医学書院

検索
HOME週刊医学界新聞 > 第3322号 2019年05月20日



第3322号 2019年5月20日


【寄稿特集】

My Favorite Papers
論文の大海原に隠された秘宝を探せ!

 医学の世界では日々,さまざまな論文が発表されています。膨大な量の情報に流されてしまいそうになることもあるかもしれません。しかしその中の1編の論文が医療の常識を覆したり,読者の人生を大きく左右したりするのも事実です。論文の大海原の中での,転機となる1編の宝物との出会いとは果たしてどのようなものなのでしょうか。

 今回は,これまでの医師・研究者としてのキャリアの中で出会った「印象深い論文」を紹介していただきました。皆さんもぜひ自分だけの「宝物」を探してみてください。

金 容壱
坂元 晴香
谷 憲三朗
猪原 拓
藤沼 康樹
野中 康一


金 容壱(淀川キリスト教病院腫瘍内科)


①Cirera L, et al. Randomized clinical trial of adjuvant mitomycin plus tegafur in patients with resected stage III gastric cancer. J Clin Oncol. 1999;17(12):3810-5.[PMID:10577853]

②Burris HA 3rd, et al. Improvements in survival and clinical benefit with gemcitabine as first-line therapy for patients with advanced pancreas cancer:a randomized trial. J Clin Oncol. 1997;15(6):2403-13.[PMID:9196156]

③Masuda N, et al. Adjuvant Capecitabine for Breast Cancer after Preoperative Chemotherapy. N Engl J Med. 2017;376(22):2147-59.[PMID:28564564]

 英語で医学論文を読めば気取った気分になれた頃,胃癌術後患者にUFTを使うべきかが気になった。UFTとはフッ化ピリミジンを含んだ,テガフール・ウラシル配合薬のことである。当時,手術可能な胃癌での標準治療は根治術のみ(術後無治療)だった。そのことも知らずに,文献を求めてPubMedで検索した。

 検索式,MeSHなどを駆使したが膨大なヒット数だった。目まいがした。それでも①を見いだした。術後にマイトマイシンとテガフール(UFTではない)を用いることで,5年生存率が上昇したとするランダム化比較試験(RCT)である。精読はしたが,実臨床に応用できなかった。

 批判的吟味にかぶれ出した。その頃,進行期の膵癌患者にゲムシタビン(GEM)を用いた化学療法を行うべきか,文献②に当たった。膵癌薬物療法の画期となる臨床試験である。しかし,主要評価項目は「臨床的利益(痛みと全身状態の評価指数が改善する度合い)」であった。全生存期間(OS)も延長させているが,それは副次評価項目においてである。

 試験結果では何よりも主要評価項目を重視すべきである。GEMなしでもオピオイドを適切に使えば痛みが和らぎ臨床的利益は得られる。なので,無理に抗癌薬治療は行わない。浅はかな当時の結論である。膵癌は容易に腹腔神経叢を巻き込み,難治性疼痛が頻発する。その難治性癌の代表格に化学療法によって臨床的な利益がもたらされた。余命も延長させた。その結果の重みを,理解できていなかった。

 医学を連綿と織りなされる生地に例えるなら,その横糸は科学的根拠であり,縦糸が臨床知になる。①で気付かされたように,PubMedは論文という形で横糸を束で見せるが,どのように生地に織り込まれるかは示さない。そして,縦糸である臨床知がずさんなら,②のような重要な結果が手元にあってもそれを無視した私のように,まともな医療はできないのだ。

 多くの間違いを犯したが,知識・経験が増えた。標準治療の変遷という大きな流れの中に,目の前の臨床試験の結果を位置付けられるようにもなった。横糸であるエビデンスは年々歳々変わりゆく。一方,臨床知である縦糸は変化しづらい。そう錯覚し始めた。

 乳癌術後にフッ化ピリミジン(カペシタビン)を用いても,標準治療を上回るほどの効果はない。複数の臨床試験において,ある時期までほぼ一貫した結論であった。その知識は私の中で確信に変わっていた。そして③を目にし,衝撃を受けた。

