医学界新聞

連載

2015.04.20



クロストーク 日英地域医療

■第6回 地域へアウトリーチする専門家チームの存在

川越正平(あおぞら診療所院長/理事長)
澤 憲明(英国・スチュアートロード診療所General Practitioner)
企画協力:労働政策研究・研修機構 堀田聰子


前回からつづく

日本在宅医と英国家庭医──異なる国,異なるかたちで地域の医療に身を投じる2人。現場視点で互いの国の医療を見つめ直し,“地域に根差す医療の在り方”を,対話[クロストーク]で浮き彫りにしていきます。


川越 前回(第3115号)に引き続き,かかりつけ医であるGPでは対処しきれない患者の場合や,患者側からより高度な医療を希望された場合について伺っていきます。今回は,GPと二次・三次医療の専門医がかかわるケースに焦点を当てたいと思います。

 前回紹介したように,各専門職の役割は「ここまではGP,ここからは各科専門医が担う」と国のガイドラインによって明確にされています。もちろん,それが画一的に実行されているわけではありません。治療方針の決定は,患者・家族と,サービス利用者の「代理人」を担うGPとの二人三脚で行われるべきものというのが,われわれの共通理解です。紹介の必要性の有無についても,ガイドラインを基本線にケースバイケースで行われているのが前提となっています。

病院での治療方針の相談にGPが対応することも

川越 第4回(第3113号)では,診療所間で電子カルテによる情報共有が進んでいることを紹介してくださいました。同様に,診療所と病院との間の情報共有も電子カルテでなされているのですか。

 多くの病院で電子カルテが導入されつつあるようですが,私の地域の病院は紙カルテがまだ主流です。ただ,救急センターや急な問題を受け入れる病棟には,診療所と同じタイプの電子カルテが導入されているので,病院から,GPが一括管理している患者情報にアクセスできるようにはなっています。

 情報共有という点では,診療情報提供書の一般的なやりとりの他,病院の専門医が治療方針の決定に苦慮する場合,担当患者のかかりつけ医であるGPに意見を求める,ということも行われていますね。「家族のいない高齢患者が急変して入院してきたのだが,意識がなく,コミュニケーションもとれない。集中治療室へ移送すべきか否かで悩んでいる。GPとしてどう思うか?」などの相談を専門医から受け,私が見解を述べたこともありました。

川越 それはGPに対し,二次・三次医療との橋渡し役を期待しているからこそなのでしょうね。

 そうですね。ホームドクターを持つ患者の「アドボケーター(擁護人)」としてのGPの役割と責任を,専門医は評価し,尊重しているからなのだと考えています。

アウトリーチする専門家たち

川越 中には,在宅で患者を診なければならないケースもあるはずです。GPが在宅患者を診る(第1回,第3100号)他,困難な事例への対応には専門チームによるアウトリーチも存在すると聞いたことがあります。

 私の地域でも,専門医,専門看護師を含む二次医療の多職種チームが,地域へのアウトリーチを行います。日常的な問題の対応はGPが担当し,それ以外の問題は専門チームがバックアップするシステムになっているんです。

 現在,日本在宅医学会が認定する在宅専門医試験の受験資格として求める報告症例は,(1)がんの在宅緩和医療,(2)認知症を含む高齢者ケア,(3)神経難病や臓器不全などの内部障害や小児若年障害者,の3領域が設定されていますよね1)。これに引き寄せて私たちGPと専門職チームとのかかわり方を考えてみると,(1)は地域の緩和ケア専門看護師,ホスピス,病院の腫瘍専門医を含む多職種チーム,(2)の場合,認知症は認知症専門の初期集中支援チームと二次医療のメンタルヘルスチーム,それ以外の高齢者ケアは老年病専門の多職種チーム,(3)は各疾患に応じた二次・三次医療の多職種チーム,と協力しながら対応すると言えます。

川越 高齢化の進んだ日本では心不全やCOPDなど,複数の疾患を抱える高齢患者も多く存在しま...

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