてよかった」と述べる家族。とても穏やかな時間でした。

 最期の時期(死亡直前期)にテレビ電話での付き添いを希望される家族もいます。呼吸が弱くなっていくなか,家族は画面越しにお別れの言葉を掛け,死亡確認も立ち会われました。テレビ電話の支援に可能性を感じる出来事でした。テレビ電話でのオンライン面会を通して,患者や家族,そして支援した医療者との「つながり」が深まったように感じます。

テレビ電話面会の普及に向けクラウドファンディング開始

 病棟用タブレットの準備が各施設で進む中,筆者(廣橋)が中心となり,「面会制限で悩む患者や家族,そして医療現場の助けになりたい」という思いを抱いた緩和ケア関係者が集結しました。「コロナ禍で家族と会えない終末期医療の現場にテレビ電話面会を」と題して,普及のためのクラウドファンディング(https://readyfor.jp/projects/palliative-care)を立ち上げたのです。

 5月15日に支援募集を開始後,想定以上に大きな反響をいただき,開始からわずか半日で当初の目標であった300万円の資金を集めることができました。現在は対象を拡充して,全国の緩和ケア病棟100施設へのテレビ電話面会の導入,さらには一般病棟や老人ホームへの支援を目的としたクラウドファンディングが継続中です。支援事業の準備も現在進行形で進んでいます。

 緊急事態宣言は現在解除されています。ただ長期にわたり新型コロナウイルスと共存する状況が想定される以上,面会制限が今後も続くことはやむを得ず,テレビ電話を用いたオンライン面会もまた必要であり続けると考えています。6月末まで支援募集は継続しており,ご支援ご協力いただけると幸いです(本稿執筆6月9日時点で1407万8000円の寄付を頂戴しています)。

オンライン面会を実践する廣橋氏(写真左,クラウドファンディングサイトより)と岡本氏(同右)。

オンライン面会の今後の展望

 現状では,病院よりも高齢者施設のほうがオンライン面会の広がりをみせています。重篤化リスクの高い入居者を抱える施設では3月から面会禁止が行われ,長期間に及ぶ弊害が問題視されました。5月15日には厚労省から「高齢者施設等におけるオンラインでの面会の実施について」という通知と実施施設が例示され,その必要性に注目が集まっています。また一般病棟やもともと面会制限のあるICU病棟,さらには新型コロナウイルス感染症治療病棟でもテレビ電話でのオンライン面会のニーズがあると考えられます。

 今回の面会制限によって,面会できない患者や家族の苦悩に注目が集まりました。遠方に住む高齢者や海外在住者,そして仕事が多忙なために面会に来ることが難しい方は以前からいました。タブレットやスマートフォンが普及し,テレビ電話が容易になった今だからこそ,オンライン面会が普遍的なサービスとなり得るのではないでしょうか。

 テレビ電話を用いたオンライン面会は,直接会えない患者と家族の心をつなぐ可能性を秘めており,それはおそらくポストコロナの時代にも残るものでしょう。患者や家族のQOLを向上させるアプローチは,まさにコロナ禍における緩和ケアの在り方であり,クラウドファンディングや社会活動を通して,その必要性を今後も訴えていきたいです。

参考文献・URL
1)日本緩和医療学会COVID-19関連特別ワーキンググループ 特設ホームページ.新型コロナウイルス感染症に伴う専門緩和ケアへの影響に関するWeb調査結果【速報】.2020.
2)J Pain Symptom Manage. 2008[PMID:18358685]


おかもと・そういちろう氏
2012年昭和大医学部卒。亀田総合病院で初期研修後,14年よりあそかビハーラ病院で僧侶らと緩和ケアに従事。20年より現職。

ひろはし・たけし氏
2005年東海大医学部卒。三井記念病院内科,亀田総合病院疼痛・緩和ケア科,三井記念病院緩和ケア科などを経て14年より現職。

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