 乳癌の薬剤感受性は高い。早期乳癌に術前化学療法を行う場合,顕微鏡的に腫瘍が消失することもまれでない。その者の予後は良い。一方で腫瘍が消え残ることも多い。そんな彼女らを被験者として2群に分け,カペシタビンを用いた術後抗癌薬治療の効果を無病生存期間(DFS)で比較したRCTが③である。結果としてDFSはもとより,統計学的有意差をもってOSをも改善させた。そして,標準治療が変わった。

 適切な患者層を選択し(③では腫瘍が消え残った者のみ選別し,対象を“濃縮”した),有効な薬剤を用いたおかげで,さらに多くの女性が癌から解放されることになった。医学が発展していくためには,伸びしろを見いだす判断力と,臨床試験の企画・遂行という「硬い板をくり抜くような」熱意が必要である。臨床医の「まあ,こんなもんだろう」という惰性では,なし得ない業である。

 生地が医学であるとすると,染めた生地を仕立てるのが医療である。個々人に合わせ仕立て上げる医療のため,生地と糸に聡くありたい。


谷 憲三朗(東京大学医科学研究所ALA先端医療学社会連携研究部門分野長・特任教授)


①Dzierzak EA, et al. Lineage-specific expression of a human beta-globin gene in murine bone marrow transplant recipients reconstituted with retrovirus-transduced stem cells. Nature. 1988;331(6151):35-41.[PMID:2893284]

②Hacein-Bey-Abina S, et al. Sustained correction of X-linked severe combined immunodeficiency by ex vivo gene therapy. N Engl J Med. 2002;346 (16):1185-93.[PMID:11961146]

③Urnov FD, et al. Highly efficient endogenous human gene correction using designed zinc-finger nucleases. Nature. 2005;435(7042):646-51.[PMID:15806097]

 1970年代後半から医学領域での組み換えDNA研究は目覚ましい進展を遂げました。学生時代,硬式テニスに明け暮れていた私が,当時のECFMG(Educational Commission For Foreign Medical Graduates)やVQE(Visa Qualifying Examination)を無謀にも受験した際に,多くの分子生物学関連問題に遭遇した驚きは今も新鮮に脳裏に刻まれています。

 横須賀米海軍病院で全科ローテートインターンを経験したのち,大学院生として東大医科研・三輪史朗教授のご指導のもと,赤血球酵素異常症に関する研究をタンパク質・酵素学レベルで行いました。その後,大学院生期間の1982年から2年間,米シティオブホープ医学研究所・吉田昭部長のご指導下で,ヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)遺伝子のプロモーター遺伝子やPGK偽遺伝子のクローン化,ヒトアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)1&2型cDNA遺伝子のクローン化に世界に先駆けて成功しました。

 帰国後には,三輪先生のライフワークであったヒトピルビン酸キナーゼ(PK)のcDNAクローン化に成功しました。その翌年に発表されたのが①です。ヒトβグロブリン遺伝子を発現する組み換えレトロウイルスベクターをマウス造血幹細胞に導入,マウスに骨髄移植し,マウス赤血球でヒトβグロブリンの発現を確認しました。造血幹細胞遺伝子治療を示唆した画期的な研究成果です。私たちはこの方法をPK異常症の治療に応用すべく,PK遺伝子発現オンコレトロウイルスベクターを用いたマウスレベルでの研究を行い,その可能性を示しました。

 この結果を契機に①の研究責任者R. Mulligan博士と共同研究を開始しました。東大医科研病院において浅野茂隆病院長のご支援のもと,日本初の「がんに対する遺伝子治療」として,ヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM―CSF)遺伝子発現オンコレトロウイルスベクターによる遺伝子導入培養自己腎癌細胞ワクチンを用いた転移性腎癌患者に対する遺伝子治療第I相臨床試験を実施しました。

 一方,この間にフランスのA. Fischer博士らにより,Mulligan博士開発のオンコレトロウイルスベクターを用いたX連鎖重症複合免疫不全症に対する共通γ鎖遺伝子導入自己造血幹細胞移植によってT細胞再構築が起こることで,移植2年後には免疫不全から回復したと②で発表されました。遺伝子治療技術が難病の治癒をもたらし得る治療法になったことに深く感銘を受けるとともに,私が行ってきた研究を将来的に患者さんへ届けないといけないと決意を新たにしたことを覚えています。

