医学界新聞

連載

2014.07.14

在宅医療モノ語り

第51話
語り手:臨機応変に吸いとります 
尿とりパッドさん

鶴岡優子
(つるかめ診療所)


前回からつづく

 在宅医療の現場にはいろいろな物語りが交錯している。患者を主人公に,同居家族や親戚,医療・介護スタッフ,近隣住民などが脇役となり,ザイタクは劇場になる。筆者もザイタク劇場の脇役のひとりだ。往診鞄の中,往診車の中,患者さんの家の中,部屋の中……在宅医療にかかわる道具(モノ)を見つめていると,道具も何かを語っているようだ。

 今回の主役は「尿とりパッド」さん。さあ,何と語っているのだろうか?


パッケージも情報源
図式でかなり丁寧な説明付き。どんな人にオススメか,どんな特徴があるのか,記されています。使用後の処理の仕方や,医療費控除対象商品であることも明記。「心配ゼロの安心ケア」,コピーが泣かせますが,ゼロは難しいですね。
 自己調節は難しいし,尿の「1回量」なんて,普通わからないですよね。検尿の経験はおありですか? 出始めのところは捨て,軌道に乗ったところでカップにキャッチ。十分取れたら,あとはリリース。あれで一体どれくらいの量になるのでしょうねえ。

 私は,お店で市販されている尿とりパッドです。責任を持って“モノ”を確保しなければならないため,「1回量」をとても気にしています。尿が出る回数も,便が出る回数も人それぞれ。とはいえ,一般的に尿のほうが断然多いですよね。ですから,尿だけのときは私に吸収させ,取り替え,捨てる。経済的でもありますし,ズボンをすべて脱ぐことなく簡単に交換できます。

 お店では介護用オムツのお隣に陳列され,よく彼らと一緒に購入されています。売り場に来ると,私たちの種類の豊富さに驚かれると思いますよ。よく見ると,おしっこ吸収の目安2回分とか4回分なんて書いてあります。マメに取り替えられる昼間は容量小さめ,夜間は交換せずに寝ていられるように容量大きめ……といった使い分けもできるようです。あと,男性用・女性用・男女兼用とも書かれています。男性用の場合は突起物をしっかり包み込むスタイルで,女性用の場合は重力に従って下に流れるのを受け止めるスタイルと,構造により違いがあるのです。

 最近の商品は素早く尿を吸い込み,吸い込んだ尿が逆戻りしないように改良され,不快感を軽減する工夫もされています。漏れ出る危険性をさらに抑え込むため,ギャザーが付いていたり,ズレないようにテープが付いていたりすることもあります。隙間を埋めるように私を「蛇腹」折りにして挟み込む技術もあったりするみたいですね。私たちを使う皆さんも日々,試行錯誤を重ね,ベストな商品選びと使い方の開発を行っているのです。

 在宅ケアの現場では,尿とり以外の働きを求められることがあります。例えば,褥瘡などの傷の処置。浸出液が多い場合,私に出番が回ってきます。吸収は得意ですからね。私が直に創面に当てられることもありますし,穴あきポリエチレンさんなどと一緒に使われる場合もあります。傷を洗うときに下でその廃液をキャッチすることもあります。そういえば最近,「尿とり仲間」のペットシーツさんも活躍していて,よいライバル関係です。彼らのシンプルな作りと手ごろな価格が魅力的なようですね。

 こんな私ですが,デリケートな問題が絡む場面に出くわすことも多くあります。「シモの世話」というのは,するほうもされるほうも特別な感情が芽生えるようです。日に何度も直面する待ったなしの介護ですから。このあいだも,あるおばあさん,急にお茶を飲まなくなってしまいました。この暑さです。「脱水が心配だ」と,同居する息子さんも必死なのですが,なかなかコップのお茶は減りません。私が吸収した尿も,量が少なく濃縮しています。排尿の量を自己調節したとも思えません。一体どうされたのでしょう。このところ,息子さんも仕事が忙しいらしく,寝不足が続いているようでした。独身で介護を手伝ってくれる伴侶も兄弟もいません。もしかしたら,おばあさん,わざと飲む量を減らしたのではないでしょうか。ベッドで寝ていても,「母親」として息子の疲れを心配されていたのではないでしょうか。……私の考え過ぎだといいのですが。

つづく

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