医学界新聞

連載

2018.04.16



目からウロコ!
4つのカテゴリーで考えるがんと感染症

がんそのものや治療の過程で,がん患者はあらゆる感染症のリスクにさらされる。がん患者特有の感染症の問題も多い――。そんな難しいと思われがちな「がんと感染症」。その関係性をすっきりと理解するための思考法を,わかりやすく解説します。

[第23回]血液腫瘍と感染症③ 悪性リンパ腫と感染症

森 信好(聖路加国際病院内科・感染症科副医長)


前回からつづく

 前回までは白血病と感染症についてお話ししました。今回は悪性リンパ腫における感染症についてご説明します。

 悪性リンパ腫は日本人において年間10万人当たり10人程度の罹患率であり1),最も多い血液腫瘍ですので皆さんも診療する機会はある程度多いかもしれません。

 本連載の読者は覚えていらっしゃると思いますが,第12回(3224号)で強調したように,悪性リンパ腫は「疾患そのもの」で「細胞性免疫低下」を来します。特にT細胞リンパ腫,なかでも血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(Angioimmunoblastic T-cell lymphoma;AITL)と成人T細胞白血病・リンパ腫(Adult T-cell leukemia/lymphoma;ATLL)はその最たる例でしたね。今回はその他の悪性リンパ腫で見られる感染症について症例をベースに一緒に考えていきましょう。

ベンダムスチンと感染症

症例1
 難治性の濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma)に対してベンダムスチンおよびリツキシマブで治療中の66歳女性。3コース目の12日目より38℃の発熱,乾性咳嗽および呼吸困難が出現したため受診。その他,頭痛,鼻汁,咽頭痛,喀痰なし。嘔気・嘔吐,下痢なし。尿路症状なし。関節痛,筋肉痛なし。
 意識清明,血圧130/72 mmHg,脈拍数90/分,呼吸数20/分,体温37.6℃,SpO2 93%(RA)。好中球数1100/μL,リンパ球数200/μL。その他,肝機能,腎機能,電解質などは正常。LDH 634 IU/Lと高値。
 身体所見では頭頸部,胸部,腹部,背部,四肢に異常なし。胸部CTで両側肺野にすりガラス陰影を認める。

 本症例はまず濾胞性リンパ腫そのもので「細胞性免疫低下」が起こっています。さらに今回はベンダムスチンとリツキシマブを使用していますのでそれぞれによる免疫不全が重なっています。リツキシマブについては第15回(3235号)でお話ししたように軽度の「液性免疫低下」がメインでしたね。

 では,ベンダムスチンはどのようなインパクトを与えるでしょうか。実はベンダムスチンは,本連載でも紹介した「注意を要する薬剤」であるプリンアナログ(フルダラビン)同様,高度の細胞性免疫低下を来しますので,これを機にぜひ覚えていただきたいと思います。

 ベンダムスチンは細胞傷害性の化学療法でアルキル化剤に分類されますが,濾胞性リンパ腫やマントル細胞リンパ腫などに対する治療薬として近年注目されています。従来のR-CHOP療法と比較して全生存期間に有意差はないものの,無増悪生存期間は有意に長いことがその理由です2, 3)

 さて,ベンダムスチンではどのような免疫不全が起こるのでしょうか。まず,他の細胞傷害性化学療法と同様に「バリアの破綻」と「好中球減少」が見られます。また,低ガンマグロブリン血症による「液性免疫低下」も知られています。ただ,もっとも重要なのはCD4陽性T細胞(CD4)の減少に伴う高度の「細胞性免疫低下」です4)

 CD4はベンダムスチン1コース投与後から200/μLを下回り,治療終了後も7~9か月はCD4減少が遷延することがわかっています5)。そのため,......

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