 しかしその後の経過観察において,レトロウイルスベクターが染色体遺伝子内に組み込まれたためと判断される白血病発症の報告があり,ゲノム毒性の観点からオンコレトロウイルスベクターを用いる遺伝子治療への警鐘が鳴らされました。当時の遺伝子治療技術は,治療を要する異常遺伝子とは異なる遺伝子領域に治療遺伝子を挿入する遺伝子補充法が主流でした。相同組み換え法を用いた真の遺伝子置換技術はマウスES細胞にしか有用ではなく,臨床レベルに達していませんでした。

 その中で高効率なヒト体細胞の遺伝子改変方法の開発が③で報告されました。この方法では,新規zinc―fingerヌクレアーゼタンパク(染色体の特異配列を認識するzinc―fingerタンパクに二重鎖切断を行うヌクレアーゼドメインを付加したもの)を遺伝子改変により核内に発現させ,同時に導入した染色体外ドナーDNAとの相同組み換えを起こさせます。遺伝子異常を高効率に修復できると示した革命的と言える論文です。真の遺伝子治療が可能になったと実感し,新たな時代の幕開けを肌で感じ身震いしたことを覚えています。

 その後,TALEN法やCRISPR―Cas9法も続いて開発され,これらのゲノム編集技術を用いて,多くの難治性疾患への応用研究がなされています。その礎とも言える先見性の高い論文です。

 現在,遺伝子治療薬も医療の一角を担うものとなってきています。この機にこれらの論文を改めて読み,遺伝子治療開発の歴史を感慨深くたどりました。


藤沼 康樹(医療福祉生協連 家庭医療学開発センター長)


①Candib LM and Gelberg L. How will family physicians care for the patient in the context of family and community?. Fam Med. 2001;33(4):298-310.[PMID:11322523]

②Gabbay J, et al. Evidence based guidelines or collectively constructed “mindlines?” Ethnographic study of knowledge management in primary care. BMJ. 2004;329(7473):1013.[PMID:15514347]

③Reeve J, et al. Generalist solutions to complex problems:generating practice-based evidence-the example of managing multi-morbidity. BMC Fam Pract. 2013;14:112.[PMID:23919296]

 家庭医としての私が読む論文には2種類ある。1つは,例えば高血圧症や糖尿病,骨粗鬆症や認知症などの日常病等のケアに関する知識と技術のアップデートや日常診療で生じた疑問を解決するための論文である。この分野の論文は,いわばdoingに関するものといえるだろう。

 もう1つは,「家庭医とはナニモノなのか? 何をするプロフェッショナルなのか,その卓越性はどこにあるのか」に関する理論的(広い意味での哲学的)論文である。いわばbeingに関する論文である。

 この20年で家庭医としての自分の在り方に大きな影響を与えたbeingに関する印象深い3編を紹介したい。

 ①米国の女性家庭医のレジェンド2人による,家族と地域の文脈でどう患者をケアするかに関する総説的な解説で,米国家庭医療の最も良質な部分を知ることができる。著者のCandibはフェミニズムの立場からの家庭医療の実践で著名であり,Gelbergはホームレスのケアに関する実践と研究でよく知られている。社会的に弱い立場にある人のケアに取り組んだり,健康の社会的決定因子を重視した診療をしたりすることが家庭医療の本来の姿であると力説する。私自身,さまざまな迷いが生じたときに家庭医の素心を確認する目的で,よく読む論文である。

 ②Gabbayらは英国のプライマリ・ケア診療のエスノグラフィー研究を約9年間にわたって行い,非常に興味深い結果を報告している。彼らが見いだしたのは,家庭医の臨床的な判断は,いわゆる診療ガイドライン(マニュアルのような意味で使われている)ではなく,マインドライン(mindlines)と呼ぶものに従っているとのことだった。このマインドラインは著者らの造語である。「診療マインドライン(clinical mindlines)」とは,どういうものだろうか? それは,内在化され,集合的に強化された暗黙知の,臨床家が自身の診療のガイドにするものだという。これは漠然と「経験」と語られてきた家庭医の知恵の構造をあらわにする研究で,質的研究のすごみを感じることができる。マインドラインを考慮に入れない生涯教育プログラムの有効性にはおそらく限界があるはずだ。

