「ギョッとする話」(青柳有紀)
連載
2015.02.09
Dialog & Diagnosis
グローバル・ヘルスの現場で活躍するClinician-Educatorと共に,実践的な診断学を学びましょう。
■第2話:「ギョッとする話」
青柳 有紀(Clinical Assistant Professor of Medicine, Geisel School of Medicine at Dartmouth/Human Resources for Health Program in Rwanda)
(前回からつづく)
今回も興味深い患者さんが来ているようです。さあ,診察室のドアをノックしましょう。
[症例]32歳男性,主訴:発疹。特記すべき既往歴なし。8日ほど前に,右手に直径5 mmほどの発疹が複数あることに気が付いた。放置していたが,やがて中心部分がただれたような感じになってきた。痛みはほとんどない。治る気配がないので心配になって来院した。明らかな外傷エピソードなし。発熱や,下痢などの消化器症状はない。以前に同じような症状が出たこともない。過去4年間,大学で事務の仕事をしている。薬は飲んでいない。サプリメントやハーブも使用していない。独身。酒やタバコはやらない。「ペット」は飼っていない。園芸もしない。先月は友人とコスタリカで休暇を過ごし,2週間前に帰国した。 受診時,体温36.2℃,血圧132/75 mmHg,心拍数64/分,呼吸数13/分,SpO2 98%(room air)。右手の甲と人差し指のつけ根を中心に,直径3-5 mmの発赤を伴う無痛性潰瘍性病変を複数認める。発赤部は結節性で固く触れる。右上肢以外に同様の病変は見当たらない。右上肢の滑車上リンパ節は触れない。右腋窩にもリンパ節を触れない。頭頸部,および胸部,腹部の診察では特に異常を認めない。 |
あなたの鑑別診断は?
皆さんはこの症例についてどう思うでしょうか? 既往歴のない患者さんに見られた,右上肢の潰瘍性皮膚病変です。潰瘍性皮膚病変の鑑別診断はかなり広く,そこからアプローチしようとすると収拾がつかなくなってしまいそうです。そこで,まず無痛性であることに注目してみようと思います。それから,片側性であるということも手掛かりになりそうです。病変が何らかの全身的な病的プロセス(例:血管炎など)の表現だとすれば,両側性であってもいいからです。Toxicな様子もなく,全身症状に乏しいことからも,限局性のプロセスを示唆するように思います。
そういえば,患者さんの利き手はどちらですか? 右手であれば,この患者さんが何かに「触れた」ことが契機になっているかもしれません。片側性で全身症状に乏しく,かつ利き手に限局した皮膚病変であれば,やはりdirect inoculation(病原体が直接患部に植えつけられること)を契機とした感染の可能性がより高いように思えます。
何だか鑑別診断がだいぶ限られてきた気がします。
スポロトリコーシス(患者さんは園芸の趣味はないって言っていたけど)? 皮膚リーシュマニア症(確かコスタリカは流行地だったような)? ノカルジア症(特に免疫不全に関連した既往があるとは言っていなかったけどまさか)? もしかして皮膚ジフテリア(しまった,予防接種歴を聞いてなかった)? ひょっとしてブルーリ潰瘍(確か他にもこういう症状で来る非結核性抗酸菌症があったけど思い出せない……)?
D & D
指導医が診察室に入ってきました。あなたのプレゼンテーションを聞いた指導医が,患者さんにいくつか質問しました。
「コスタリカで蚊に刺されたりしましたか?」
「いいえ。特に虫に刺されたりしたことはなかったです」
「患部にバラのとげだとか植物が触れたりしたようなことはありましたか?」
「いいえ」
「家に水槽がありますか?」
「熱帯魚を飼って半年になります」
「(!)」
診察室を出ると,指導医があ...
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