一過性意識消失(黒川勝己)
連載
2014.06.02
こんな時にはこのQを!
"問診力"で見逃さない神経症状
【第9回】
一過性意識消失
黒川 勝己(川崎医科大学附属病院神経内科准教授)
(3076号よりつづく)
「難しい」「とっつきにくい」と言われる神経診察ですが,問診で的確な病歴聴取ができれば,一気に鑑別を絞り込めます。この連載では,複雑な神経症状に切り込む「Q」を提示し,“問診力”を鍛えます。
症例
患者:22歳,女性 主訴:意識を失った 病歴:子どもの運動会を見に行っていた。応援の合間にトイレに行き,戻るときに倒れた。一瞬意識を失っていた。前日の昼過ぎごろにも,歩いていてバタンと倒れて両膝を打った。その際にも一瞬意識を失っていたため,心配になり来院した。 |
患者は「一過性意識消失」を訴えて外来を受診しました。本連載第2回(第3051号)でも記載しましたが,一過性意識消失の主な原因は「てんかん」と「失神」であり,病態は異なるのですが,両者の鑑別は必ずしも容易ではありません。
てんかんといえばまず大発作を思い浮かべることが多いと思います。大発作であれば明らかなけいれん発作(強直間代発作)が見られますし,発作後のもうろう状態があります。次に,複雑部分発作であれば,けいれんはありませんが意識障害がある程度の時間続きます(第6回,第3066号)。一方,失神の場合はけいれんはあっても数秒程度,発作後の意識も短時間で回復することが多いです。したがって“けいれん発作の有無”や“意識消失の持続時間”は,てんかんと失神の鑑別上参考になります。
今回の場合は,意識消失は一瞬であり,もうろう状態もないようです。またけいれん発作もないと考えられます。つまり,てんかんの大発作あるいは複雑部分発作は否定的と考えられますが,では直ちに失神と断定してよいのでしょうか。
***
患者はこれまで動悸あるいは胸痛を自覚したことはなく,意識を失う前にも動悸や胸痛はなく,冷や汗・悪心・腹部不快感や眼前暗黒感もなかったという。意識消失について確認すると約1年前にも同様の意識消失を経験していたが,その際も何の誘因もなかったとのこと。血圧108/70 mmHg, 脈拍72/分・整,明らかな神経学的異常所見なし。12誘導心電図は正常所見であった。
失神は「心原性失神」と「非心原性失神」に大別されます。心原性失神はさらに,不整脈によるものと器質的心疾患によるものに分けられますが,いずれも予後不良な疾患が含まれますので,見逃したくありません。動悸や胸痛を自覚する場合もありますので,必ず確認することが重要と考えます。
一方,非心原性失神はいわゆる神経調節性失神のことをいい,血管迷走神経性失神,状況失神や起立性低血圧などが含まれます。これらは心原性失神と比較すると予後不良ではありません。疲労蓄積・暑熱暴露・運動直後・長時間の起立,あるいは排尿・咳嗽といった状況の確認や,疼痛・恐怖・驚愕など情動ストレスの有無の確認が大切になります。
本患者では動悸や胸痛はなく,12 誘導心電図も正常であり,直ちに,かつ積極的に心原性失神を支持する要素はないようです。一方非心原性失神に関しては,運動会を観戦していたことやトイレ後であったことからは生じ得る状況ではありますが,何の前触れもなく意識を失っている点は非典型的と思われます。
プライマリ・ケアにおいては,非心原性失神としては非典型的だと少しでも感じたなら,専門医に紹介することが望ましいと思います。心原性失神なら必ず動悸や胸痛が認められるわけではありませんし,診察時に不整脈がなく12誘導心電図も正常所見であっても,それだけで不整脈に...
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