 ③現時点では家庭医,さらにはgeneralistの卓越性(専門性ではない)に関して,最も野心的かつ喚起的なアプローチを行う研究グループによる論文。高齢社会を迎えた先進国におけるヘルスケアの最大の課題の1つである多疾患併存(multimorbidity)のケアの方法を理論的に提案している。彼らの背景には深い大陸哲学の伝統が感じられる。哲学・思想,社会科学などの諸領域との接続がスリリングであり,しかも明日から使える診療モデルの提示となっているところが素晴らしい。


坂元 晴香(東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻国際保健政策学分野 特任研究員)


①Jamison DT, et al. Global health 2035:a world converging within a generation. Lancet. 2013;382(9908):1898-955.[PMID:24309475]

②Jamison DT, et al. International collective action in health:objectives, functions, and rationale. Lancet. 1998;351(9101):514-7.[PMID:9482466]

③Ikeda N, et al. What has made the population of Japan healthy?. Lancet. 2011;378(9796):1094-105.[PMID:21885105]

①国際保健の必要性を教えてくれた論文

 1990年頃,保健医療分野への資金配分は社会への負担と見なされ,十分な資金が割り当てられませんでした。それに一石を投じたのが1993年に世界銀行が発表した『World Development Report 1993――Investing in Health』です。この報告書は,「保健医療に十分な費用を割くことは社会の負担ではなく,むしろ持続的な社会発展のために必要な投資」だと説きます。この報告書がきっかけとなり,以降保健医療分野への資金が劇的に増加しました。

 ①は,報告書が出された20年後に発表されました。近年の国際保健の概況について説明しつつ,保健医療分野への投資がいかに費用対効果に優れているか,そして持続的な社会発展のために保健医療分野への投資がなぜ必要かを改めて説明しています。今でこそ保健医療分野は国際協力の中でも資金を集める分野ですが,より良い社会のためになぜ保健医療が重要なのか,その原点を思い出させてくれる論文です。

②国際保健の本質を教えてくれた論文

 国際保健というとおそらく,先進国が途上国に対して技術支援を行うことと理解する人が多いのではないでしょうか。もちろん国際保健の一側面ですが,それだけではありません。

 この論文では,国際保健に携わる組織の主要な役割としてpromotion of international public goodsとintervention to deal with international externalitiesの2つを挙げています。具体的には,ワクチンや医薬品・ガイドライン等の国際社会における公共財産出の促進,感染症などの国境を越えて広がる脅威への対応です。さらに,protect health of vulnerable groupsやsupport development in countries,つまり従来国際保健の主要な役割として考えられてきた途上国支援は,あくまで補完的役割と説明しています。もちろん補完的役割も重要だと思いますが,国際保健の担う役割はそれだけではないこと,さらに「なぜ国際社会が協力して世界の人の健康に取り組む必要があるのか?」という本質的な問いに対する1つの答えをくれる論文だと思います。

③日本人として国際保健に関わる意義を教えてくれた論文

 2011年にLancet誌が日本特集号を組みました。その中の論文の1つです。

国際保健は先進国から途上国への一方向支援が主流だった時代もありましたが,現在ではいかに国際社会が協力して世界共通の保健課題に取り組むかという姿勢(双方向の協力体制)に変わりつつあります。そうした流れの中で,諸外国が日本の医療制度から何を学べるのか,逆に諸外国の医療制度から日本が何を学べるのか。これらの問いに答えるために日本の医療制度について深く知ることは,国際保健分野で働きたい人にとっては非常に重要になると思います。

