医学界新聞

連載

2016.10.03



ここが知りたい!
高齢者診療のエビデンス

高齢者は複数の疾患,加齢に伴うさまざまな身体的・精神的症状を有するため,治療ガイドラインをそのまま適応することは患者の不利益になりかねません。併存疾患や余命,ADL,価値観などを考慮した治療ゴールを設定し,治療方針を決めていくことが重要です。本連載では,より良い治療を提供するために“高齢者診療のエビデンス”を検証し,各疾患へのアプローチを紹介します(老年医学のエキスパートたちによる,リレー連載の形でお届けします)。

[第7回]ポリファーマシー,どう考える?

許 智栄(アドベンチストメディカルセンター 家庭医療科)


前回よりつづく

症例

 83歳男性。心不全の増悪による入院に伴うADL低下で施設入所となった。併存疾患として,高血圧,糖尿病,脂質異常症,狭心症,心房細動,肥満,腰部脊柱管狭窄症,慢性膝関節炎。処方薬は以下の通り(投与量・回数は略)。

ビソプロロール,アムロジピン,トラセミド,メトホルミン,ピオグリタゾン,ロスバスタチンカルシウム,アスピリン,ロキソプロフェンナトリウム,レバミピド,ランソプラゾール,エチゾラム,プレガバリン,リスペリドン(13剤)。


ディスカッション

◎何が問題なのか?
◎どう対処すればいいのか?

 「ポリファーマシーは問題」という考えが広く受け入れられるようになったことは喜ばしいことである。しかし,慢性疾患を複数抱えることが多い高齢者の診療では,現実問題として処方せざるを得ないことも少なくない。そのため,現場の多くの医師が「こんなに処方していいものなのか?」と悩んでいるのではないだろうか。今回は,“ポリファーマシーの問題”を整理し,日常診療での対応について考えてみたい。

問われているのは“数”ではなく“質”

 ポリファーマシーは一般的に4~6剤以上という定義1)を認めることが多いものの,実はその定義ははっきりしていない。また誤解を恐れずに言えば,具体的な弊害についても質の高いエビデンスがそろっているわけではない2)。ポリファーマシーが本当にアウトカムに影響しているのか,単にポリファーマシーにつながる基礎疾患の多さが原因で予後が悪くなっているのか,まだ明確な結論に至っていない。実際,ナーシングホーム患者を対象に2年間の死亡率を調べた研究3)では,薬剤「数」の多さと死亡率に相関は認められておらず,「数」のみで弊害を論じることは非常に危険である4)

 スコットランドで行われた約18万人のコホート研究5)によると,確かに処方薬剤数が多いほど,予定外入院のオッズ比は増加傾向にある。しかし,抱えている疾患の数が増えるほど,その危険度は低くなるばかりか,疾患を4つ以上有する患者においては,処方しない群よりも薬剤を9剤まで使用している群のほうが,予定外入院の危険が低くなっている。つまり,基礎疾患がそれほどない場合には“ポリファーマシー”は不利益となるが,複数疾患を有する患者においては,予後改善の効果(入院回避)が認められることが示唆されている4)。以上から,単に“数”ではなく“質”,つまり臨床状況と薬剤使用の関係が問題であることがわかる。この質の問題は,大きく2つに分けることができる。

❶不適切な薬剤(危険度の高い薬剤,薬物相互作用,適応のない薬剤)の使用
❷適応すべき薬剤の未使用

 では,数は全く関係ないかというと,そうでもない。65歳以上の外来患者196人を対象に処方の質を検討した研究では,処方数に比例して❶は増加傾向にあったのに対し,❷は一定であった6)。この研究では,8剤以上の内服では❶の危険が高く,8剤未満では❷の危険が残ることが示されている。つまり,数は「どのような質の問題が起こりやすいか」を判別するための参考になると言える。

どのように問題を認識するか?

 処方数から❶や❷の危険を予想した後は,具体的にそれぞれの不適切処方(あるいは足りない処方)を確認していく作業が必要になる。日本においては,昨年発表された『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』(日本老年医学会)を参考にするのが妥当であろう。このガイドラインは❶にも❷にも対応...

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