 この論文では,日本人が長寿を達成した要因を国民皆保険制度,均質で平等な社会,政府の強力な管理責任の下で主要な公衆衛生介入手段への投資が積極的に勧められたこと等が挙げられています。日本での成功事例が必ずしも他国にそのまま当てはまるわけではないですが,それでも日本での取り組みが参考になることも多いと思います。今回は1編しか取り上げませんが,日本特集号はさまざまな切り口から日本の医療制度を分析しています。ぜひ全編読んでみてはいかがでしょうか。

 特に国際保健の分野は日本語での情報がとても少ないので,ぜひ,少しずつでも英語の論文も読み進めてほしいと思います。自分の価値観を変える論文,将来の進路に役立つ論文など,多くの論文との素敵な出会いが待っているはずです。


猪原 拓(デューク大学デューク臨床研究センター)


①Chan PS, et al. Appropriateness of percutaneous coronary intervention. JAMA. 2011;306(1):53-61.[PMID:21730241]

②Tsugawa Y, et al. Quality of care delivered by general internists in US hospitals who graduated from foreign versus US medical schools:observational study. BMJ. 2017;356(j273).[PMID:28153977]

③Yeh RW, et al. Parachute use to prevent death and major trauma when jumping from aircraft:randomized controlled trial. BMJ. 2018;363(k5094).[PMID:30545967]

 ①安定狭心症に対する経皮的冠動脈形成術(PCI)の施行は薬物療法と比較して,患者の生命予後改善に寄与しないとするCOURAGE試験(N Engl J Med.2007[PMID:17387127])の結果が発表されて以降,安定狭心症に対してPCIの施行およびステントの使用が過剰に行われているのではないかという懸念が生じました。本論文は米国のPCIに関するデータベース(CathPCI Registry®)を用いて,実臨床で安定狭心症に対して施行されたPCIの適応の適切性を後ろ向きに検証したものです。米国で安定狭心症に対して施行されたPCIのうち,実に12%が「不適切」な適応のもとに施行されていたことが明らかになりました。

 この結果は米国でかなりセンセーショナルに取り上げられ,PCI適応の適切性に関するフィードバックの定期的な実施,不適切なPCIに対する公的保険からの支払い拒否などの対応につながりました。これにより,不適切なPCIの割合は劇的に減少し,安定狭心症に対するPCIの絶対数も減少するなど社会にインパクトを与えました。

 この論文は「医療の質の検証」というライフワークを私にもたらしてくれた意味において,まさに自分のキャリアに道標を与えてくれた1編です。さらにこの論文がきっかけとなり,日本においても学会が主体となって安定狭心症に対するPCIの「標準化」「適正化」が議論されるようになりました。安定狭心症に対するPCIの診療報酬算定要件の変更へとつながったという意味で,本邦の循環器診療に対しても計り知れない影響を与えたと言えます。

 ②私が米国に留学を開始して間もなくトランプ政権が誕生し,移民政策を取り巻く環境は劇的に変化しました。ビザ発給要件の厳格化などの声が上がるようになり,当時は米国生活に漠然とした不安を感じていました。

 そんな時,この論文が発表されました。筆頭著者は研修医時代の先輩でもある津川友介先生。米国の公的保険データベースを用いて,米国外の医学部出身の医師が治療を担当した場合には米国の医学部出身の医師が治療を担当した場合と比較して,各疾患における死亡率が有意に低いことが示されました。私は米国で臨床業務に携わっているわけではありませんが,米国に他国からやって来て多少なりとも“外国人”としての疎外感があり,不安な日々を過ごしていた1人の研究者として,この論文に大いに勇気をもらったことをはっきりと覚えています。

 ③臨床医学のエビデンスを考える際に,RCTがエビデンスレベルの最高峰に位置することに異論の余地はありません。しかしながら,RCTにて得られた結果が実臨床に外挿,一般化できるかは慎重に吟味する必要があります。

 本試験は,そのようなRCTの落とし穴を「飛行機から飛び降りるときパラシュートを使用することで,死亡や致死的な外傷を防ぐことができるか?」というresearch questionによって“真面目に”RCTを用いて検証した研究です。結果は,パラシュートを使用してもしなくても死亡および致死的な外傷は発生しなかったというものでした。

 ただし実施された場所が「地上に止まっている飛行機」だったという点がミソで,そのように限定された環境において実施されたRCTの結果を盲目的に一般化することの問題点をわかりやすい例を用いて提起したと言えます。エビデンスレベルの優劣だけで判断せず,RCTと観察研究は相補的に考えるべきだと再認識させてくれました。今後も観察研究のデータベースを用いた研究を自分の中心に据え,なりわいにしていこうと決意を新たにしました。

 論文には,それまで当たり前だと思われていた日常臨床を大きく変えてしまう力があります。さらに時には学術面のみならず,読者の人生そのものにも大きな影響を与えてくれることもあります。研究者の端くれとして,私も誰かの人生を突き動かせるような研究ができるように精進したいと思います。


野中 康一(埼玉医科大学国際医療センター 消化器内科 准教授)


①Dagher R, et al. Approval summary: imatinib mesylate in the treatment of metastatic and/or unresectable malignant gastrointestinal stromal tumors. Clin Cancer Res. 2002;8(10):3034-8.[PMID: 12374669]

②Kudo S, et al. Colorectal tumours and pit pattern. J Clin Pathol. 1994;47(10):880-5.[PMID:7962600]

③Hara T, et al. Efficacy and safety of fluorescein angiography with orally administered sodium fluorescein. Am J Ophthalmol. 1998;126(4):560-4.[PMID:9780101]

 医学書院から突然この記事の依頼が届いた。意味がよくわからない。過去に執筆された先生方の記事を参考にいただいたが,各分野で著名なそうそうたるメンバーである。自分は分不相応である。見た目もチャラいし,全国で若手内視鏡医に「『モテる内視鏡医』をめざして頑張ろう!」と変な啓発活動をしているただの内視鏡医である。

 そもそも,論文なんてそんなにたくさん読んでいない。IFが高くてエビデンスレベルが高い論文が全て正しいとも思っていない。私も論文を査読する立場になり,その思いは強くなるばかりである。それよりも,独創性に優れ,人がやらないことを検討した論文に興味が引かれる。個人的には,日本人内視鏡医が長い年月をかけてデータを蓄積し,細かすぎる検討を行い,日本語で書かれた『胃と腸』誌がIFは最も高いと思う(実際にはIFはない)。

 この依頼自体を断ろうと思ったが,私の人生を変えた論文が数本あることは間違いない。医師人生を振り返る意味でも面白そうな気がしてきたので,この依頼を引き受けることにした。

 ①は私が研修医時代に初めて読んだ論文である。当時入局した某大学病院で指導医に読むように渡され,なぜ,日本人がカッコつけて英語の論文を読まなければいけないのかとイラっとしたのをいまだに覚えている。

 私が初めて担当した患者の治療に関する文献であった。女性の胃GIST症例で,おびただしい数の肝転移を認め,複数の病院で治療法がなく,大学病院に紹介された。

 慢性骨髄性白血病の分子標的治療薬であるイマチニブ®が切除不能なGISTに効果があるとの報告(①)を読んで,当時所属していた大学病院でも初めての投与を検討することになった。当時は国内での使用報告がほとんどなく,投与量も手探りであった。副作用に浮腫があると論文で読み,注意をしないといけないと思い,患者に毎日体重を測定してもらったのを記憶している。

 その後イマチニブ®が劇的な効果を見せ,患者も主治医も医療の素晴らしさに感動したのを鮮明に覚えている。抗癌薬治療自体が,数か月患者の余命を延ばすだけの治療だと思っていた当時の私の考えを180度転換させた。医師が論文を読み勉強することで,患者の人生に大きな影響を与えられるという成功体験になった。その後かなり長期の間ご存命でお元気であったと,つい先日,当時の指導医に教えてもらった。

 ②は私自身が消化器内科の中でも内視鏡分野に進むきっかけとなった,内視鏡診断学(pit pattern診断)に関する論文である。日本人内視鏡医と日本の内視鏡診断学のすごさを地方・秋田から発信し,世界中に知らしめるに至った,現在の日本内視鏡業界の礎となる研究・論文である。

 工藤進英先生のpit pattern分類はさらに進化し,非腫瘍・腫瘍の鑑別から,腺腫・癌の鑑別,癌の深達度診断まで可能となった。Pit pattern診断から,500~1000倍の超拡大内視鏡診断へと発展し,それをもとにAIが診断する時代へと突入しつつある。私自身が,日本人でも,大きな大学病院に所属していなくても,努力すれば必ず世界と勝負できる内視鏡医になるチャンスがあると信じてやってこられた,全てのエネルギーの根源となる論文である。

 2009年の講演会後に工藤先生からサインをいただき,2016年には工藤先生が年に1度横浜で開催する世界最大級の内視鏡ライブで超拡大内視鏡のデモンストレーションをさせていただいた。この論文に感謝したい。

 ③最後に紹介したいのがこの論文である。全く専門外の眼科の論文である。なぜこの論文を紹介したいのか。それはこの論文のおかげで,こんなに見た目もチャラく,年も若い自分が,大学病院で今のポストに就くことができたからである(もちろん他にもそこそこ努力はしたが……)。

 2013年に国内で先駆けて1000倍の倍率で組織をリアルタイムに観察し得る共焦点内視鏡の研究を始めた。共焦点内視鏡検査において,当時はフルオレセインという蛍光色素剤の静脈投与が必須と考えられていた。フルオレセインの静脈投与は外来での眼底検査では一般的に行われているが,消化管内視鏡検査時は保険収載されておらず,共焦点内視鏡検査普及の高いハードルとなっていた。

 この状況を打破すべく,代替法の研究を開始した。PubMedでフルオレセインに関する全ての論文を検索した。その時,目に留まったのが③である。その時の衝撃は今でも忘れられない。

 1787人にフルオレセインを服用させ,眼底検査が安全に行えるかを検討した論文である。結論は,眼底検査は可能,副作用は軽微な合併症を1.7%に認めたのみであった。フルオレセインは消化管から吸収され,血管を循環する可能性を示すものであった。

 この論文を基に,極微量のフルオレセインを消化管粘膜に滴下するだけで共焦点内視鏡検査が可能だと世界で初めて証明した。消化管粘膜から吸収されることも凍結標本で証明した。さらに余談にはなるが,その研究の過程で,われわれが普段使用している黄色の入浴剤はフルオレセインによる着色だと気付き,入浴剤を溶かした水を消化管粘膜に滴下しても共焦点内視鏡検査が可能だと自分自身の体で示し,論文で発表した。バカげた論文だと思われるだろうが,当の本人は真剣に研究を行っていた。最終的には,安全な食品添加物の水溶液を消化管粘膜に滴下することで共焦点内視鏡検査が可能であると証明するに至った。

 たった1本の眼科領域の論文が5年間の研究につながった。この論文と著者にこの場を借りてお礼を申し上げたい。

 上記の3編が私の人生を左右したのは明確である。若手医師に伝えたいメッセージは,いわゆるIFの高いジャーナルを読むことも必要であることだ。さらに高みをめざすのなら,衝撃を与えてくれる論文を自らの手で探し当てたい。ぜひ自分の気になる単元をPubMedで検索するクセを付けてほしい。

 私の部下,勉強会参加者に毎回言っていることがある。「モテたい」気持ちを失ったら,医師は向上しないと。私が医学書院から出版した『上部消化管内視鏡診断マル秘ノート』(通称,モテ本)が異常なほど売れていることから考えると,まだまだモテたいと思っている医師は多いようだ(笑)。

 最後に1つだけ,この場を借りて弁解させていただきたい。モテるの意味は,『上部・下部消化管内視鏡診断マル秘ノート2』(モテ本2)の「はじめに」に記載したように

・内視鏡医としてモテたい(患者に尽くし,信頼されたい)
・カンファレンスでモテたい(説得力を持ちたい)
・部下にモテたい(尊敬されたい)
・上司にモテたい(一目置かれたい)

のような全ての思いを含む。私の風貌から「異性にモテたいチャラい医師」だと勝手に想像するのはやめていただきたい。